黒鷲の旅団
23日目（３）結束、まずは隣の手を取って

「あいつら……良くないかも」

　東区の酒場の前で、新人達と顔合わせ。
　小声で不安を伝えて来たのはイェンナだった。

　不安要素。ストリートチルドレン、ガラの悪い方。
　以前、盗賊ギルドで見かけた顔があるという。

　今は離散したが、盗賊ギルド出身者。
　貧しさを盾に悪事を正当化する傾向がある。
　個人的にも仲が良いとは言い難く。
　何か仲間に被害が出ないか、心配だという。

　分かった。警戒はする。
　しかし、判断を急がない様に。

「イェンナじゃん」
「何コソコソしてんだ？」
「べ、べ、別に……」

　ロジェやバートの方から声を掛けて来て。
　詰め寄られてイェンナ、シドロモドロ。
　見かねたユッタが間に入ってしまう。

「イェンナちゃんを虐めないで」
「何だこいつ。やんのか？」
「ちょっと！　ユッタに傷つけたら殺すわよ！」
「何だ何だあ？　加勢するよ？」

　一触即発の所にヘルヴィ、ヘレヴィまで詰め掛けて。
　対抗しようとヴラスタやティモが腰を上げて。
　落ち着け。ケンカしない。ほら散って散って。

　一難去ったが、ぷう、と膨れたユッタ。
　お前ちゃんも何だかんだ負けん気が強いなあ。
　仲良しイェンナの為だから、というのもあるだろうか。

　失う物を得て慎重さも身に着けて来たイェンナ。
　ヘルヴィ達も、ユッタを下の妹みたいに思い始めたらしく。
　危うさもあるが、先輩チームの結束は固い。

　課題は外部との折り合いだろうか。
　ひとまず穏便に頼むよ。
　お前達の方が絶対に強いんだから。

　さて、朝食を済ませた新人達。
　この時点で帰ろうという者は居ない様だ。
　仲良しチームで纏まって動いて貰う。

　北区孤児チーム。グンター、リュシアン、メリカ。
　ユベール、イェスタ、アダリナ。以上６人。

　南区孤児チーム。フィン、テッド、カリカ。
　サフィラ、ギード、マルク。以上６人。

　中流出身チーム。キース、レイモンド。
　シプラ、リッツァ、シャノンまで。５人。

　ロジェのチームは４人ずつ、２つに割れるか？
　ロジェ、ティモ、バート、ジュリオ。
　ヨティス、ヒューゴ、ヴラスタ、イヴォナ。
　不都合があればメンバーを入れ替えてくれても良い。

　まずはカーラの仕立て屋で衣類を揃えよう。
　しかし正式入隊のキーア達３人も含め、一度に28人。
　流石に在庫が足りない。
　出来合いの物から見繕う事にする。

　正式入隊のキーア、ティリー、リューリ。
　この３人には旅の装いセットを買う。
　ケープの背中に黒い鳥の刺繍。黒鷲団仕様。
　カーラが予備で作っておいてくれた物。

　中流出身のキース達には、それなりの靴がある。
　それ以外、履き物が悪い15人に新しい靴を。
　防御面で言えば、長めのブーツで揃えたかったんだが。
　ブーツは７足。これはロジェ達に優先で回す。

　チュニックを12着。グンター、フィンのチームへ。
　次いでロジェ達にレザーベストを買う。

　貧しい方へ優遇すると、こうなって。
　しかし与える金額で言うと、今度はキース達に少ない。
　それはそれで不公平の様な気がする。

　グラブを買おう。レザーグラブ。
　在庫が７つあって、２つ余る。
　キース達５人の他、年少のカリカ。
　靴がブーツでないイヴォナにも持たせよう。

　あとは帽子……が足りないな。11個。
　いや、カーラさんが謝る事ではないが。
　女の子優先で配ろうか。

　メリカ、イェスタ、アダリナ。
　カリカ、サフィラ。
　シプラ、リッツァ、シャノン。
　ヴラスタ、イヴォナ。

　女の子扱いで、ヴラスタがヘヘヘと照れる。
　気質はマルカ似かも知れない。

　もう１つ要るよ、とカリカ。
　渡すと走っていってフィンに被せた。
　何か気を使った様だが、何だろう。
　まあ、そもそも足りない。
　早い者勝ちでも良いだろう。

　次は武器だな。新人達はハミルトン爺さんの店へ。
　基本はショートボウだが、腕力や適性に差もあるだろう。
　ロングボウやクロスボウも視野に入れたい。

「えー、弓ぃ〜？」
「剣が良いよ」

　ヒューゴ、バート。剣はちょっと教えられないな。
　前に出られると、生きて帰せる保証が出来ない。
　今日の稼ぎで自分で買うのは止めないが。
　サブウェポンとでも思って、まずは弓を覚えてくれ。

　新人達の引率はジュス姉さんとマイナさんに任せる。
　マイナさん、お金出したいというが、後で請求して下さい。

　先輩チームはアンヌ引率で買い出しへ。
　ドリスの道具屋で矢筒の手配。
　各種技能系ギルドでも、矢弾の補充をお願いします。

　俺は魔女協会で先生を借りて来る。
　俺１人じゃ流石に見切れない。
　１小隊に１人は大人をつけてやらないと。