黒鷲の旅団
25日目(6)集え腹ペコ
「それー、いっちばーん!」
首都の東門を潜り、潜った途端にカーチャがダッシュ。
魔女協会の敷地を目指して突っ込んで行く。
競争とか好きだね、お前ちゃんは。
「だあーやられた!」
「あああーん、待ってー!」
追い掛けるのはフレヤとリリヤ。
イヌ科の血統、人狼フレヤの駆けっこ好きは分かるとして。
リリヤは、よくついて行くなあ。
スキュラはイヌ科扱いで良いんだろうか。
リリヤは誰かが何かすると、何にでも食いつく。
誰かと一緒に何かするのが楽しい。とにかく楽しい。
続いて行こうとするカリマ……おっと危ない。
俺はカリマの手を引いて止めた。
その鼻先を凄い勢いで、馬車が1台横切って行く。
驚いたカリマ、戻って来て抱き付いて来る。
ビックリしたな。怖かった怖かった。
ちゃんと左右見て行かないとダメだぞ。
探知情報は見てた? まあ、敵反応じゃなかったしな。
向こうも悪気は無かったのだろう。
安全を確認して、また走り出すカリマ。
フェドラが心配して、追従してくれる様だ。
しかし、競争か。誰の足が速いか。
本気出して一番速いのは、瞬発一芸のトゥリンだろうか。
持久力では、高レベルのヘルヴィ、ヘレヴィも強そう。
アンヌやジュス姉さんは規格外過ぎ。勘定に入れません。
「なあ、ホントに辞めちゃうのか?」
「うん……だって」
「向いてないし……」
後方、輜重隊周りではキース。
話し相手は冒険者を辞退したいリッツァとシャノン。
キースの失敗も悪気が無かったと、許してはくれたが。
冒険を辞める、という意志は固い様だ。
キース、無理強いしない様にな。
まずはお前が、守ってやれるぐらい強くならないと。
リッツァとシャノンは、今後どうしたい?
何もしたくない、とリッツァ。
まだ怖かったショックを引きずっているかな。
何もしないまま生きて行くのは難しい、が。
しかし、幾らか休暇を取っても良いだろう。
今日の分配金でも数日は凌げる。
お店屋さんが良い、とシャノン。
道具屋さん? 仕立て屋さんが良いか。
何か下働きの仕事が無いか聞いてみよう。
ひとまずは、全員魔女協会の敷地へ。
門を閉めるよーという所で、
「待って! 待ってー!」
走って来る子供が4人。
凄い勢いだが、何があった。
「ああー、帰ったんじゃなかったのかい」
「すいません、あの子達〜」
魔女協会、今日の受付担当はアマーリアとクロリンダ。
俺達が街を出た後、訪ねて来た子供達だという。
入れ違いになった参加希望者という事か。
なかなか会えなくて、焦りでもあったのだろう。
シュテルン側から流れてきた難民。
孤児のフレデリックとマトゥーシュ。
親は健在だが戦乱で失業。生活が苦しい。
自発的に家出して来たというフランカ。
貧しくはないが、親を亡くした貴族の子。
正妻の子でないので冷たくされているルパート。
路地の向こうで心配そうに見ているのは母親か?
貴族にしては痩せて、食事も満足ではなさそうだ。
困っている、というのも人それぞれだな。
1本線を引いて分けるのも難しい。
今日の引率は終了だが、昼食ぐらいは提供しよう。
ルパート、そこの母さんも連れておいで。
母さんじゃなくて姉さん?
ああ、どっちでも良いんだが。
魔女協会の敷地を借りて昼食の用意。
主な食材はガルーダ肉が3羽分。
デカい鳥型モンスターの肉を切り分け、唐揚げにする。
それから、屋敷の敷地で採れた野菜。
搬送は転移魔法から。
あとは通信だ。クラウディオさん。
野菜果物と雇用費の収支報告を頼む。
頼んだら……若干の赤字。
マイナスにして6200、銀貨6枚ばかり。
急に何する必要も無い、とは思うけれども。
作付けぐらいは工夫するべきだろうか。
農業経験者のアドバイスが欲しい。
指南書を探して、農村の人々にも話を聞いてみたい。
さて、子供達と手分けして昼食の用意。
用意をしていたら、建物から魔女達がワラワラと。
対策会議の方は終わったかな?
「会議中止! 中止〜っ!」
「こんなンまそうな匂いしてたら、やってらんないよ」
「お腹すいたぁ〜」
何だか邪魔してしまっただろうか。
まあ、腹が減り過ぎても考えが纏まるまい。
しっかり腹ごしらえして頂こう。
「すいません、お世話になります。
それと、お耳に入れておきたい事が」
フレスさんから、はい、何でしょう。
どうやらシュテルン新首脳部、第1公女側。
通信魔法を利用して、国内外に宣言を出すらしい。
各魔法系ギルドに通達があったのだと。
誰か神人でも入れ知恵をしたのだろうか。
時間は……正午。これからか。
メシ食いながらでも聞いてみよう。
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