黒鷲の旅団
23日目(4)針とか鍋とか
「む、貴殿か」
魔女協会受付。グレッグとイメルさんが居た。
暗殺教団チーム。薬を買いに?
ではなく、グレッグの新魔法の売込みだという。
Bクラス攻撃魔法、鉄針魔法。
鉄ないし金属製の針を錬成、投射する。
生み出した針を保持し、更に魔法付与も出来る。
また暗殺者らしい魔法を作って来た物だ。
剣などの武器を錬成して飛ばして操る。
そういう魔法運用は既出らしいのだが。
鉄針魔法は操作を直線投射に限定。
代わりに消費魔力を著しく低減している。
単発で撃てば、細い針だから視認も難しい。
消費が少ないので連射も効き、ほぼ無音。
運用次第ではAクラス攻撃魔法に匹敵するだろう。
音の無いマシンガンと考えると恐ろしい物がある。
グレッグは錬金術師協会に登録している様だ。
他所の魔法系ギルドに売りに来て良いのだろうか。
「Bクラスぐらいならば問題無いと言っていた。
こちらも少々物入りでな。
金策にと買い手を探し回っている。
しかし貴殿は新魔法、魔法特許が多いとも聞いた。
伝承料を頂戴するより、何かトレードでどうか」
魔法トレード。こちらにもメリットがある。
Aクラスまでなら好きに選んでくれて良いだろう。
まずは俺に鉄針魔法を伝授して貰って。
次いで、グレッグに所持スキル一覧を見せる。
と、長考。イメルさん共々、悩み始めてしまった。
欲しいのが多過ぎ? 2つ目以降は受付で買って……
ああ、そもそもは金策で売り込みに来たんだったか。
決まるまでの間に、俺の用事。
まずは魔法特許関連の手続きを。
少し受付で待たされ、フレスさんが来てくれた。
先に特許取得項目。
整地魔法、多目的Bクラス。
再生魔法、治癒Sクラス。
転生魔法が準禁呪で治癒Xクラス。
本日の申請は、穏天、涼風魔法から。
上昇気流、下降気流、気泡、沸騰、調熱魔法。
多いが地味ですいません。
水球魔法は既存。水プラス浮遊で難しくない。
誰だかが先に作っているらしい。
照会して貰う段階で弾かれる。
しかし、沸騰魔法は申請が通るのか。
煮沸魔法と何が違うのか、俺も分かり難いんだが。
ちょっと魔法自体を解析してみよう。
熱を加えて沸騰状態に導くのが煮沸魔法。
液体に分子振動を与える様な印象。
熟練レベルが上がると、単純に熱量を増す。
沸騰魔法は沸点にも作用するらしい。
沸点、沸騰する温度も上げ下げ出来るのか。
加熱自体も出来るので、使い勝手は煮沸と大差無い?
魔法熟練度による熱量増加は、煮沸魔法に劣る。
しかし熟練で沸点を操作出来る幅が増える。
沸点……ああ、減圧鍋みたいな事が出来るのか。
食材の痛みを緩和するみたいな。
早く気化蒸発させたいだけなら、煮沸魔法を使う。
魔法で減圧調理をするなら、沸騰魔法の方が良いかな。
そんな機会があるかは分からんけれども。
ともあれ、本日の特許申請は7つ。
それと売り上げの方を確認する。
Sクラスは温泉魔法2件のみ。60万。
Aクラスは氷花・縫合・熱閃魔法を中心に31件。620万。
Bクラスも攻撃魔法を中心に56件。560万。
Cクラスは温湯・温熱魔法など28件。140万。
収入合計1380万で、合計残高が2831万と少々になる。
昨日より伸び悩んだのは、冒険者の移動だろう。
魔王バティスタン軍との戦いで、大勢が出払っている。
魔法を買いに戻っている場合ではなかったかも知れない。
「あ、それと。昨日の件で報告が」
フレスさんから報告。
リンドヴルム、農村に出没した個体について。
住処にしているのはドナウデルタらしい。
川の増水に便乗して、遡って来たと思われる。
今は住処に戻って穏やかにしている様だ。
うーん……当面、刺激しない方が良いか。
村人は怖がるだろうから、対応は協議するが。
しかし、公主達も魔王軍の相手で忙しいだろうし。
見逃された恩が無いでもない。
積極的に不義理を働いてまで、藪を突きたくないな。
もし、公主達が自分で見つけて討伐に行くとしたら。
それはそれで、止め様も無い事ではあるのだが。
さて、グレッグ達は魔法……決まらんか。
2つ3つ欲しい物が出て、決めかねている様だ。
提案。今日もし暇だったなら。
街の子供らの面倒を見るので、手伝ってくれないか。
報酬は魔法伝授1つずつ、で、どうだろう。
「元より、指南を手伝うという話だったしな。
午前中だけで良ければ、応じられよう」
グレッグ達の同意を得られた。
臨時教員を2名追加だ。
あとは魔女協会にも派遣要請をする。
上級魔女以上を3名お願いします。
フリア派の中堅ティルデとドルテ。
レイヴン派の重鎮オリガが来てくれる。
雇用費として20万ずつ支払う。
フレス派からも別枠として来てくれる様だ。
そろそろ子供達の買い物も終わっただろうか。
イェルマイン達にも声を掛けて。
ああ、そうだ、ベラさん達を迎えに行かないと。
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