黒鷲の旅団
24日目(8)遥か夢想を抱いて
『魔王は強大で、今は夢物語かも知れません。
ですが、決して届かぬ夢とは思いません。
どうか皆様……勇者様。魔王に抗う勇者様達。
民の安寧の為、共に戦おうではありませんか!』
第1公女、新女王の演説は持ち直した様で。
俺にとっては良かったのか悪かったのか。
まあ、方向性がハッキリしただけ良かったのか。
シュテルン新女王、第1公女アーデルハイト。
勇者や神聖教会と組み、魔王とは対立する道を選んだ。
現状、第2公子が魔王と組んでいる様な物だ。
他に選択肢が無かったかも知れない。
黙っておけば、纏まりを欠いた軍隊になった。
各個撃破は容易になった可能性はある。
ただ、それはそれで動向を読み難くなる。
連携が取れていないのか、何かの罠なのか。
それに、弱兵を叩いても手柄になるまい。
シュテルン内乱について、俺の夢想する所があるとすれば。
何か手柄でも立てて、領地を貰う。
自由に出来る土地があれば、亜人保護が容易になる。
領地を頂くなら、街道を外れた所が良いなあ。
利便性を追求すると、利権狙いの横槍も入るだろう。
ちょっと不便なぐらいで、しかし水源さえあれば。
まあ、上から頂く物だ。選べるかも分からんか。
問題は、どう手柄を立てるか、だ。
前に出過ぎても危険だし。
ずっと安全圏では手柄になり難いし。
子供達は置いて行く、という方法も考えたが。
シュテルンと反対側の脅威は、魔王バティスタン軍だ。
奴らは馬鹿げた超兵器をぶち込んで来るのが怖い。
魔女達の会議だが、難航していると大魔女フリアリーゼ。
奴らの使う神代、古代文明の兵器は多種多様。
どんな物か分かれば対策出来るが、どうしても後手に回る。
探りを入れようにも……危険過ぎるな。
奴らは残虐性と戦闘能力が高い。
ちょっと行って来て、なんて気軽には言えない。
内乱自体は内定している。
誰か宣戦布告を出すのも時間の問題だろう。
シュテルン側が揉めれば、魔王バティスタン側も動く。
手を組んでいなくとも好機ぐらいには思うハズだ。
停戦協定を守るお行儀の良さもあるまい。
どこかとは戦う事になる……それならば。
子供達は山向こうまで連れて行った方が安心かも知れない。
南カルパティア山脈を越えて、トランシルヴァニアまで。
イーディスと話を付けて、リュドミラを頼るのはアリだ。
口実は、ヴィンフリード支援、かな。
トランシルヴァニアの兄妹が決起・対抗してくれたなら。
イーディスの軍は、あちらを気にしなくても良くなる。
そうだ、街の子供達はどうしようか。
何かあったら魔女協会で保護して貰うか。
あるいは、あちらに生活拠点を用意して……
情勢次第では、ポータルで行き来しても良いか。
キャスティーナ領の手伝いはどうするか。
ポータルで行って指示だけ出すぐらいは良いが。
あまり忙しくなる様なら代理を探さないと。
いずれにせよ、午後にはイーディスと相談したい。
忙しいだろうし、すぐ会談出来るか分からんが。
さて、シュテルンの通信魔法放送が終わって。
みんな、食事は……まだ途中?
演説に聞き入っていただろうか。
「むぐっ、むごもご」
「んむんむんむんむ」
「もへふぉまっふぇー」
ツェンタ、アイリス、フリーダ、頬張り過ぎ。
3人してリスみたいになっている。
そんな急がなくて良いから。
「お待たせしもむぉふもぉふ」
フレスさんが特許報告に……食べながら来ちゃった。
隙を見せるだけ気を許してくれるのは良いけれども。
そんな急がなくて良いってばよ。
先の特許申請結果は、穏天魔法、生活B。
上昇気流、下降気流魔法、多目的C。
沸騰、調熱魔法、生活C。気泡魔法、補助B。
新規申請は粉塵爆発魔法1つ。
興味は持ってくれたが、1つ。もっと頑張らないと。
魔法伝承料、売り上げ。
Sクラスは一般向けに温泉魔法4件、大魔女達の習得が10件。
俺の取り分は、これだけでも420万になる。
Aクラスは治癒系統を中心に47件。940万。
Bクラスは攻撃から生活からと幅広く81件。810万。
Cクラスは33件。165万。こちらもジワジワと伸びている。
増えているのは、神人の冒険者が戦争から戻ったからか。
あんな結果になったが、それでも停戦条約が成った。
破られるまで迂闊に手出し出来ない。
あとは難民達を見て、自分も何かしなきゃと思っただろうか。
水脈魔法や製粉魔法が、神人らしい記名で買われている。
それと、整地魔法を買っていった物好きが居る。
どこぞの神人が、街と街を繋ぐ……何か。
魔女達には聞き慣れない単語らしく、伝達が曖昧。
ただ、大掛かりな工事を計画しているらしい。
夢想家は少なからず。俺も他人の事は言えないが。
さて、誰の想いがどこまで叶うやら。
子供達の食事は終わった様だ。
装備の手入れと矢弾の補充をしておいで。
俺はその間に、公主と話が出来ないか試してみよう。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|