黒鷲の旅団
23日目(2)金の芋とケモノユニオン
「どうすんの、これ……」
「悪魔的だね……」
「ああーうー……むぅー……」
新人キーア達を連れて屋敷の敷地に戻ると、何だろう。
畑の所にイェンナとユッタ、アンゼさん。
難しそうに何を覗き込んでいるかと思えば、甘藷だった。
甘藷。スイートポテト。サツマイモとも。
花人達の農耕魔法で生えて来た様だ。
この辺じゃ見た事が無かったかな。
外の皮の色味が、ジャガイモに比べて毒々しいだろうか。
しかしまあ、食って大丈夫な物だ。
甘藷は加熱すると甘みを増す。
まずは火で炙ってみようか。
「ええー、それどうなの?」
「え、ダメだった?」
新品キラキラの騎兵剣に甘藷をブッ刺すイェンナ。
鍛冶屋の孫的に、ユッタは少し気が咎める様だが。
まあ、すぐ後で奇麗にしておいたら良いんじゃないかな。
少し火で炙って、良い匂いがしてきて。
鑑定。表示が『ヤキイモ』になった。食べ頃。
剣から外して割ってみよう。
「わ、スゲェ。金だ」
「これ、食べられるの?」
金、ではないと思うけれども。
糖分が凝縮されていて、輝いて見える。
食べられるハズだが、熱いから気を付けて。
「はふはふっ! んふぉーぅ!」
「んんー! あまあああい!」
イェンナとユッタの美味そうな顔が並んで。
じゅるっと唾を啜ったのはキーア。
すぐ焼いてやるから待っといて。
ユッタが気を利かせて、一片ずつ配ってくれる。
「でも良かたー。失敗した思てた」
かたことアンゼさん、安心顔。
見慣れない物が生えて来て戸惑った様だ。
しかし、甘藷が生えて来るか。
痩せた土地でも育つと聞いた事がある。
花人隊の農耕魔法も、熟練レベルが上がって来た。
魔法が土壌に最適な作物を選別し始めた、と考えると。
それはつまり、土も痩せて来ているという事だろうか。
ヘビーローテーションで生やし過ぎているかも知れない。
少し栽培メニューを変えた方が良いだろうかな。
「あー、ずるいぞ!」
「何かンマいもの食ってるにゃ!」
走って来たのはティルア、ジェマ、フレヤ。
ああ、うん、分かった分かった。
残りは持って行って、朝食後のおやつに出そう。
「ん? フレヤ?」
「あれ? えっと……キーアだっけ?」
「にゃっ、知ってる顔にゃ。誰さんだったかにゃ」
「えーと、ジェマ。ジェマだ。私ティルダだよ」
顔を見合わせるフレヤとキーア。ジェマとティルダ。
リューリも含め、どうやら顔見知りらしい。
フレヤの群れは離散したと聞いていたが。
他にも獣人が追い立てられ、みんな一緒に逃げて来た。
その大移動の流れの中、子供同士で知り合ったのだと。
キーアはフォックスレイス。
キツネ系の獣人。頭の上に三角の耳。
ティルダはラクーンレイス。
タヌキ系の獣人の様だ。
頭の上に丸い耳がある。
リューリは……ウシさん?
ワーバイソンなる、何だか強そうな獣人。
見た感じは大人しげだけど。
よく見ると頭に小さな角がある。
第2弓兵隊か、第2弩兵隊に配属予定だ。
みんな、よろしく頼むよ。
「良いと思うけど……似てんね?」
ちょっと心配そう?なのはティルア。
まあ、見て間違う事も無いだろうけれども。
ティルアとティルダ、語幹としては似ているか。
咄嗟に呼んで聞き間違う……不安と言えば不安だ。
「あ、お婆ちゃんは私のこと、ティリーって」
ティルダに別の愛称がある様で。
じゃあ、悪いがティリーと呼んでも?
むしろ嬉しい? それは良かった。
以降はティルダ改めティリーという事で。
……ここまで、よく名前が被らなかったな。
結構な人数に出会って来たと思うのだが。
いや、騎士団長のクロイツァーとかファミリーネームだ。
どこかで知らずの内に被っているのかも知れん。
「な、何かゴメンね?」
「いいよいいよ! 全然平気!」
「そっかー、これからティリーにゃんだにゃ」
まあ、名前はそれとして。
植物魔法で籠を作って、スイートポテトを詰める。
子供ケンタウロス達は……と、見回すと、居た。
ハヴェル達、めげずに頑張る事にした様だ。
あいつらにも少し持たせてやりたい。
朝食を済ませて、装備を整えて。
それから新人達と顔合わせだ。
こっちの3人はもう打ち解け始めているが。
他の連中はどうかな。仲良く出来ると良いが。
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