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23日目(18)一難去ったけれども

「またメンドクサイ事になってるわねー」

 メンドクサイ、で済めば良いけどな……

 イズマイールに戻り、イーディス公主と会談。
 まずは情報を共有したい。

 状況。まだ明確な声明こそ出されていないのだが。
 シュテルン公国は公王を失った。
 内乱に発展する事が見込まれている。

 公王殺し、直接はバティスタン軍の罠だが。
 そこに第1公女アーデルハイトが一手加えたらしい。
 目撃者は第4公子エドヴァルト。
 彼は口封じを警戒し、主軍に合流しない。
 こちらとの同盟を申し出て来ている。

「うう〜ん、エドヴァルトと同盟ってのはOK。
 あとは……どうしよっか。あはは。
 ちょっと考えが纏まらないわ」

 少し疲れた様子で笑うイーディス公主。
 まだ混乱も冷め切っていないだろう。
 即決しかねる案件も多い。

 公国の内乱に対して、どうするのか。
 静観するのか、鎮圧と称して攻め込むのか。
 誰と手を組んで、誰に敵対するのか。

 ディートリッヒ公子と組むと、国内で反発が起きる。
 公子のバックに魔王フランツペーターがついている。
 信仰にせよ、市民の安全の為にせよ。
 神聖教会と冒険者ギルドは圧力を掛けて来るだろう。

 かといって、大々的にペーターを敵に回す場合。
 北のディートリッヒ、南のペーター軍と挟み撃ちになる。

 そうなると、擁立出来るのはヴィンフリードだが。
 あまり大々的にやるとディートと対立する。

 第1公女の王位簒奪には異を唱えつつ、様子見。
 欲をかかず、地道に国力を高めるというのも1つの手だな。

 魔王バティスタンにしても、片付いたワケでなし。
 魔王ウルリカが黒海洋上で睨みを利かせているが。
 それでも突破して来る戦力があるかも知れない。

「どっちみち、防備は固めた方が良さそうね。
 分かった。色々ありがと。話し合ってみるわ。
 あと、こいつらどうしよう……なんだけど」

 そうだった。公主と振り返る。
 オデッサから誘導してきた難民をどうするか。

 イズマイールの住人は一度全滅している。
 廃墟同然の街で、食料などの物資も乏しい。

「任せなー。任せろつったろ」

 名乗り出てくれる偉い人、エドヴァルト。
 難民達はボルグラードで保護してくれるという。

 エドの腕、欠損はもう治っている。
 再生魔法で処置済み。
 フレスさん達が来てくれた様だ。

「この魔法、何気にヤベェな……拷問とかに。
 いや、俺には使わないでくれよ?」

 うん……俺もちょっと考えたけどな。
 再生して、何回切っても生え直し。
 治癒魔法にも悪用する手段がある。
 やるかどうかは別として。

 まあ、物騒な話はともかく。
 難民はエドヴァルトや護衛の騎士達とポータルへ。
 ほっとした顔もあれば、暗い顔もある。

 無理も無い。全部は助け切れなかったんだ。
 身内や何か犠牲になったのだろう。
 後味は悪いが、仕方ない。

「パパは? どうしてパパは居ないの?」
「誰か、誰かうちの子を見ませんでしたか」
「俺だけ生き残ったって……」

 ……仕方ない。後味は悪いけれども。
 憂鬱な気持ちで見送るぐらいしか出来ない。

「そんな顔すんなよ。
 やるだけの事はやった。そうだろ?」

「そうよ。あの起爆からすぐ、あの爆破だもの。
 数ある選択肢の中で、大分マシなのを掴んだと思うわ」

 エドヴァルトやアンヌに励まされ。
 そんなに顔に出ていただろうか。
 それとも2人の察しが良いのか。
 大分マシ、か。
 まあ、そう思うしかないよな。

 そういえば、ハンナデルタは……居ないか。
 脳内ログ解析。範囲指定。検索。
 ハンナが死んだらしい記述も無い。
 一応、脱出したとは思われる。

 ここに居ても居辛かっただろうとは思うが。
 帰ったか、どこかへ逃げたか。
 個人的な休戦ぐらいは結びたかったが、仕方ない。
 まだ出くわしたら、その時に考えよう。

 シュテルン各派閥が挙兵するとして。
 纏まるまで、少しは猶予があるだろう。
 それまでに俺達も、出来る事をやっておかないと。

 まずは……まずは帰ろう。
 正直言って疲れた。俺達にも休養が必要だ。



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