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黒鷲の旅団
23日目(6)怖い物の前へ

「うわっ! うわあああ!」
「ひいっ! ひいいい!」

 逃げ惑うティモ、ヒューゴ。
 やっぱりまだ早かったかなー。

「くそっ! くそおおお!」

 向かっていくロジェ。気迫と根性は十分だが。
 そんな大振りでは、当たる物も当たらない。

 現在、突貫選抜部隊を結成。
 俺、サンドラ、アンヌ、ロジェ、ティモ、ヒューゴ。
 得物は近接。お望み通りに剣を持たせてやった。
 悪ガキんちょ3名を前に出して突っ込ませる。
 俺達で追従してフォローする。

 方位は闇の気配が少ない首都の南。
 主な敵も武装ゴブリン、ホブ、オオカミ程度。
 たまにサイクロプスぐらいは見かけるが。
 大物はユッタ達、別動隊が狩って回っている。

 その、ゴブリンがせいぜいの前線で。
 しかし思うように戦えないロジェ達。
 技術以前にスタミナ切れが目立っている。

 まあ、そうだろう。ずっと走らせている。
 頑張れ頑張れ。基礎鍛錬は何より大事だ。
 疲れていたって、敵は待ってくれないぞ。

 ゴブリンが飛び下がってロジェの剣を躱す。
 転倒。しまった、という顔のロジェ。
 ニヤついたゴブリンが棍棒を振りかざし。
 しかし、その顔面を炎の剣が叩き割る。

「うにゃにゃにゃあーっ!!」

 サンドラちゃん、炎魔法。
 炎系上位近接魔法式、ファイアブランド。
 剣技はメチャクチャでも火勢が強い。
 武装ゴブリンを鎧と骨ごと溶断している。

 サンドラちゃん、コロコロ丸々、ちょっと太め。
 見た目は鈍重そうなのだが、しかしスタミナが強い。
 戦いながらのペースランニングも慣れた物だ。
 拾われたのが魔女協会でなかったなら。
 今頃は、戦士か格闘家になっていたかも知れない。

 俺も少し息が上がって来た。調息。
 電脳化社会は身体能力を義体に頼りがちだった。
 異世界。与えられた生身の肉体。
 まあ、こっちはこっちでスキルやレベルの補助もあるが。
 技術があっても身体がついて来ない、では見っとも無い。
 ペースを上げよう。俺は俺で鍛えないと。

 近接。サンドラと反対側のゴブリンを斬っていく。
 刀、小太刀。波状短剣クリスも勝手が近いか。
 斬撃特化の刃。力で叩き割るのではなく刃を滑らせて斬る。
 関節を狙う。骨の隙間を断つ。
 分厚い野太刀なら骨ごと斬ってしまう。

 前方のゴブリン達をなます切りにして。
 進路が開けた。前進を再開する。

「ああぁ、もう無理だよ。許して〜」

「ほらほら、泣かない! 止まらない!
 オオカミ来てるよ、食われちゃうわよ!
 泣くのは腕の1本もモゲてからにしなさい!
 マイナなんてあの足で走ってんだからね!」

 遅れ始めるティモをアンヌが後ろから急かす。
 また少年3人で敵に突っ込む。悪戦苦闘する。
 ヤバくなってきたら俺とサンドラが加勢する。
 片付いたらアンヌがまた追い立てる。繰り返し。

 下手なりにダメージは与えている。
 レベルアップは……解析。あと少しか。

「あ、あっ、助けて!」
「ほぅっ!」

 ひっくり返ったヒューゴを援護。
 サンドラちゃん、結界魔法。迫るゴブリンを閉じ込める。
 思いついた。俺は錬成・粉砕・空調・火災魔法を追加。

 発動、粉塵爆発魔法。ダスト・エクスプロード。
 結界で閉じ込めた限定空間の酸素・粉塵濃度を調整。
 着火して強制的に粉塵爆発を起こす。
 衝撃波でゴブリンはバラバラになった。

「うっ、お……おわっ!」

 音に驚いたのか、それとも血飛沫の方か。
 ロジェが尻餅をついた。助け起こす。
 お前もようやくスタートラインかな。

 怖い物知らずの少年達。
 まず怖い物を知れ。怖いと思え。
 怖いと思って、そこからがスタートだ。
 知らないだけなら、鈍いか経験が浅いだけ。
 どこかで怖さを自覚した時に動けなくなる。

 怖くても立ち向かう。
 勝てないなら勝てないで逃げる。
 何か対処しないと死んでしまう。
 戦場に立つなら止まってはならない。

 ダサくても何でも、死ぬなよ?
 足が竦まずに逃げ出せたなら及第点。
 名を上げて死んだって意味が無い。
 臆病者ぐらいが丁度良い。
 最後に笑えるのは最後まで生きていた奴だけだ。

 腰を上げるロジェ。
 少し顔つきが変わっただろうか。

『カリマです! 行商さん居ました!
 えっと、隊商。馬車2つ。
 街まで行きたいって言ってます』

『ティルアだよ。冒険者4。知らない……
 あ、待って。レー姉ちゃんが知ってるって。
 炊き出しの時に来てた奴?』

 別動隊から通信が複数。
 他の新人達の様子も見たい。
 各隊に通信。開けた場所に出て合流する。
 少し休憩を入れよう。



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