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黒鷲の旅団
24日目(3)少し手の届かない所で

「キミか……ごめんよ。ボクも居たってのに」

 血まみれで振り返ったのはジュス姉さん。

 第1弓兵隊はエメリナからの救援要請。
 駆け付けた所、辺りは一面、血みどろの惨状だった。
 敵は人間、だった様だな。盗賊か傭兵崩れ。
 バラバラになった鎧甲冑に、千切れた人体がくっついている。

 何があった。状況は。

「こいつらがさ……こいつら……ああ、もうっ!」

 落ち着け。鎮静魔法。
 死体を損壊し続けるジュス姉さんを宥める。
 探知。解析。パラメータ表示。
 死者は出ていない。大丈夫だ。大丈夫だから。

 姉さんは休ませよう。
 他に誰か手は空いていないか。
 エメリナが顔を出して説明してくれる。

 襲っていたのは盗賊だとして、襲われていたのはキース達。
 バートが抜けた元バート隊、中層出身者チーム。
 補助兼お目付け役としてヴラスタも同行していた。
 そのヴラスタの姿が見えないが……負傷?
 一時重体で、処置はしたがショック状態。
 輜重隊の馬車で休ませているらしい。

 エメリナ達、第1弓兵隊。輜重隊はジュス姉さん達も。
 救援要請は無かったが、探知情報で異変に気付いた。
 赤い光点、敵反応に囲まれたキース隊。
 マズイと思って応援に向かった所、味方は既に恐慌状態。
 負傷者も多く……負傷者。大丈夫か。

 損害状況は。重軽傷が5人。先のヴラスタを1人として。
 引率の魔女ヴァウラが後ろから殴られて頭部打撲。
 レイモンドが足を斬られた。幸い傷は浅かったが。
 シャノンとリッツァも殴られたり掴まれたり。

 掴まれたり、か。敵側に誘拐の意図があったと見える。
 そのつもりで近づいたか、後で思いついたか分からんが。

 当事者からも話を聞きたい。輜重隊の馬車だったか。
 マリナやフレヤを中心に、治療に当たっているらしい。

 中層チームは怪我に慣れていない。
 ヴラスタもケンカ負けするタイプじゃない。
 意気消沈しているという。俺からも励ましておこう。

 馬車の方へ向かい、すれ違ったのはキース。
 暗い顔は責任を感じていると見える。
 後で話を聞く。1人で出歩くなよ?
 返って来たのは生返事。不安。
 マルカ、付き添ってやって。

「あっ、ボス。ちょっと相談が」
「あのね、ヒールだとアザが消えなくて」

 馬車の中、振り返ったフレヤとマリナ。
 掴まれたリッツァの腕にアザ。
 診察と鑑定……えーと、誰か形成外科魔法は。
 持ってる、とマリナ。試してみて。
 上手く行かなかったら、俺が後でまたやってみよう。

「やっぱり大人の男って怖いね。
 あああ、旦那じゃなくてさ」

 無理して笑っている様子のヴラスタ。
 話を聞きたいんだが、大丈夫か。
 あたし話すよ、とヴラスタ。お願いします。

 キース隊の動きとしては、敵を探していた。
 他の隊と同じく、的を探して右往左往。

 そんな折、赤い点に向かったら盗賊で。
 キースは相手が人間である事に躊躇した様だ。
 先手を打つ前にまごまごして、気付かれた。

 加えて、先にどこかの隊商が襲われていて。
 乱暴されていた女性が数人。助けようと思ったんだな。
 善悪としては正しいが、身の程としてはマズイ。
 自分の身も守れない内に、誰かを助けようと。

 キースがやらかしたと聞いたが、具体的には?
 どうも聞く限り、盗賊に何か言われて頭に血が上った。
 挑発に乗って前進。伏兵に後ろを取られて……

「ああ、でも、あたしも悪かったんだよ。
 どうするんだい、なんて聞いちまった。
 他の奴らも釣られて前に出ちまって。
 お目付け役、あたしが手綱を握るべきだったんだ」

 なるほど、彼だけを責めるまいが。
 ヴラスタも大人ぶっていて、しかしまだ子供だ。
 対処し切れない事があるのも仕方ないだろう。
 今回は俺達のフォローが足りなかった。

「死ぬ前に助けが来たんだ。悪かないよ。
 身に染みたね。あたしらだけで冒険者は無理さ。
 なあ、この、何だ。指導ってヤツかい?
 やめるなんて言わないでおくれよ?」

 危険を実感した一方で、得る物も得ている様子。
 ヴラスタは今後も前向きに参加してくれるらしい。
 まあでも、何も対策を講じないワケには行くまい。
 キースとも話はしよう。

 他の子達は大丈夫か。
 冒険者は嫌だというリッツァ。
 もう戦いたくない、とシャノン。
 レイモンドも続けるか迷っている様子。

 うん、まあ、そうだな。冒険者に拘る必要は無い。
 俺も冒険者と決めて養成しているつもりは無いよ。
 向いていないと、命がある内に気付けたのは幸運だ。

 ただ、どう暮らしていくにせよ、盗賊は怖い。
 略奪に来る兵隊や騎士崩れは怖い。
 対応出来る程度の武器や魔法の扱いは覚えさせたい。

 どうすれば良かったか、対応出来るのか。
 殺せないなら捕縛しよう。何か阻害魔法が欲しい。

 もっと頭数が居たら。数で優っていれば。
 あるいは何か強力な武器でもあれば。
 その辺をカバーするのは通信ないし転移魔法だな。

 レベルは少し上がっている。
 保有魔力の許す範囲で、何か魔法を覚えさせよう。
 あとは、その後の仕事を見つけられたら良いんだが。

 さて、マルカに通信。キースはどうしたか。
 みんなから遠ざかろうとしている?
 想定内だ。世話を掛けるが、そのまま追従してくれ。

 それとレーネ隊、カバー頼む。
 俺もすぐに追いかけよう。



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