黒鷲の旅団
22日目(23)リアルゲイザー
「みんな死んだ……死んだ、死んだ……!」
おい、大丈夫か。
ちょっと錯乱しているな。
現実側。公式オフ会の会場。郊外のビルの一室。
会場……だった場所、なのだが。
一体何がどうなっている。
会場とされていた一室は血の海だ。
生存者は2名。
俺の代わりに出向いていた同僚のバリー。
それと、柱の陰で蹲っていた、この娘だけだ。
状況。何があった。
オフ会の主催は、例の『7th Earth』運営チーム。
主催者の長い挨拶の途中で、バリーはトイレの為に退室。
戻って来たらこの惨状だったという。
凄い量の血痕だが、爆弾でこうはなるまい。
柱や調度品、皿一枚だって割れていない。
人間だけを狙い撃ちにしたみたいな……何だ?
情報が足りないな。
少女の方は落ち着かせないと話も聞けなさそうだ。
バリーは何か見ていないのか。
「いや、その……笑わないで聞いて欲しいっすけど。
あれはゲイザー型のボスだったと思うっす」
ゲイザー……って何だ。
ゲームの中のモンスター?
光線で攻撃して来る目玉の化け物らしい。
難易度中以上のダンジョン下層で出現する。
小ボスか中ボスくらい。まあまあの強敵だと。
バリーがトイレから戻ったら、会場が血の海で。
そのゲイザーが居て、慌てて逃げた。
暫くビビっていたのだが、何とかしなきゃと思い直して。
車まで戻って短機関銃を持って来て、掃射。
弾丸を浴びたゲイザーは光って消えた……という。
ゲームの怪物が出て来て会場を襲った?
何だか夢みたいな話ではあるが。
よく似せて作った殺人兵器の類かも知れない。
状況自体は、異世界云々を別にしても再現し得る。
ただ、思惑が分からない。
そんなモンを作ったとして、何故オフ会を襲う必要がある。
単に見せびらかしたいだけなら、動画で十分だし。
それを見て賞賛し得るのは、それこそオフ会参加者だろう。
褒められたい奴が褒める奴を殺す理由が無い。
暴走した、兵器として作ったつもりは無かった?
だとするなら、血の海の現状がおかしい。
兵器でないのに殺傷力を持たせる意味が無い。
あるいは……再現ではなく本物。
本当に異世界からモンスターが来たのだとして、だ。
それは果たして、誰が呼び出したんだ?
この大量殺人は思惑通りなのか、思惑が外れたのか。
呼び出した奴まで死んだのか、逃げたのか。
それと……光って消えたというのは、倒したのか?
「倒し……いや、分かんねっす。
不可視化して逃げた様にも……うーん」
撃ったバリーも首を傾げる。
まあ、現実世界に戦闘ログ表示は無いからな……
室内を見回す。何か無いか。
部屋の天井、監視カメラ。あれかな。
少女をバリーに任せ、俺は警備室へ。
監視カメラの映像を調べたい。
スクリーンの並ぶ部屋へ踏み入って。
しかし、俺はすぐ会場へ駆け戻った。
居る。まだ会場に居る。
録画を巻き戻して見るまでも無かった。
リアルタイムの映像の中。
外殻で覆われた眼球みたいな奴が居た。
監視カメラに映って肉眼には映らない何か。
光学迷彩? それとも魔法なのか。
いや、今その理屈はどうでもいい。
奴は視線でバリーを追っていた。
すぐ掛かって行かない理由は分からんが、危険だ。
バリーは少女を助けに柱の陰へ。
死角に隠れ、しかし出て来るのを待たれている様でもある。
放送で危険を知らせても、奴まで急に動くかも知れん。
奴がバリーを襲う前に一手打てるかどうか。
俺は拳銃を抜き、急ぎ会場へ飛び込んで。
やはり見えないが、当たりを付けて連射。
当たった。光学迷彩が揺らいで、怪物が姿を現す。
しかし効いているのかどうか。
「旦那、止まっちゃダメだ!」
柱の陰からバリーの助言。
咄嗟に右横転回避、逆側の柱の陰へ。
俺の居た場所をレーザーみたいなのが抉る。
床が分解されてボロボロと崩れて行く。
なるほど、光線攻撃。まるで分解魔法だな。
視界に入ると僅か数秒で消し炭だ。
大した破壊力だが、避けられなくはない。
バリーと互いに陽動を掛けられれば……
しかし、向こうは女の子連れだ。どうする。
――――キシュン。
不意に装甲を刀で斬る様な音がして。
柱の向こうを蠢いていた殺気が消えた。
「おーい、無事か?
一体何だね、これは」
柱の向こうから声。グラディスか。
外に待たせていたのが、異変を察知して来た様だ。
取りあえず斬ってから聞くとは無茶苦茶だが。
ひとまずは助かった。後で晩メシでも奢ろう。
治安維持部隊に連絡。現場の調査は任せよう。
俺達は保護した少女を家に送って行く。
落ち着いたらまた話を聞かせて貰おう。
……現実世界にゲームのモンスター、ね。
本当に、誰の思惑通りなのか何なのか。
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