黒鷲の旅団
23日目(7)鳥の卵、冒険者のタマゴ
「「あ、どうも」」
どうも、が被ったな。
集合。開けた草原へ。
遭遇した人員に顔見知りが居る。
一方は隊商。カリマやユッタ、第1銃士隊が連れて来た。
馬車に護衛の冒険者が数人居て、トール少年が紛れていた。
ダニエル絡みの悶着を嫌って、首都を離れていたのか。
トールは南下。ブルガリアはスタラザゴラまで行って。
魔王領との境目を確認して、戻って来たらしい。
テイマーらしく、新手の従者……従魔?を集めている。
何かの卵を買って来たが、何の卵かは分からないのだと。
「多分、鳥系だろうって話なんですが」
「えっ、トリ?」「トリにゃ?」
覗き込んで来るツェンタとジェマ。
その零れそうな涎は肉でも連想したんだろうけれども。
その卵は狙っちゃダメだぞ〜?
もう一方はティルア達の弩兵隊が連れて来た、冒険者チーム。
その内2人が知っている顔で。
冒険者、剣士のリーンハルトとアンドリアナ。
キマイラにやられたとかで、治した事があった。
あれは確か、炊き出しの時だったか。
他に仲間の剣士カーティス、魔女マデリン。
剣士3人と魔女1人。パーティ構成が少し偏っている。
ヒーラーはマデリンが兼業している様だ。
「ヒーラー協会は、金が無い俺達を見捨てたんだ。
旦那が居なけりゃ、リーン坊やだって今頃は……」
苦々しげに言うのは、年長の剣士カーティス。
ヒーラー協会が見限ったのはリーンハルトだけでなく。
もう1人居て死んだのが、前のリーダー。
リーダーを見捨てられ、彼らは神職に不信感を持っている。
だとして、1人でヒール4人分は大変だろう。
ヒーラーが居ないなら居ないで、もう少し代案が欲しい。
簡単なポーションの製法でも覚える、とか。
あるいは、アンドリアナもヒールを覚えるか。
魔女協会で教わるなら、俺も口添え出来ると思う。
しかし、あんまり金持ってない?
そもそもが、その日暮らしの冒険者。
明日生きているかも分からない。
日銭を稼いで、儲かってもパーっと使いがち。
あまり蓄財に意識が回らないという。
纏まった金が出来た時にでも、考えてみてください。
今日ちょっと良い酒を飲む、良い宿に泊まる他に。
明日ちょっと楽をする為に金を使う、という選択肢を。
特に治癒魔法なんて、その先ずっと使えるんだ。
それ以降の薬代が浮く。浮いた金でもう一杯。
一番最初の動機付けなんて、そんなんでも良いから。
「ほらー、だから私だって言ってんじゃん」
「わ、分かるけどよ……うーん……」
「うーん、じゃない。お金貯めるっ」
唸るカーティスを突くマデリン。
この魔女がパーティの良心なんだろうかな。
まあ、先の事はともかくだ。
消耗した様子のリーンハルト達。
隊商と一緒に首都へ戻る。
トール君は鳥の卵が気がかりな様子。
ちゃんと孵るか、そもそも生きているのか。
友人ニコラ女史にも相談してみるのだと。
俺も無事に孵って欲しいとは思うが。
うちの冒険者のタマゴ達はどうか。
まずは第2弓弩隊。
キーア、ティリー、リューリは馴染めそうか。
やっぱりワーバイソンはパワー型かな。
弓兵見習いリューリ、剛腕のマルカ達も一押しの逸材。
他の子達も上手くなって来たと、レーネ、フェドラ。
人間種のダーシャやアルメルも当てられる様になった。
続くトゥリン、ヒュリヤ。緊張はしてない。大丈夫。
ハーフスキュラのリリヤは新技を披露。
わんこ尻尾の口を活用して、クロスボウで2丁撃ちしたとか。
腕が4本あるみたいだ。レーネとは別方向で驚異的。
グンター隊、フィン隊は、半数が元少年兵。戦闘経験者。
戦場の怖さを知っているだけに、よく指示に従ってくれる。
レベルはまだ低いが、統率の上で心配は少ない。
バート隊も度胸は十分。課題は飛び道具の錬度かな。
あとはヤンチャ者が多いのが少し心配だが。
指揮を任せられたバートが張り切っている様だ。
姐さん気取りのヴラスタも良く纏めてくれている。
課題が多いのはキース隊。中層出身者。
従順というか、言われるままになっている感。
悪ガキッズとは別のケアが必要そうだ。
自発的に考え、動ける様になって貰わないと。
選抜チームはどうか。
ティモとヒューゴはバテた様子。
弓を持たせてバート隊に合流させる。
まだやれるというロジェ。
アンヌ、サンドラ、トゥーリカを付ける。
次はサイクロプスの1体も討伐してみようか。
自分に何が出来て、何が出来ないのか。
何が出来る様になりたいか、考えてみると良い。
それと……ユッタ達は大丈夫だな?
むふふと笑う。得意げ。先輩風が轟々、といった感。
頼もしいが、引き続き油断しない様に。
強くても何でも、怪我が無いに越した事は無い。
俺はキース隊について回ってみるとしよう。
次の進路は北東。首都東の方へ回って行く。
激戦区は北。少しだけ闇の気配が濃くなるだろう。
強敵を警戒。各隊、抜かりの無い様に。
首都東の敵をザっと掃除して。
そうしたら、昼飯の支度に掛かろうか。
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