黒鷲の旅団
23日目(24)3週間後のチュートリアル
「お久しぶり。僕は魔法神ユーリッド。どこかで聞いたかな?
こちらは戦女神アレクシオーネと性愛の女神ラプティエラ。
そう固く構えなくていいよ。気楽に気楽に」
気さくな態度で紹介をする魔法神様。
あんまり気さく過ぎて、かえって恐縮なんですが。
それで……神様方が急にどうしたのか。
そもそもは俺と守護天使さんの反省会だったと思うのだが。
「君の守護神の座が空いている。
いやー、何も信仰を強要するつもりは無いんだけれど。
他にも色々すっぽ抜けているみたいじゃないか。
寄って集って手助けしようじゃないかっとうわっち!」
「代われ。ユーリッドの話は冗長でいかん。
中立にして善、光にも闇にも寄り添う者よ」
ペラペラっと喋る魔法神を押し退けて、戦女神。
その中立が何とかいうのは俺の事ですか。
「それだ。その、ピンと来ないという顔。状態。
お前には『ちゅうとりある』という奴が欠けている。
我々、神族との関りについては特にだ。
確かあの、大勢バタバタっと転移して来た連中の1人だろう」
バタバタっと……ああ、そう。そうです。
前に居たVR世界が急に無くなって、強制転移させられて。
「うむ。それで、本来ならば神々の使いで従者が行く。
数日ついて回って、説明やら面倒を見るハズだったのだが。
想定外の人数に、運命神の調整が大いに狂ってな。
準備不足や不幸な偶然が重なってしまった。
神人の元に辿り着けた者も少なかった様だ」
案内人が来る予定だった?
俺の所に来るハズだった従者はどこに。
曰く、初日に見た、死んでいた荷車の人らしい。
戦闘に巻き込まれて命を落としたのか。
一応お役に立ったけれども。荷車だけが。
しかし……まあ、何とかやっていますので。
開始3週間も経ってチュートリアルも無い様な気が。
「そうかも知れんが、何か構わせろ。
打ち砕く猫、不惑の剣神シャパリュー。
流離う狼、不屈の勇者レグハルト。
抗う鷲、不敗の銃聖ハインリヒ。
現状、この3人に勝る注目株は無い」
不敗の……何だって?
どちら様だ、レベル52の俺に大仰な徒名をつけて。
そして構いたいというのはどういう心境なのか。
注目株。もっとレベルの高い連中は沢山居るハズだが。
「僕らが期待しているのは『予想外』さ。
安全圏でレベル上げなんて、見ていて楽しいと思う?
強弱よりも知恵と工夫、筋書きが変わる所が見たいのさ」
その退屈なレベル上げこそが模範的な気もするが。
どうやら俺は興味を持たれているらしい。
恐らくは、ゲーマーの行動原理を外れた物珍しさから。
まあ、それで得られる物があるなら貰っておこう。
まずは助言というかチュートリアル。
先の『中立にして善』は『光にも闇にも』までがセット。
これは神人の評価を1文で表わした物らしい。
秩序・混沌、善と悪、光と闇の3次元判定なのか。
その傾向プラス人望値で総合評価となる。
善人と思われたければ善行値を上げる。
まあ、そこは当たり前であるが。
聖なる武器が真の力を発揮したり。
開けられない魔法の宝箱が出て来たり。
単純に人当たりだけの話ではないらしい。
それで、ある程度傾向が纏まったとして。
次は守護神。傾向に合う神が守護神として紹介される?
される……ハズ、だった。荷車の人が生きていたら。
で、今回立候補して来たのがお三方。
魔法神と戦女神はともかく、何故に性愛の女神。
「はあい、エッチの女神ちゃんよお」
そんなぶっちゃけた自己紹介されるとは思わなんだが。
曰く、信者達が世話になっているからと。
信者。主に娼婦さん。ベラさん達の事か。
性愛の女神は娼婦の守護者の一面を持っていた。
守護神は誰に……魔法神様が良いかな。
俺に神様の優劣を付けられるものでなし。
そうなると、最初に縁があったという事で。
「決まりだね」
「そういう事なら仕方あるまい」
特に争いも無く守護神は決まり。
魔法神の加護がついて、全魔法威力+20%。全部?
破格。大変ありがたい。しかし同時に。
どうして今まで無かったああああ……とも思う。
他の2神様もスキル書をくれるという。
幾つか候補を上げて貰って、選択。
『強攻』と『平静』のスキルを頂戴した。
「あらあ、『絶倫』とかじゃなくていいのお?」
女神様、そういうのは今は良いです……
それではまたなと、神様方は先に引き上げて。
残った守護天使さんは少し楽しそう?
「はい、反省。後ろ向きになってはいけません。
見て下さっている方もいるのです。
自棄を起こさず、もっと前向きに。
めげずに頑張ってくださいね」
めげて……俺は、まあ、めげていたのか。
彼女は何か、単純に励ましたかったのだろうかな。
ついでに本日の成果も教えてくれた。
面倒を見たのが、まずロジェ達。孤児が20人。
俺が手を出さなければ、3人は今日死んでいたという。
それとオデッサの地での避難誘導、538人。
誘拐被害者5人も、命を救ったと言えなくもない。
運命神の筋書きは、より高次の意思を汲んだ物。
その大筋は変えられないが……それでも。
俺達が立てる波風で、幾らかにでも変化は起こる。
些細な変化だ。大筋に関わらない程度の。
しかし人の命など、神様に些末であるならばこそ。
運命の目を盗み、救えている命もあるという事か。
ふと、守護天使さんの姿が消えて。
入れ替わりにアンヌ。
風呂が空いたので呼びに来たのか。
今行くよ。よく休んで、また明日に備えないと。
何かしら、変化の余地がある。
希望ばかり並べて用心を怠るまいが。
しかし、絶望する事もあるまいさ。
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