黒鷲の旅団
24日目(13)黒鷲団、挟撃準備中
「えっ、じゃあ、殺さなくて良いの?」
聞き返して来たのは第2弩兵隊のダーシャ。
まあ、不殺の方が難しいし、拘る必要は無いのだが。
要は無力化さえ出来れば良い。
ブラショヴ北西、コドレアの少し東。
草原、丘の上に、隠れ防衛陣地を構築する。
石柱魔法、分解、錬成魔法。
遮蔽物として低い石壁を作る。
更に植物魔法を追加。
草を増やして目立たなくしていく。
黒鷲団はここに潜伏。
まずは先鋒、ウルバン男爵とやらの部隊をやり過ごす。
ヴィンフリードの都市防衛隊が連中を足止め。
その戦闘が始まったら、後方から攻撃を開始する。
殺傷ではなく無力化と言ったのは、後に続く話だ。
ウルバン男爵を討ち取るか降伏させた後。
投降者を指揮下に収め、次の敵と当たらなければならん。
敵の死傷者数も抑えつつ、無力化して勝利を収める。
阻害魔法付与や、手足を撃って動けなくするのが良い。
簡単な負傷であれば、範囲治癒魔法で治せば済む。
「じゃあ、最初から敵のボスを撃っちゃうとか?」
イェンナ、それも出来なくは無いだろうが。
肝心な所はリュドミラかヴィンフリードに任せたい。
その方が味方が盛り上がり、投降者も増える。
「敵がこっち来ちゃった時は?」
ティルアの心配。
そうならない様に立ち回るのがベストだが。
それでも手は打っておくべきだな。
陣地周りに罠。後方は退路の確認。
それと、帰還スクロールの準備は良いか?
撃滅に拘らないので、ヤバそうなら一度全員撤収しよう。
戦っていない街のポータルから出直し。少々手間にはなるが。
敵を分断するだけでも、本隊は助かるだろう。
手柄よりも、無事に帰る事を優先して考えよう。
「あ、あのっ!」
マリッタ挙手。曰く、手柄も立てたい。攻め込みたい。
領地などが手に入るなら、獣人や亜人種を呼び込んで、と。
そうか、キーア達に、魔王領からの避難民の話を聞いたのか。
まあ、領地が欲しいのはそうなんだがな。
焦ってお前達を失うのは、俺の望む所ではない。
「ですが、命を、心を助けて頂きました。
御為ならば命を懸けようという者は、私だけではないかと」
命を懸けて恩返し、か。
そんな事はさせないつもりだが……
そうだ、1つ確認しておく。
万が一、俺が皆に死んでくれと言う事があれば。
それは俺自身がどうかしている。
焦ってか捨て鉢になって、あるいは操られているか。
とにかく、そんな俺は正気じゃない。
俺がおかしくなった時は、俺を無力化して欲しい。
縛ってでも、殴って気絶させてでも。
そうでない者は、誰かに助けを求めてくれ。
魔女さんやアンヌ達、近くに居れば公主様でも。
お前達が誰か死んだら、俺は少なからず凹むだろう。
付き合いの長い子達は勿論、そうでない子でも。
花人隊や魔物隊、魔女達やマイナさんみたいな大人でも。
控えめに言っても、精神衛生上よろしくない。
まあ、世間の困っている人達にも手を貸したい所だが。
まずは身内の安全を第一とする。
そういう事なら、とマリッタ。
強く頷くのは良いが、指をボキボキ鳴らすのは少し怖い。
まだパンチくれなくて良いんだからネ?
あっすいません、とマリッタ。
イヒヒと笑うのはマルカとティルア。
さて、午前中の巡回でレベルが上がっているな。
イェンナのレベルが50に届いた。
ヘルヴィ、ヘレヴィの銃器熟練度も基準を満たしている。
それぞれ狙撃猟兵にクラスチェンジを……んん?
ヘルヴィとヘレヴィは選択肢がある。
狙撃猟兵と、突撃猟兵だと。
元暗殺者、近接戦闘の経験があるからかな。
銃種の熟練適性、距離適性が違う様だ。
狙撃猟兵で……構わないかな?
機関銃や散弾銃も、別に使えなくなる訳でなし。
ユッタ達と同じ距離で戦える様にしておいて欲しい。
ユッタと同じが良いわ、と、2人は同意してくれた。
それから、キーア、ティリー、リューリ。
レベル10に到達。正規兵とします。
それぞれの隊員について、役割も振っておこう。
第2弩兵隊は隊長フリーダの下、リリヤを副長に
ダーシャを参謀、トゥリンを斥候。
キーアを衛生担当、ティリーを経理役とする。
第2弓兵隊は隊長ルジェナから、副長をマリッタ。
参謀アルメル、斥候ヒュリヤ、衛生をリューリに任せよう。
まだ5人小隊、経理が居ない事になるが。
不足がある部分は、俺が代わりに見ておく事とする。
遠目、街道を南下する兵団が見えた。
恐らくはウルバン男爵の部隊だな。
子供達はここで待機。なるべく隠れておいて。
武器さえ見られなければ、近所の子供程度に見える。
マイナさんとジュス姉さんに引率をお願いする。
と、どこぞの村の孤児院から来ました、の演出か。
いそいそと僧服を取り出したマイナさん。用意が良い。
各隊、罠の仕込みを続けながら、何かあったら通信を。
帰還ポイントとして、携行ポータルを1つ置いて行く。
俺は少し西を回ってブラショヴに戻る、として。
アンヌ、サンドラ、トゥーリカも一緒に来てくれ。
外交交渉ないし降伏勧告の見学と行こう。
他の子達にも通信を回すから、聞けたら聞いておいて。
開戦前、公子達の問答も、経験の足しになるハズだ。
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