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黒鷲の旅団
23日目(1)想定内の予想外

「あの、俺……ど、ど、どうしよう!」

 落ち着け、エリック。この程度は想定内だ。

 早朝、東区の酒場の前。
 仕事や金、支援を求める孤児達が集まって来ている。
 俺が手助けしてくれると、エリック達から聞いて来た。
 来ているんだが、数が多い。

 北区の少年兵経験者、グンター、リュシアン、メリカ。
 この3人はエリックも声を掛けた。
 南区からは、フィン、テッド、カリカ、サフィラ。
 この4人もまあ、顔見知りではある。

 ただ、それ以降がエリックの予想外。
 名前など解析しつつ、見ていこうか。

 北区の孤児の仲間。ユベール、イェスタ、アダリナ。
 南区の孤児からは、ギード、マルク。
 仲間が行くなら自分も、だ。
 そういう動きもあるだろうとは想像していた。

 更には孤児院に所属しない、ストリートチルドレンが16人。

 まずは少しガラの悪そうな、徒党を組んでいる8人。
 ロジェ、ティモ、バート、ジュリオ。
 ヨティス、ヒューゴ、ヴラスタ、イヴォナ。
 勝気そうな顔が多い。
 名を上げてやろう、といった気概もあるのだろう。

 それと別に、やや身なりの良い5人。
 身なりは良いが少しくたびれている。
 最近孤児になった町人、中流階級出身者だろう。
 キース、レイモンド、シプラ、リッツァ、シャノン。

 それとも別に、少し離れて集まっているのが3人。
 名前はキーア、ティルダ、リューリ。
 こっちは亜人種関係だろうか。
 2人は頭の上にケモノ耳がある。
 一番身なりが悪く、物乞い感が漂っている。

 よく見ると、全体に戸惑っているらしい顔もある。
 亜人種や不良少年風味、子供達同士で怖がっているだろうか。

 一緒に来たくないなら、と追い返すのは簡単だ。
 手間だけで見れば、その方が楽でもある。

 しかし、今ここに助けを求めに来た。
 被差別か遠慮か反発心か、理由はそれぞれだと思うが。
 神聖教会の庇護を受けられないか、支援が足りない。
 何かしら支援が必要だろう。

 貧窮度合いから支援の度合いを……
 いや、まずは本人の希望を聞こうか。
 こちらも条件を提示しなければならん。

 集合。集まった子供達を集め、話をする。
 来てくれた全員に何かしらの支援はする。
 無駄足だったなどという事が無い様にしたい。

 目下、提示する条件は3つ。
 亜人も魔物も関係無く、仲間とは仲良くする事。
 不調や異常は無理せず遠慮なく報告する事。
 手柄よりも安全を重視する事。
 この辺までは約束して貰いたい。

 やっぱり合わないと思ったら。
 その時は、物資だけ持って帰っても良い。
 食料と、弓。靴や衣類ぐらいは用意出来る。

 来てみて思ったのと違ったなら、すぐ言ってくれて良い。
 一日やってみて、あるいは途中で抜けても構わない。
 ただ、黙ってこっそり抜けないでくれよ?
 責めたりはしない。向き不向きだってある。
 何だったら、畑の収穫の仕事を与えても良い。

 抜けて帰った後、やっぱりやってみたくなったなら。
 魔女協会の受付に言えば連絡してくれるだろう。

 と、一度に話したが、この時点で何か質問は?

「あ、あの……ごはん」
「炊き出しは?」

 中層出身らしきシプラ、リッツァから。
 そうか……炊き出しと勘違いして来てしまったのか。

 うん、まあ、まずは朝食にしよう。
 朝食代を出すので、そこの酒場で何か食べなさい。
 その後の事は、落ち着いたら改めて話そう。

 冒険には気乗りしていないかも知れない。
 しかし、レベルが上がると人間種でも魔力が伸びる。
 魔法があれば仕事の幅が増える……考えどころだ。
 名を上げないまでも、狩りが出来れば生活の足しになる。
 なるべくなら参加して貰いたい。

 新人達に金額2千、銀貨2枚ずつ渡す。
 使い切らなくても良いが、何かは食べなさい。
 飛び道具がメインと言っても、それなりに移動して貰う。
 体力を使うと思って支度してくれ。

 グンター達、フィン達、ロジェ達、キース達。
 それぞれ纏まって移動し始める。
 そのまま小隊を組ませた方が連携が取れるだろうか。
 経験を育むなら、慣れない顔とも交流させるべきだが。
 まあ、その辺は今後の課題か。

「は、入って、いいのかな……」
「人間のお店……」

 ふと見ると、子供達の列の最後尾。
 入らずにいるのはキーア、ティルダ、リューリ。
 オドオドと酒場の中を伺っている。
 女将は亜人も気にしないと思うのだが。
 本人達の方が、人間が怖いのだろうか。

 お前さん達は何かしら、亜人種だな?
 声を掛けるとビクッとする。大丈夫だから。

 住む所はあるのか? 首を横に振るキーア。
 ティルダとリューリは路地裏に住んでいるという。

 この3人は最初から、入団扱いにしようか。
 みんな支援すると言えばするんだが。
 弱っている所にテコ入れしてバランスを取りたい。

 ひとまず、ついて来なさい。
 朝食は屋敷の方で。
 ああ、銀貨は返さなくていい。

 迎えも呼ぼう。通信魔法。
 ティルア、フレヤ、ジェマ。
 今ちょっと出て来られるか?



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