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黒鷲の旅団
24日目(1)最適解の連鎖

「このっ……と、ととっ!?」

 ロジェ、そのまま伏せてろ。

 剣を振り切って前のめりになったロジェ。
 その屈む背中越しに、俺の横薙ぎ。
 長刀クト・ド・ブレシェがゴブリンの顔を横一文字に裂く。
 態勢を持ち直したロジェが突き掛かってトドメを刺した。

 先日に引き続き、子供達を連れての実地訓練。
 まずはロジェに付き添い、サンドラ、アンヌと強行軍。
 ロジェは少し剣を習って来た様だが、まだ危なっかしい。

「はあ、はあ……くそ。
 こっち来てくれたら当たったのに」

 なるほど、少し先を読んでみた、か。
 発想自体は悪くない。
 あとは少し頭を使ってみよう。

 と、講義を始めようとして、興味を引いたか。
 サンドラちゃんの足も止まってしまった。
 アンヌ……説明する前に、任せてと言ってくれる。
 雑魚散らしはアンヌに任せ、2人に少し話をする。

 ゴブリンが前に出て来たら、ロジェの間合いに入った。
 では、どうして前に出て来てくれなかったか。

「斬られる、思ったから」

 サンドラちゃん、正解。
 ゴブリンもこちらを見て考えている。
 魔物でも獣でも、人間でも魔王様でも。
 戦う相手にも思考だの気持ちだのがある。

 戦いでも、商売でも、あるいは恋愛でも。
 相手の気持ちは相手の物だ。
 天に祈った所で、こちらの都合に向く物ではない。
 そこでこうして欲しい、があるとしたら。
 向こうからそうする様に仕向けないといけない。

 敵を、ゴブリンを前に出て来させたかったら。
 例えば、そうだな。隙を見せるとか。
 用意出来るなら、餌になる物をチラつかせるか。
 あるいは、反対から追い立てて貰うのも良い。
 1対1に拘らなくて良いからな。
 手段は1つじゃない。知恵を工夫をと凝らして行こう。

 実力の拮抗した、剣士の斬り合いを見た事がある。
 ああいうのは最早、詰め将棋の次元だ。
 読み合いと最適解の応酬。
 身体と同時に頭もフル回転させる。
 させなければ勝てた物ではない。

 だけど俺なんて、とロジェ。
 ここまで学が無いなんてのは気に病まなくていい。
 知性ってのは知識の量じゃない。
 知識を得たとして、それをどう生かすかが知性だ。
 勿論、沢山知っているに越した事は無いが。
 座学だけじゃない。実地で得られる知識もある。

 そしてお前達は今、実戦の中に居る。
 足りない知識は後からでも補う。
 補おう。足りないと感じるのなら。

 鍛錬ばかりの脳筋になるなよ?
 どうせなるなら、知勇揃ったインテリ剣士。
 正しく使ってやらんと、筋肉だって可哀想だ。
 俺に筋肉を愛する様な嗜好は無いけれども。
 工夫しないマッチョは工夫するマッチョに勝てない。

 工夫。いきなり自分でやれっても難しいだろう。
 幾つか例を見せようか。

 右にゴブリン。俺は大振りで向かって見せる。
 ゴブリンは上段に構えて防ぎ、迎え撃とうとする。
 俺は反転。反転しつつ剣を下へ。
 そのまま横回転、振り上げながら逆風の太刀で斬る。
 剣はガードを掻い潜り、腹から肩口へ切り裂いた。

 次。魔法。ゴブリンは3匹。
 一番前の奴に昏倒魔法。一時的に倒れる。
 俺は左へ大きく踏み込んで逸れる。
 前の奴を盾にした2番手が飛び込んで来て空振り。
 やりたい事が見え見えなんだよ。

 3番手に閃光魔法を放りつつ、2番手を刺殺。
 1番手を踏んで抑える。3番手の喉を斬る。
 すぐ剣を戻して1番手を刺殺。
 手は2本ある。足もある。忘れてはいけない。

 次。足りない物は拾っても良い。
 石を拾う。振りかぶる。
 投擲と見て顔をガードするゴブリン。
 このガードまで誘導だ。

 石は投げず、左手の剣で足を裂く。
 ノーガードの足。深く斬った。
 よろけた。追撃。石を握った右手で殴る。
 更に首を剣で斬ってトドメ。
 石はその向こう、慌てている奴に投げちまおう。

「早ぇえ……」
「ふぉおお……」

 2人とも口が空いている。
 感心してないで、自分でも考えてくれよー?

 阻害魔法はサンドラちゃんも得意。
 カッコいい所を見せてやんなさい。

 ロジェは少し見て学ぶのも良いだろう。
 あれ覚えたい、みたいな魔法が見つかるかも知れん。
 サイクロの1体2体も倒せば、習得資金は溜まるハズだ。

 強く頷くサンドラとロジェ。
 教え甲斐のある生徒達で大変よろしい。

 アンヌが戻って来て、引率を任せる。
 俺は少し他の隊も見て来よう。



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