黒鷲の旅団
24日目(11)金と男と花と夢
「あはは……旦那、参ったね。
ホント、もう……見ての通りさ」
東下層区、自宅前で力無く笑うベラさん。
直視したくないのか、屋内に背を向けていた。
何も無い、無くなった彼女とマリナの家。
あったハズの物。借金の返済の為に集まったカンパ。
更には衣類、金品、家財道具の何から何に至るまで。
全て持ち去られてしまったという。
容疑者は冒険者ヒューバート。
手際が良過ぎるので、他に仲間が居るだろう。
ベラさんに言い寄って、普段から出入りしていた。
彼女と子供達以外で、家に金が集まるのを知っていた。
どこからだ。最初から金目当てで近づいたのか。
それとも大金を見た事で、おかしな気を起こしたのか。
「えー、何でだよう」
「せっかく集めたのに」
「おいおい、あたしらが頂いたんじゃないんだぜ?」
イェンナとマリナが口を尖らせて、どうした。
相手は金貸しのボルジャー氏か。
借金返済の受け取りに来ていただろうかな。
折角金を集めたのに、しかし渡せなかった。
結果として、借金が減らない。この辺が不満。
とは言え、彼が盗んだワケでなし、だ。
ひとまずこの場は、利息だけでも立て替えよう。
利息分。ざっくり50万で足りるかな。
「おっ、すんませんねえ、旦那さん。
今日で全額返せそうって聞いて来たんだがね。
とんだ肩透かしになったが、まあ、同情するよ」
残り全額、は……1千万と少々らしい。
全く出せない額でもないが、痛い出費ではある。
順当に利息を支払っており、ボルジャー氏も急かさない様子。
何よりベラさんが受け取るまい。
返済については、盗まれた金の奪還を優先事項としよう。
ヒューバートが考え直して戻るか……期待するまいが。
ベラさんはどうしたいか。
金ならまた稼ごう、スパッと忘れたい、という。
捕まるならそれでも良いが、顔も見たくないと。
幾ら割り切ると言っても、ショックはあっただろう。
「おばちゃん……」
「ベラさん……」
「マリナの母ちゃん……」
「あはは、大丈夫だから。そんな顔しないでおくれ」
無理して笑うベラさんだが。
子供達の気の毒がる顔が晴れない。
無理しているのが丸分かりだものな。
「あ、あ、あの……元気を、出して……」
おずおずと、骸骨騎士クラウスさん。
どこから摘んで来たのか、花を差し出す。
ふふっと笑うベラさん。
何か思い出があっただろうか。
「死んだ旦那も、よく花をくれたんだよ。
腹も膨れないって言ってんのにね。
あんな優しい男を忘れようとして。
夢見がちな、バカな男に引っかかって。
まったく……あたしはホント、何やって……」
泣き出してしまうベラさん。
変に抑えるより、一度発散させた方が良いだろう。
マリナとクラウスさんが慰めてくれる。
ベラさんは家を引き払いたいという。
マリナを育て、夫の帰りを待った思い出の家。
しかし悪い男に騙された家でもある、か。
家財道具も無くなり、このままでは住み辛い。
そうだな。当面は住み込みで働いて貰おうか。
借金立て替えを保留にした金で、家の方を建てよう。
ベラさんも連れて自宅の敷地へ。ウインドウをチェック。
メイドさん宿舎として、小サイズの別館を1つ追加する。
費用は1千万。自宅の敷地に10人収容出来る家屋が建った。
小さくともお屋敷相当。中身は小綺麗だ。
以下、現在の屋敷前の施設配置。
別館・別館・庭園・別館・空き
牧場・牧場・空き・醸造・果樹
牧場・牧場・空き・農地・農地
左上の隅、牧場前が新しい建物。
部屋割はベラさんと仲間達、大人侍女4人。
見習い侍女ヴァーニとハリシャ。
フィリュギーナとアルヴィタもここで療養させる。
世話役のマーシーとマレーンにも一部屋ずつ貸す。
お家賃は契約更新と相殺します。
どうか気兼ね無く使ってください。
ベラさんが仲間達と早速確認に行って。
大丈夫そう? なら、後の事は任せよう。
魔女協会経由で、憲兵隊と冒険者ギルドに連絡。
冒険者ヒューバートの捕縛依頼を出したい。
懸賞金は、ひとまず200万。
盗んだ金が戻れば、何割か都合しても良い。
戻るかは、正直分からん。
ベラさん曰く、夢見がちな男ヒューバート。
名を上げる、元手が要ると言っていた様だ。
早々に使い込んで、回収不能になっている可能性もある。
本当にまた稼ぐつもりで、期待半分としておこう。
次いで、トランシルヴァニアへ向かう……前に。
リュドミラと通信。いきなり大勢で押し掛けては悪い。
リュドミラは……戦闘中?
内乱の前哨戦。近隣の盗賊の根城を攻めているという。
応援を求められる。こちらもすぐに向かおう。
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