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黒鷲の旅団
23日目(9)明日を思い描いて

「えー、冒険者まだなのー?」
「ちぇー。何だよー」

 食事がてらの談話中。
 不満げに口を尖らせるのはジュリオとヨティス。
 冒険者認定証をと急かして来たが、まだちょっとな。

 冒険者認定証。冒険者の仕事を請け負っている証明。
 無等級でも冒険者の仕事をするには必要だ。
 この認定証は、子供だけでは発行されない。
 ギルドで信用を得ている大人の同意が要る。

 俺が大丈夫と言えば、多分発行されるのだろう。
 しかし、それを受け取って、子供達はどうするか。
 子供達だけで冒険に行ってしまう危険がある。

 新人の子供達だけでやって行けるかどうか。
 まだ無理だ。今日見た限りでは。
 武器の使い方は覚えつつあるにせよ。
 まだ探知魔法も通信魔法も持っていない。

 ずっと駄目だとは言わないから。
 せめて、もう何日か訓練を受けてみてくれないか。
 最低限度の装備と技術、魔法と知識を揃える。
 自力で生き残れる目途が立たないと、俺も手を離せない。

「うーん……ロジェ、どうする?」
「俺は続ける」

 不満げなジュリオに、ロジェは即決。
 アンヌ達と一緒に戦って、思う所があったのだろう。

「いや、あんたが…………えっと、何でもない」

 俺が? 何か言い掛けて止めたロジェ。
 まあ、何か足しになる言葉でも残せたのなら良かった。

「あたしも続けるよ。損はしてないしね」
「金は貰ってるもんな」

 ジュリオに振り返られて、ヴラスタとバート。
 金。魔法仕掛けのマネーカードの方は配ってある。
 分配金が幾らか入っているだろう。
 今日明日、飢えて困るといった事は無いハズだ。

 仲間達は前向きに、それでも複雑そうな顔のジュリオ。
 結論を急がなくていい。
 気が向いたらまた明日来てくれれば良いから。
 どうしても合わないと思うなら、それは仕方ない。
 金や装備は返さなくていい。

「でも、ここから上納金出すのは良いの?」

 上納金……というと、盗賊ギルドの方か。
 良いよというと、ほっとした顔になる。
 二君に仕えず、みたいな気質でもあったかな。
 不貞腐れている様で、律儀な所もある。
 盗賊ギルドは別に、ご主人様でもないだろうけれど。

 まあ、俺の事は上手く利用してくれたら良い。
 何の得が? 趣味だ、趣味。
 子供の手助けして自己満足してるオジサンだ。
 何かしらお前達のプラスになっていれば満足とする。
 満足してるんだから、それで良いんだろうよ。

 昼食を済ませ、装備の点検。
 その後、一息ついたら首都に戻る。
 今日の新人教練はお終い。
 ユッタ達も援護役ばかりでなく育ててやりたいし。
 俺自身、講和会議に呼ばれている事でもある。

 明日また、同じ所に集まって……
 ああ、そうだ。1つ宿題を出しておく。

 今日、幾らか稼げただろう。
 この金の使い方はよく考えてみてくれ。
 上納金が必要な子は、その分は仕方無いとして。
 その残り。残った金を何に使うか。
 金勘定と自主性の訓練だ。

 傷んだ装備を修理に出しても良い。
 魔法を覚えたい子には、各魔法ギルドに繋ぎを作ろう。
 訓練所に行って弓弩の技術を学ぶのも良い。

 あるいは、沢山食べて良いベッドで寝る。
 十分な休息を取るのも大事な事だ。
 オシャレや何かに使って、心を満足させても良い。
 それはそれで、明日また頑張る為の足しになる。

 使い切らなくても良い。蓄財も間違いじゃない。
 何か足りなくなれば、明日また買い足そう。
 まだまだ最初だ。間違えても良い。
 しかし出来れば、明日の朝食代ぐらいは残しておけよ?

 要は……明日をも知れない、じゃなくてだな。
 今日をどうにか凌いで、明日まで意識して欲しい。
 ゆくゆくは未来を、将来を思い描ける様に。

「明日を金で買う、みたいなモンかな。
 沢山金を出しとけば、良い明日が来るみたいな」

 バートの解釈。そうだな。大体そんな感じだ。
 金を出さなくても良い明日が来ると、もっと良いんだが。
 その辺は社会の温度だとか、君主施政のご加護次第。
 貧富の差。生まれの差。差別、偏見、外敵の数々。
 ここら辺の明日はちょっとお高くていけない。

「出来たよ」
「あ、うん…………あ、あ、ありがとう」

 ユッタの修理が済んだ様だ。
 どこかぎこちなく剣を受け取るロジェ。
 鑑定。ロングソード+2……プラス?
 何か強化された様だが、ユッタの腕前の成せる業か。
 あるいは仲直りのつもりでサービスしたのか。

 他に装備に不安は無いな?
 それじゃあ各隊、帰途に就こう。

 広く鶴翼陣形。中央に新人達。
 両翼は先輩達が固め、魔物隊が遊撃索敵。

 援護は阻害魔法を多めに。
 何かあったら通信する様に。
 最後まで気を抜かない様に。
 勝利よりも脱落者の無い様に。

 最後に笑う為、みんな最後まで生き残る様に。



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