黒鷲の旅団 >24日目(12)わざと留守だよリュドミラちゃん


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24日目(12)わざと留守だよリュドミラちゃん

『助力感謝! そちらをお願いします!』

 なるほど、才媛リュドミラ。悪くはない戦略眼だ。

 ポータルでブラショヴのヴィンフリードの館へ。
 リュドミラから通信を受け取る。
 指示は盗賊退治参戦ではなく、ブラショヴの防衛支援だった。

 リュドミラは北東、スフントゥゲオルゲにある古い砦へ。
 盗賊が住み着いており、掃除しておきたい。
 内乱が始まるのを見越しての足場固めだ。

 その、彼女の出兵に呼応するかの様に、北。
 フェルディワラ、マイエルシュで出兵の動きあり。
 斥候から報告を得たとは、リュドミラの騎士ジャンナから。
 ブラショヴを目指して動いている様だが、加勢ではあるまい。

 西のシビウを預かる第7公女ユスティーナはまた別派閥だが。
 北西のトゥルグムレシュを預かる第12公女ヴァルプルガ。
 こいつがアーデルハイトの同母妹だという。

 そしてフェルディワラ領主ウルバン男爵。
 マイエルシュ領主バルトシーク子爵。
 ヴィンフリード派閥だが、ヴァルプルガと内通している。
 屋敷の侍女に金を掴ませて探りを入れ、確信を得たのだと。

 こちらの主軍が出払った隙を突いて、大勢で押し掛けて。
 連中の意図は、制圧するか恭順を迫るか、だろうな。

 ヴァルプルガは若く経験が浅い。長姉への信奉が強い。
 功を焦っており、周囲に小狡い手下も多いらしい。
 そこへリュドミラは、あえて脇を見せたんだ。
 敵を敵だと確定させて釣り出して、反転挟撃する為に。
 盗賊退治なんて、途中で一旦放り出したって良いんだ。

 防衛はヴィンフリード麾下、騎士20足らず、兵士300程度。
 外に出ているリュドミラの隊が1千ちょい。

 相手は、先に来るであろうウルバン男爵が2千程度。
 続くバルトシーク子爵が3千から4千。

 マトモにやりあったら踏み潰される。策が要る。
 挟撃を狙うリュドミラの立ち回りは正しい。
 調虎離山、声東撃西とか。
 ここらに三十六計が伝わっているか知らんけど。

 兵の質ではこちらが上だと騎士マクシーネの主張。
 根拠は? 連中は治安維持活動を怠っている?
 少なくとも実戦経験では負けていないという。

 神人の参戦者は。確認されたのは傭兵が3名。
 レベル30台、40台、80台が1人ずつ。
 このぐらいなら何とでもなるか。後は作戦次第かな。
 策が嵌れば、アンヌ達が大暴れするまでも無いだろう。

 戦力差を除くと、目下、懸念事項が2つ。

 その1つは、戦略的策謀が政局に先走っている事だろう。
 相手方から通達は無く、こちらの宣戦布告も済んでいない。
 ここでの先制攻撃は、戦術的に正しいが政略的にはマズイ。
 応援に来たと主張されては、友軍を撃ったと非難を受ける。

 継承戦争だろう。敵を倒し、町村を焼いて終わりではない。
 降す相手は蛮族でも侵略者でもない。自国民だ。
 日和見をしている諸侯を説得し、支持を得ていく必要がある。
 投降するクソマジメな騎士兵卒にも、快く協力して貰いたい。

 加えて、アーデルハイトの勇者達の事もある。
 神人。異世界人。魔王を倒す為に集まった勇者達。
 人間同士の対立には好んで口を出さない、と思う一方で。
 あまり悪辣な勝ち方をして見せると、介入の口実を作る。
 悪い奴らだからやっつけても良い、などと。

 連中が本腰を入れ出すと、戦線が泥沼になる。
 死んでも生き返り、暴れる。無茶な技を使う。
 巻き込まれる唯人達からしたら、迷惑極まりない。

 そんな諸々のワケで、ただ強いと示すだけでは不十分。
 勿論、勝たない事には始まらないのだが。
 なるべくクリーンに勝って行かねばなるまい。

 まずはヴィンフリード公子の同意を得て、街の門を閉ざす。
 閉ざした上で待ち構え、相手方の意図を確認する。
 十中八九、侵略目的だと思うが……念の為だ。
 何を言って来るか。いっそ攻撃して来ると分かり易いんだが。
 一方で、向こうの1発目が味方に当たるのも嬉しくない。

 応対は誰がやるか。言い出しっぺの俺も勿論だが。
 傀儡でないと示す為、ヴィンフリードの姿も必要か。

『お兄様に危ない事をさせたくないのですが』
「リュドミラ、それ、そっくり返すからね」

 俺の通信魔法越しに、意思疎通。
 兄さんの方も乗り気なのは結構として。
 旗頭が最初の一発で狙撃されても困る。

 ヴィンフリードに障壁魔法。
 第4位は付与型のアンチミサイルフィールド。
 飛び道具を1発は無効化するが、1発だけだ。
 意思確認中に撃って来たら、早めに引っ込んでくれ。
 護衛の騎士ジャンナとマクシーネの守りにも期待します。

 対面してみて、本当に援軍だとか抜かす場合は……
 必要無いのでお引き取り下さい、かなあ。
 食料配給ぐらいは応じても、街に入れたくない。
 先にフェルディワラの1隊が来るとして。
 次のマイエルシュの隊が来るまでに対応を考えよう。

 その間に、俺達の立ち回りだが。
 手柄も欲しい一方、あまり派手にやると標的にされる。
 最優先事項は、あくまで全員無事に帰る事。
 主軍、リュドミラ達に活躍させて、その援護に徹したい。

 どこに布陣するか。リュドミラが北東から折り返す。
 そうなると、俺達は北西だろうかな。
 敵が首都の門を叩いていて、側面から襲撃を受ける。
 何くそと向き直った所で、また反対から撃たれるのがベスト。

 魔女協会はフレスヴェーナ派に通信。
 ヴィンフリードの支援をお願いしつつ。
 黒鷲団はブラショヴを出ます。
 西門を出て北上、コドレアの東辺りで待機する。
 携行ポータルを設置して、帰還ポイントに指定。
 そこまで準備したら、俺だけ門の方に戻ろう。

 移動を開始。ベテランのユッタ達は意気揚々だが。
 緊張した面持ちのジルケ、フィリッパ。
 不安そうな顔をするキーア、ティリー、リューリ。
 大丈夫を繰り返すリリヤとトゥリン。

 この辺が懸念事項2つ目だ。

 ルーシャより後、ジルケ達、各第2小隊の辺りから。
 魔軍とは戦っても、人間相手の戦争には参加していない。
 まだ人間を撃つのに抵抗がある子も居るだろう。
 心得が要る。移動しながら、ちょっと話そう。



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