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黒鷲の旅団
23日目(22)仕置きは断罪の後で

「1500万、確かに頂戴したぜ。
 あとは焼くなり煮るなり、好きにしてくれ」

 上機嫌で去っていく、ブラックマーケットの重鎮さん。
 小汚いスラムのゴロツキ3人と引き換えに1500万。
 彼にしてみれば、ボロい商売だっただろう。
 手切れ金、手間賃、口止め料、その他諸々込み。
 最早、彼がゴロツキ達の後ろ盾になるべくもない。

「くそっ、くそ……うおおおお!?」
「痛でででで! ぎゃっ! ぎゃあああ!?」

 あーあー、暴れるから……

 悶え苦しんでいるのはゴロツキ3人。
 ティベリオさんに奴隷紋を施されて尚、抵抗。
 紋の呪詛が発動して、激痛に苛まれている。

 この、奴隷紋とやらの有効範囲は?
 ティベリオさん曰く、ほぼ無制限。
 各地のポータルを経由して効力が繋がるとか。
 それなら仮に、街に置き去りにしても大丈夫か。
 俺が街を離れても、命令と強制力は残る。

 俺からの命令。弱者からの搾取全般を禁止する。
 搾取。金を巻き上げたり。暴力もダメ。
 奴隷紋が鈍く光り、どうやら命令が認証されたらしい。
 逆らったらさっきの続きだ。

 禁止事項はそれとして、あとはどうするか。
 悪事を妨害する為にこそ、身柄を抑えたのだが。
 別に奴隷が欲しかったワケでなし。

「要らないなら俺達にくれよ」
「今までのお返しをしないとな」

 息巻くロジェ達。震え上がるゴロツキ共。
 スラムに連れ帰って、みんなで私刑か。
 それで死んでも自業自得の様な気がするが。
 スパッと殺しても物足りないんだよなあ。

 例え初犯でも未遂でも、許せるものではない。
 子供を捕まえて金にしようだなんて。
 生活苦を言い訳にしたって限度があるぞ。

 奴隷として売られたらどうなるか。
 そんな事、少し想像すれば分かるハズだ。
 平気で他人を傷つける一因が、想像力の麻痺。欠如。
 想像力が働かないなら、実体験で補ったら良い。

 他人を奴隷にして売ろうとする。
 それで売られた方がどういう事になるのか。
 奴隷となったその身を以て、思い知ると良いだろう。

 鉱山にでも送ろうか。
 ガスだの落盤だの、長生きはするまいな。

 それとも魔王軍に売りつけようか。
 生きるか死ぬかの見世物剣闘士なんてマシな方だ。
 旗代わりに生皮を剥いで吊るされるかも知れん。

 あるいは内乱必至のシュテルンに貸し出すか。
 激戦になったら、肉壁は何枚あっても困るまい。

 いずれにせよ……余罪も少なくないだろう。
 まずは憲兵隊に引き渡して取り調べ。
 奴隷になる前の犯罪について、主人に咎は無いな?
 違いない、とティベリオさんに念を押して貰った。

 取り調べして、重い犯罪が発覚したとして。
 そこで死刑に決まるなら、それはそれで仕方ない。
 戻って来られる様なら、お仕置きの続きを考えよう。

 と、まずは司法に委ねる事にして。
 残念そうなのはロジェ達……まあ、そうだな。
 多少殴る蹴るぐらいなら良いんじゃないか?
 聞くなり、よっしゃあ!と叫んで飛び掛かって行く。
 昼間の今で元気だね、お前さんら。

「あ、あのさ……今日は、助かった。
 それで相談なんだけど」

 おずおずと歩み寄って来たのはバート。
 金は必ず返すと言って来る。
 気高い彼に、要らんというのも失礼だろうか。

 うん、まあ、返せる範囲で構わないが。
 今日明日死んだって返せる様な額じゃない。
 利息は取らないから、長生きして返しておくれ。

 それと……命までは、と。ゴロツキ連中のか。
 優しいな。チビ達への配慮か。
 自分のせいで誰か死んだなどと思わせたくない。

 分かってるよ。俺も脅し半分だ。
 奴らも身を持ち崩した事情があるのだろう。
 手放しに許しもしないが、安易に死ねとも言うまい。
 まずは憲兵達に絞って貰う。
 反省して出て来るなら恩赦も考えよう。

 ただ、余罪が酷くて死罪になるのなら。
 それはもう、こちらで気に病む事じゃない。

「あれー、終わってる? 出番無かった?」

 上空からシャンタル達。
 むしろ丁度良い所に来てくれた。
 引率に加わってください。

 日も傾いて来たブラックマーケット。
 子連れで帰るには不安要素が多い。
 折角助けて、途中でまた攫われたんじゃ困る。
 ゴロツキ達も引き摺って行かなきゃならん。

 少し遅れて魔人姉妹も到着。
 ゴロツキを蹴倒して、縄で引き摺って行く。
 ホントに引き摺らなくても良かったんだが。
 まあ、いいや。任せる。

 これで一段落か。また長い一日だった。
 子供達に通信。何か足りない物は無いか?
 レーネ達を拾って、買い物して帰ろう。



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