黒鷲の旅団
23日目(25)消えない影
「若いね……ですね」
今更、丁寧語にしなくて良いけれども。
若いのは仕様だ。アバターを若干老け顔にしてるんだよ。
現実側に戻って、本社ビル。
俺は応接室で来客の相手をしていた。
相手は先日、オフ会の会場で保護した少女だ。
本来ならば、傭兵が接客など専門外なんだが。
向こうから名指しがあった。
どうやら、あちらの世界の知り合いだ。
グロリア・モーガン。異世界では魔女グリモ。
失踪した勇者レグハルトの仲間だった子か。
彼女がオフ会に参加した目的は、抗議。
電脳コピーの削除を認めない運営に対する直談判。
事件のせいで、それどころではなくなってしまったが。
事件。異世界の化け物が出て来て会場を襲撃した。
確認出来た生存者は、この娘と、うちのバリーだけだ。
治安維持部隊の調査結果は俺も見た。
現場の血痕に、他の参加者全員のDNAが確認されている。
死亡自体が確認されたワケではないが。
しかし、血を流しつつ姿を見せないとしたら、主催側。
事件を起こした連中の一味ぐらいだろう。
「やっぱり、そうですか……」
気落ちした様子のグリモ、グロリア嬢。
どうやら友人が同席していたらしい。
元からリアルで友人のフォルンとキッシュ。
ブレイドレイド隊のシーカーも?
住所が近いのが分かって、一緒に行ってくれた。
行ってくれた……ばっかりに死んでしまって。
怖くなって今日ゲームに繋いでみたら、3人とも動いていた。
異世界側でのコピー体は削除されていない。
……おかしな事になっているな。
本来ならば、VR内部の電脳コピー体。
コピー元の死亡が確認されれば削除に至る。
個人の思う所はともかく、電脳倫理局の規定だ。
法的に、そうする事に決まっている。
運営側は即時通知と削除対応を行う義務がある。
単純なタイムラグか。
それとも何かの思惑があって、消すつもりが無いのか。
あるいは本当に、異世界だから消しようが無いのか。
「3人とも、私のせいで死んじゃって。
なのに、あっちだとまだ生きてて。
とても死んじゃってるなんて言い出せなくて。
普通に笑いかけて来てるし、私どうしたら」
泣き出してしまうグロリア嬢。落ち着いて。
運営チームはともかく、親企業はどうしたのか。
ちょっと連絡を入れてみよう。
お客様窓口ぐらいはあるだろう。
アドレスを検索して通信。
すると、疲れた声の受付窓口嬢が出た。
『すみません。7th Earth のお問い合わせですよね?
ええと、今、運営チームが捕まらなくて』
うん……まあ、大変だろうな。
既に苦情や問い合わせが複数あったのは想像がつく。
昨晩の一件は報道されている。
血だらけのオフ会会場がニュース動画で流れていた。
そしてオフ会から帰らない参加者達。
家族や友人が居れば、心配するのも無理からぬ事だ。
死亡が確認された者が居るんだが、コピー体の削除は?
サーバーが独立していて、外部からアクセス出来ないらしい。
内部データをどうこう出来るのは運営だけ。
で、運営チームを呼び出しているが応答しない。
事件性があり、治安維持部隊にも捜索願を出している、か。
分かった。ありがとう。お疲れ様。
受付さんも、どちらかと言えば被害者だろう。
「生き返らせられないかな。ゲームみたいに。
あ、あの、コピーを義体に移したりとかは」
グロリア嬢、それは……やっちゃマズい奴だな。
電脳コピーを残しておいて、本体が死んだら代わりに使う。
そういう疑似不老不死を考えた奴は、過去にも大勢居た。
しかし、コンピュータウイルスに食われて結局死んだり。
記憶の取捨選択『忘れる』が間に合わず容量パンクしたり。
コピーの繰り返しで人格が劣化、社会から抹殺されたりとか。
道義上、諸々の問題もあって、今は禁止されている。
本人の意思でなし、不幸な巻き添えだ。
身辺整理をする猶予ぐらい与えてやりたい所だが。
コピーを現実へ再利用するのは難しい。
まあ、俺も向こうの世界で話してみる事にしよう。
消されないならもう、本当に転生したつもりで。
あちらの人生を楽しんで貰うしかない……
いやでも、楽しめないのに同意したから抗議に行ったのか。
上手くない感は否めないな。
どうあれ、あんたが殺したワケじゃないんだから。
気を落とさない様に励まして、グロリア嬢を自宅へ送る。
それと警備部に連絡。彼女の身辺警護を手配した。
運営チーム、オフ会で全員死んだのではないだろう。
生存者、事件の首謀者が、彼女に接触して来るかも知れない。
ゲーム世界だか異世界だか分からんが。
まだ繋がって、まだ機能している。
運営チーム、あるいはその一部かも知れないが。
この一連の事件、異世界と転送して云々。
これで終わりという事も無いだろう。
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