黒鷲の旅団 >23日目(8)それぞれの領分


黒鷲の旅団
23日目(8)それぞれの領分

「撃つの? 撃つのっ?」
「まだだ。構えて待て……よし、せーのっ!」

 しゅぱぱぱっ。バートの号令でキース達の矢弾が飛ぶ。
 まだまだ不揃いだが、一応敵に向かって飛んでいる。
 矢弾を浴びてゴブリン達が怯んだ。
 追撃。側面からヴラスタ達がとどめを刺す。

 自主性に欠けるキース達、中層出身の子供達。
 隊長にバートを据えてみた所、上手く回る様になった。
 路地裏少年チームは隊長をヴラスタに交代する。

 バート少年は面倒見が良い。
 いつもチビ達を見ているから、という。
 貴族や中流階級への反発心も見せない。
 いや、見せないだけで抱えているかも知れないが。
 表立って毛嫌いせず、間に入ってくれる。
 育ちというか何というか、他の子達と違う物がある。

「ご落胤って奴さ。
 バートの父さんは貴族だったって」

「顔も知らないよ。恨んだ事だってある。
 でも、死んだ母さんは最後まで、親父の事を想っていた。
 向こうも、迎えには来なかったけど、手紙とか……
 まあ、複雑なんだ。色々」

 ヴラスタの説明に肩を竦めるバート。
 いつか父親を探してみようか。

「いいよ。会っても何言っていいか分からないし。
 俺の事より、あんたの話が聞きたいな」

 俺の話か……まあ、追々な……
 まずは今日を無事に乗り越えよう。

 バート隊は順調にゴブリンを倒していく。
 大人数で索敵中だ。不意打ちを食らう事も無い。

 少し気になるのは、隊長役を降ろされたキースか。
 悔しさは負の要因だ。良い方向に作用するとは限らない。
 こなくそ、と頑張って、誰しも伸びればいいのだが。
 伸び悩んだ時、変に捻じくれても良くない。

 焦らない様に、出来る事からやる様に。
 声を掛けると幾らか和らいだ様に見えるが。
 まだ経過観察は必要だろう。

 ふと、遠く銃声が響いだ。ウィンチェスターじゃない。
 狙撃銃。ユッタやジルケ達か。
 丘の上空にガルーダ、グリフィンも見える。

 群れに追われて……違うな。
 追われているのはグンターのチームだ。
 それを銃士隊が援護している。
 各隊、大丈夫か。状況。

『だ、だいじょぶ! 誰もケガしてないよ』
『あいつら、弱いトコ狙って来やがったね』

 グンター隊はリュシアンと、引率・連絡役の魔女ドルテ。
 周辺探知、魔王軍の統率は無いと思うが……
 野生の魔物から見て弱っている様に見えた、か。
 そろそろ疲れが溜まって来たのだろう。

 グンター隊の援護は今、ユッタ隊?
 敵の数が多い。マリナ隊も向かってくれ。
 と、矢が複数飛んで、ガルーダが3匹落ちる。
 向かわなくても届くか〜……

 まあ、よし。今いる敵を片付けて。
 丘に集合。そろそろ昼食の支度に掛かろう。
 ユッタ隊、マリナ隊は魔物の解体を。
 肉と、グリフィンの羽も回収しておいてくれ。

『カラアゲだ!』
『やった!』

 考える前にメニュー決まっちゃったよ。
 少しは残しておけよ?
 燻製にしてお土産に持たせるから。

 丘に集合して、少し嫌そうな顔になる中層チーム。
 魔物、動物の解体。血生臭い現場。
 しかし、自分で獲物を取ったら自分で捌けないと。
 肉屋に持ち込んでも良いが、取り分を取られるだろう。

 解体はマルカやフレヤが得意。教えてやれるか?
 へへへと得意げに笑う。まあ、頼んだ。

 疲れた子達には活力魔法。
 足の痛い子は温泉魔法、足湯で休憩させる。

「たらいまー。ふっふぅー」
「ちょっと汗かいちゃったわ」

 サンドラ、アンヌ達が合流。
 ロジェはどうだった?

「ああああの、俺、剣が折れっ」
「そこ置いといてー」

 剣を折ってしまい、申し訳なさそうなロジェだったが。
 ユッタが携行炉を持って来て、修繕に掛かる。
 怒られると思っていたのか、ロジェは拍子抜けした感。

 装備は消耗品だ。壊れる事もある。
 壊れた時どう凌ぐかは考えなきゃならんが。
 生きて帰ったんだ。まずは良しとしよう。

 サイクロプスは倒せたんだな?
 レベルが少し上がっている。

「でも、俺……ほとんど何も出来なくて」

 そんなモンだろう。
 俺も最初はえらい目に遭った。
 ぷう、と膨れるサンドラちゃん。
 別に責めてるんじゃないから。
 はいはいはい、よしよしよしよし。

 さて、ティルア達のゴハンコールが聞こえて来た。
 反省会はメシを食ってからにしよう。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ