黒鷲の旅団
23日目(21)ゲンセキとネコソギ
「来て、くれたのか……」
ロジェ達の案内でバートの隠れ家へ。
満身創痍で身を横たえていたのはバート。
顔にアザ。肩や腕に出血の痕もある。
気も急くだろうが、まずは手当てをしよう。
治癒、鎮痛、止血、造血魔法。
バートを治療しつつ、ロジェ達に状況を説明して貰う。
バートが面倒を見ている年下の子供達が誘拐された。
犯行グループはスラムのゴロツキ、冒険者崩れの一党。
貧者からミカジメ料、上納金などを搾取する悪い大人だと。
今回標的にされたのは、子供でも特に年少者。
ほとんど自分で働けない、小さな者達だ。
普段はバートやロジェ達で匿っていた。
今日は後を付けられたのか。
金を稼いで、羽振りが良さそうだったから。
連中は子供達を攫い、抵抗するバートを痛めつけて。
去り際に、返して欲しくば金を持って来い、だと。
俺に言えば出すだろうとも言っていた様だ。
目的は金か。身代金を要求する。
見たか聞いたか、俺をカモだと思ったのだろう。
子供に甘い奴なら、子供を盾に取れば金を出す。
俺が応じないなら奴隷商に売り払う、か。
金……幾らだ。具体的には言ってない。
金額次第、連中の気分次第か。
最悪、1日売り飛ばさないだけで話が纏まってしまう。
少年達に金だけ持たせて言い包められては怖い。
俺も直接出向いた方が良いだろう。
ロジェ達には先に向かって貰う。
手付金として100万。金貨10枚。
チラつかせても、渡してしまっても良い。
もっと行くから待つ様に伝えてくれ。
時間は稼げると言い聞かせ、バートを落ち着かせて。
俺は通信魔法、アンヌ、ジュス、魔女達を援護に呼ぶ。
それと……道中に探知反応があった。
奴隷商ティベリオと、護衛が2人。
仲介人、ご意見役として同行して貰う。
俺にはブラックマーケットの作法が分からん。
手間賃として200万、金貨20枚を出す。
「そりゃまあ、頂ける物を頂けるなら構わないが。
スラムのガキの為に、身代金取引とは酔狂な……
いや、旦那が意外と目利きなのかも知れんかな。
小汚い石ころみたいなのを、磨いて宝石みたいにしちまう。
前のガキどもは惜しい事をしたかね」
前の……ヘルヴィとヘレヴィか。
子供はみんな原石みたいな物だろう。
磨けば光るよ。簡単に見放さないでやって欲しい。
「お前が黒鷲だな。金は持って来たかあ?」
「幾ら出せる? 金に寄っちゃあ、ガキ共は助けてやるぜ」
取引現場に辿り着いて。
待っていたのは、なるほどゴロツキめいた冒険者3人。
捕まった子供達が5人と、あと誰だ。
剣を下げた強面の、どこか凄みのある人物。
「聞いて驚け、このお方はなあ!」
「馬鹿野郎、ペラペラ名を明かす奴があるか!」
「へいっ! すいません!」
用心深いのか、素性を隠す強面の男。
解析でも情報が見えない。隠蔽されている。
ふと、ティベリオが俺に耳打ちした。
名は明かせないが、ブラックマーケットの重鎮らしい。
ゴロツキ共の後ろ盾、という事なんだろうかな。
さて、身代金。幾ら出す、と来たモンだが。
ティベリオさんにご意見を頂きたい。
今度はこちらから耳打ちする。
ゴニョゴニョのゴニョゴニョだったら。
あんたなら幾ら値段を付ける。
「ん? ふふふ、そうだねえ。
身なりも悪いし学も無い。将来性だって無い。
仮に奴隷としたらだが。1人30万って所だろうかね」
そんな言い方、と憤るバート。落ち着いて。
言い包めても何しても、子供達を助けないとだ。
購入について、法規とか問題は?
「あいつらを買うのかい。そうさなあ。
金で買えない物は無いのがブラックマーケットさ。
あとは金と力が決める。弱者は強者の物。
今回は、あちらさんに伺ってみるのが良いかね」
それでは……念話魔法。重鎮さんよ。
これこれこうこうだったら、ご同意頂けるか。
重鎮さんは驚いた顔をして。
次いで、膝を叩いて笑い出した。
「ふっはははは! 面白い。面白いぞ、お前。
乗った。即金で1500万、本当に出せるんだな」
出しましょう、1500万。
マネーカードを提示。
ティベリオが操作して金を引き落とす。
自分のカードに移して持って行って貰って。
重鎮さんが受け取り、金額を確認。満足げに頷いた。
蚊帳の外だったゴロツキ達も、金額を見た様子。
重鎮さんに促され、子供達を開放する。
解放された子供達はバート達が出迎える。
そして、ティベリオの護衛2人と重鎮さん。
縄を取り出して、ゴロツキ冒険者達を縛り上げた。
「は……え、何?」
「あ、兄貴!?」
まだ状況が分かっていない様子のゴロツキ達。
だから……買ったんだよ。
俺が買い取ったのは、お前らの身柄だ。
売られたのはお前達だ。
子供達を金で開放しても、またお前らに誘拐される。
現状の社会制度では、人身売買自体を無くせない。
事態を根こそぎ解決する為に、お前らの身柄を買った。
さあ、どう料理してやろうかな?
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