黒鷲の旅団 >23日目(10)その手に掴んだ物と共に


黒鷲の旅団
23日目(10)その手に掴んだ物と共に

「密室が欲しくば、自分で閉ざせば良い、か。
 今日は大いに参考にさせて貰った」

 帰りがてら、俺の粉塵爆発魔法の話を聞いて。
 グレッグが編み出したのは水牢魔法。
 結界に閉じ込めた空間を水で満たす。
 相手を溺れさせる魔法と言える。

 欠点は、水が満ちて対象が溺れるまで時間差がある。
 あと、結界を維持し続けるのに魔力を消費する。
 長所としては、溜めておけるという所だろう。
 一息に開放して水攻めなんかにも使えそうだ。

 結界部分の通過については、元の結界魔法に準拠する様子。
 通過の可否は仕掛けた術者の任意だ。
 攻撃だけ透過させようと思えば透過するし。
 外から入らせようと思えば入らせられる。
 エメリナがぴょいと飛び込んで、反対側へ泳いで抜けた。

 水に入って人魚になって。
 尾ひれを足に戻しながら水から出て来て。
 横顔は得意げだが、水牢にパンツ落としてる。
 気付いたテルーザが慌てて回収、返しに行った。
 他に気付いた子は居ない? ちょっと居るかな。

 半人魚エメリナ、魚体化するとパンツが脱げる。
 この問題は早めに何とかしたい所だ。
 キュロットが脱げないのは……スカート状に改造してある?
 丸出しにならないのは良いが、もうちょっと気にして。
 てへへと笑うエメリナ。頼むよー。

 まあ、パンツ問題はともかくとして。
 この魔法、馬車の上で使ったら魚も運べそうだ。
 結界を維持する消費魔力があればの話になるけれども。

「今日は、あ、あざっしたー!」

 街へ到着して、大きな声で一礼ぺこり。
 率先して頭を下げたのはロジェだった。
 こちらこそ、また明日も頼むよ。

 路地裏少年チームは住処へ戻らず、街に散る様だ。
 金を持っていると知れると、悪い大人に取り上げられる。
 隠すか使おうか相談している様だった。

 孤児達の多くは孤児院へ直帰の様相。
 儲けの一部を仕送りに充てたい。
 幾らかは自分の為にも使って欲しい所だが。
 貧しいのも知っているので、強くは言うまい。

 中層チームは宿を取るのかな。
 リッツァ達、女の子チームが去り際、バートに手を振る。
 バート隊長は早くも慕われている様子。
 そしてキース元隊長、ちょっと面白くなさげ。
 少なからず顔に出てしまっている。

 希望するなら、いずれキース隊を結成するのも良い。
 しかしキース自身がまだ実力不足だしなあ……
 バートを妬むより自分を磨けよ?
 お前だってまだまだ伸びるだろう。

 キースを励まし、送り出してやる。
 すると今度はバートに礼を言われた。
 キースの様子に気付いて、しかし言い難かった様だ。

 明日はチビ達も連れて来たい、とバート。
 お前達が卒業してからの方が良い様な気もするが……
 そうだな。ついて来ちゃった場合も想定しておこう。

 新人チームは思い思いに立ち去って。
 数名残っているのは魔法習得希望者。
 フィン隊はフィンとカリカ、サフィラ。
 グンター隊から女子。メリカ、イェスタとアダリナ。
 中層のシプラ、路地裏チームのバートとイヴォナ。

 女子は魔女協会に戻る魔女さん達が引率。
 と、フィンも一緒に連れて行くのか?

 魔女オリガさんが教えてくれた。
 フィン少年が少年じゃなかった。
 男装少女ジョゼフィン。女の子だったのか。
 以前、男に襲われ掛けた事があって。
 それ以来、男のフリをする様になったという。

 そういえば、心肺停止で人工呼吸をした事があった。
 男同士でなかったのは果たして、良かったのか悪かったか。
 思い出して頬を染めるジョゼフィン。
 あと、レーネちゃんの視線がチクチク刺さる気がする。
 緊急事態だ。やましい事は無かったってば。

 ともあれ……何だ。
 男子で魔法に興味を持ったのは、結局バートだけか。
 技を教わるとか、武器を買い足す方に興味が向いたかな。
 全員に通信魔法を揃えたいんだが、仕方ない。
 自分で考えさせるんだったしな……

 バートの付き添いはイェルマイン隊の少年達。
 彼らは彼らで錬金術師協会に登録している。

 後ろに乗れよと馬を寄せるエリック。
 颯爽と飛び乗るバートがカッコいい。
 シプラ達、女の子の黄色い声援が響く。
 少し悔しそうなエリックはいっそ可愛い。
 同窓のイェンナやフェドラがクスクス笑っている。

 さて、魔法。何を覚えたら?とカリカ。
 メリカは縫合魔法をお勧めする。
 自分を救った魔法で、思い入れがあるのだろう。

 いきなり縫合魔法だと魔力が足りんかも知れないが。
 覚えておいて魔力を後から育てても良い。
 まずは好きに覚えてみなさい。
 必須項目については、明日の訓練のあとで。

 新人達を送り出して、次はうちの子達か。
 わくわくっとした顔が並ぶ。
 よくよく構ってやりたいが、講和会議にも行かないと。
 会議に連れて行っても外で待たせる事になりそうだ。
 早めに終わると良いんだが、どうかな。

 まあ、いきなり置いて行くより、話ぐらいしよう。
 まずは屋敷に戻って、午前の感想とか聞いてみようか。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ