黒鷲の旅団 >23日目(23)愛情こねこね


黒鷲の旅団
23日目(23)愛情こねこね

「えと……ど、どうでしょうか」

 うん、大丈夫だ。普通に美味いよ。

 屋敷に戻って夕食前。厨房。
 俺はレーネと一緒にパン焼きに挑戦した。

 レーネの料理下手は、味音痴が由来ではなかった。
 変に工夫しようとして空回っていた様だ。
 基本を守り、レシピに忠実に作る。
 几帳面なレーネに出来ない事ではない。

「愛情だけじゃゴハンは作れないんだよ。
 先に作った人のレシピを借りて、食材さんを活かしてあげて。
 何より、食べる人に美味しい物を作ってあげるの。
 レシピ通りに作るのだって、立派な愛情なんだよ」

 指導役はマリナ先生。お言葉が大変タメになります。
 あまり得意げなので、母親ベラさんが苦笑している。

「この子ったら生意気言っちゃって。ごめんねー」
「いえ、そんな。私は今日、神を得ました」

 神って。レーネの尊敬の眼差しが熱い。
 大袈裟だようと言って否定するマリナだが。
 そのほっぺや口元はムッフムフだ。

 何にせよレーネ、苦手が1つ克服出来て良かった。

 戦い以外の技能が身につくのは良い。
 戦いしか能が無いと、戦いが無くなった途端に飢えてしまう。
 安全に暮らすのに必要なのは、安全な場所だけじゃない。
 安全な場所で食って行く為の技能が必要だろう。

 料理が出来たら……いきなり店を開くのは無理だとしても。
 どこかで下働きをさせて貰うとか、選択肢が増える。
 何でも、とは言わないが、色々覚えさせてやりたい物だ。
 勿論、自衛の為の戦闘能力も必要なのだが。

 他の皆は上手く出来たのかな。

 振り返ると……こねこねこねこね。まだやってる。
 カリマはパン生地を捏ねるのが楽しいのか。
 フェドラお姉ちゃんのおっぱいみたい?
 何と比べているんだね、お前ちゃんは。

「ぶはっ! ウケる!」
「ぎゃははは! 巨乳だ、巨乳!」

 何を盛り上がっているかと思えば、ヘリヤとシャンタル。
 自分のおっぱい型のパンを作って焼いたら大きくなった?
 何を遊んでいるんだ、この大人達は。

 食べ物を粗末にするなよ? ちゃんと食べるんだよ?
 って、俺に食えってのか。差し出して来る。
 先っちょをこっち向けるんじゃない。
 また食べ難い物を寄越しやがって。
 薄く切るよー。あー、ではなく。

 夕食のメニューは、みんなで焼いたパン。
 いつものシチュー。グリフィン肉多め。
 野菜炒めは獣人だけタマネギ抜きを用意。
 あと油で揚げたサツマイモ。好評。

「何か、パンおいしい」
「いつもと違うー」

 焼きたて、というのもあるのだろうが。
 そこらで買って来たパンより1ランク美味い感。
 うちはパン種が良いんだよ、とマリナ。
 パン種、酵母の元。この文化レベルだと天然酵母。
 そうなると、温度管理なんかも良かっただろうか。

 一時期、俺も料理にハマっていた時期があってな。
 天然酵母は酢酸菌なんかも混在する。
 膨張を焦って温度を上げ過ぎると、パンが酸っぱくなる。
 欲張らず、優しい加減が良いという事だろうか。

 マリナに作り方を仕込んだのはベラさんで。
 酵母だって自家製だろう。
 色々試してみて覚えたんだよ、とベラさん。
 これは本当に、愛情の詰まった味なんだなあ。
 褒めるとベラさんのほっぺが少しムフムフした。

 食後、子供達は入浴へ。

 浴場にカップを持って行くのはサンドラ。
 トゥーリカやコロボックル達の湯船代わり。

 人数が多いので、入浴は交代制だ。
 子供達が2組交代、その後で花人・魔物隊。

「おっふろー、おっふろー♪」

 変温動物は暖かいのが好きだろうか。
 待ち切れず、首からタオルを下げたラミアさんズ。

 テンションが高いのはともかくとして。
 タオルしか身に着けてない。脱ぐの早い。
 それを見ちゃったのは、起きて来た吸血鬼ゼルマル。
 若手で免疫が足りないか、明らかにドギマギしている。

 俺は自室に戻って……お祈りってどうすんだ。
 窓の外に向かって手を合わせ、頭の中で呼んでみた。
 守護天使さん、今話せますか〜。

 返事が無いな……うおっ!?

 突然、後ろから肩を叩かれた。
 振り返ったらすぐそこに守護天使さん。
 あんまり驚かせないで下さい。

「すいません、そんなに驚くと思わなくて。
 それじゃあ、お話ししましょう。
 皆さんお待ちですよ?」

 皆さんて……何か、皆さんが居るよ。

 守護天使さんの後ろに3人。
 武装した女性と、派手めに着飾った女性。
 あと、魔法神だったか。若く見える男。

 えー……反省会、だったと思うんだが。
 皆さんからもご意見があるらしく?



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ