黒鷲の旅団
23日目（17）内乱の火種

「全く、あなたという人は……」

　辺り一面、焼け野原となったオデッサの街。
　身体の再生を待っていた俺に声を掛けて来たのは、天使。
　守護天使エレオノーラさん？だった。

「リリアノーラですよう。適当なんだから。
　お忘れでしょうけれど、私、『守護』天使なんです。
　あなたはそうやって、ポイポイと自分の命を捨てる。
　守護し甲斐が無いです。悲しいです。
　恩恵なんて感じてないかも知れませんが、良いですか。
　人の生とは、細かい細かい幸運が積み重なってですね」

　怒った顔で、涙目で。お小言を始められてしまった。
　分かってるから。なるべく死なない様に気を付けますから。

「いいえ、いいえ。反省していませんよね。
　分かりますよ。子供達、可愛いですもの。
　また何かあれば命を投げ打つのでしょう？
　レベルだって、また２つも下がってしまって」

　本当だ。レベルが２つ下がって５２になっている。
　肉体を全損するとペナルティも大きめ。
　レベルでフェドラちゃんに追い付かれてしまった。
　俺もレベル上げ頑張らないと。

「だから……そう、反省会。
　これから毎日、反省会をしましょう。
　夜寝る前にお祈りをしてください。
　そしたら私、会いに行きますから」

　そう言って話を切り上げ……一方的だな。
　守護天使さんは姿を消した。

　天使に逢引の約束をされてしまった？
　逢引というか、カウンセリングかな。
　別に自殺志願者のつもりは無いんだが……

『おや、ハインさん』
『ああ、君か。ひっどい事するよねー』

　肉体が再生された後、通信魔法。
　魔王様方は、流石に死んでいなかった。
　いなかったどころか、ほぼ無傷。
　やはり、正面から戦って勝てる相手ではあるまい。

　他の連中は？　唯人はおよそ全滅か。
　何人かは魔王が盾になって助けた様だ。

　残した方が嫌がらせになると思って、とウルリカ。
　通信映像、彼女の後ろに冒険者や貴族達。
　よく見ると魔人カーマインベータの姿もある？
　ボロ雑巾の様になっているが、動いた。息がある。

　うん、まあ、ウルリカの方はそれとして。
　ペーターのは善意というより、身内のついでといった様相。
　娘のブランディエーヌと共に、ディートリッヒの姿も。

　ディートリッヒ……ん？
　エドヴァルト達と一緒に逃げたのではない？

『一緒？　では、父上や姉上達は無事なのか？
　姿が見えないのだ。見ていないか』

　ディートに聞き返された。
　自分で確認は取っていない様子。
　そもそも通信魔法持ってないっけ？

　聞いてみよう。通信魔法を切り替え。
　イズマイールに逃げたエド……は魔法持ってない。
　アンヌかリュドミラ、今、手は空いてるか。

『あっ、ごめん！　待って！　リュドミラ〜！』
『はい！　あっ、先生！　よくご無事で！』

　ご無事じゃなかったんだが、その辺は黙っとこう。
　バタバタしているが、何かあったか。

　聞く所、それぞれ脱出はしたが動揺が収まらず。
　加えて負傷者が少々。会場側か。
　僅かに逃げ遅れて、爆発に巻き込まれたらしい。

『お兄様、まだ止血が！』
『後でいい！　それより話をさせろ！』

　割り込んで来たのはエドヴァルト。
　止血？　右腕を失っている様だ。
　話なんかより治療が要るだろう。
　魔女協会に応援の連絡を。

『痛いだけだ。大事なトコは取れちゃいねえよ。
　それより落ち着いて聞け。
　親父が、死んだ。シュテルン公王だ』

　公王……が、何だって。帰還スクロールは。
　一緒に逃げたんじゃないのか。

『第１公女アーデルハイトだ。
　あいつ、寸での所で親父を突き放した』

　自分の父親を……険悪だったのか？
　いや、それより、シュテルン公王が死んだって。
　それじゃ後継ぎは誰になる。

『そこだ、問題は。継承権争いの決着がついていない。
　アーデルハイト派は間違いなく独立するとして。
　ディート兄、ヴィン兄、他にも誰が立ち上がるか』

　跡目争い。立つ。挙兵。内乱になるって事か。
　エドヴァルトはどうするんだ。

『姉貴の親父殺しを見たのは、位置的に俺だけだ。
　俺は戻らん。口を封じられるのはご免だぜ。
　ボルグラードで旗揚げする。
　おたくの公女様と急いで同盟を……痛っつつ！』

　興奮して、どこかぶつけた様だ。
　やっぱり応援は呼んだ方が良いな。
　アンヌ、魔女協会。フレスさん達を呼んでやって。

　俺はイーディス公主に通信を……
　と、こっちも取り込み中。
　一緒に脱出した冒険者達に詰め寄られている。
　俺がイズマイールに行った方が早いだろう。

　問題は、どうやって行った物やら。
　大した爆発で、魔王の居た後ろ以外は一面更地。
　ポータルが残っていると良いんだが。