黒鷲の旅団
24日目(14)一触即発を横目に
「開門されよ! まだ待たせるのか!
男爵様がご立腹であるぞ!」
街の門の外、叫んでいるのはウルバン男爵……の配下。
地味な鎧は男爵本人ではあるまい。騎士とか兵長ぐらい。
状況として、ちょっと出遅れたかな、といった所。
俺達がブラショヴに到着したのと、ほぼ同時刻。
南下して来たウルバン男爵の部隊だろう
武装した集団が、街の北門で足を止めていた。
門衛は、取り次ぐとでも言って待たせているのだろうか。
待ち切れなくなって対応を急かしている様だ。
「先触れも無く大挙して押し掛け、如何なおつもりか!
その数を突然街に入れては民が怯えるだろう!」
「我らは領土防衛を預かる公国正規部隊!
お上に道を譲るのは、民草、臣下の務めである!」
「臣下と申すならば、まずは男爵殿が申し開きをせよ!
貴君らの動きは殿下の治世を妨げているぞ!」
城門の上で兵長と言い合っているのは騎士ジャンナさんだな。
お堅い様で、まずまず口が回るらしい。声も良く通る。
公子か男爵が動くまで、まずは上げ足の取り合いだ。
俺達は北門を横目に迂回。西門から中に入れて貰おう。
騎馬で目立つ。連中もこちらに気付いたとは思うが。
北門が開けば良い話だから、わざわざ追って来るまい。
『おっちゃん、サキブレって何?』
移動中、ティルアから質問。よしよし、聞いていたな。
先触れ。前もって知らせておく事。
この場合は、これから行くよー、だ。
行くよーって言わずに、急に大勢来たら困ってしまう。
困ると分かるから、あらかじめ言っておく。
それを、言っておかなかった……これが、先触れも無く。
公子の手下の騎士さんは、その配慮の無さを責めている。
通信魔法を子供達と広く共有。
聞いてくれている様なので、1つ設問だ。
ウルバン男爵側は今、開門を焦っている。
確実性を増すなら、後続が来るのを待つべきだろう。
奴らに続いてバルトシーク子爵、別の部隊も南下中。
合流すれば押し破るにせよ圧を掛けるにせよ、有利になる。
それを待てない。早く開門したい。何故かな。
『えー、何だろ。お腹減った?』
『分かった。手柄が欲しいとか』
食いしん坊ツェンタに続いてのマルカ。多分正解だろう。
単独で街を制圧しないと、子爵様に手柄を持って行かれる。
男爵さんが出世なんか夢見ているなら、可能性は高い。
まあ、ツェンタもあながち的外れじゃないのかな。
あれだけの兵数を維持するには、相応の食糧が要る。
さっさと陥落すると思って、準備不足だった場合。
例えば、手柄を焦ってゴハン忘れて来た場合、だ。
ゴハンが遅れてお腹減った。不満。命令に従わなくなる。
籠城なんかされたら、最悪部隊として機能しなくなる。
『ですが、籠城はこちらが不利なのでは……
あの、北から新手が来るのだと。
戦うのであれば、先にやっつけてしまった方が?』
レーネ、勿論だ。折角、相手の方が分散している今。
加えて挟撃の好機。逃さす手は無い。
しかし、どうせなら、大義名分を持って戦いたい。
勝ってしまえば勝者。強いと示せる……のではある。
傭兵なら強い方が金出せば喜んで従うとは思うが。
現状、相手を潰すだけの大義名分が、きちんとした理由が無い。
まだ宣戦布告も済んでいない。内乱手前だ。
国防の騎士達は、このまま手下にしても快く従わないだろう。
快く従わせないと、続く連戦で役に立ってくれない。
役に立つ手下になって貰わないと、兵力差が埋まらない。
肉壁どころか最悪、敵と合流、反転してまた襲って来る。
面倒だなー、とイェンナ。俺もそう思うけどな。
勝てば正義の戦国乱世と同じ発想が、常に最適解とも限るまい。
大義名分。相手から先に攻撃して来るか。
あるいは何か、無礼でもやらかしてくれると分かり易い。
相手方にボロを出させたいという事になる。
その為には、焦るよりは焦らせたい所だ。
まだ敵の後続到着まで猶予もある。落ち着いて掛かろう。
ヴィンフリード、言い合いでは自信があると言っていた。
まずはお手並みを拝見……拝聴か。
西門へ。騎士マクシーネさんが待っていてくれた。
公子達の所へ道案内を頼む。
「そろそろ良いかなー?」
「もうちょい引き延ばしてー……お、来た来た」
街の北門の下、相手方に見えない所。
座ってお茶を啜っていた、ヴィンフリード公子と魔女ヘリヤ。
こちらの姿に気付いて手を振って来る。
状況は。敵を止めているのは分かるのだが。
「リュドミラは盗賊退治を切り上げたそうだよ。
こちらとの距離を詰めて来ている。
戦いを始めるなら、もう少し待った方が良いのかな?」
「お姫様は行けるって言ってるみたいだけどね。
迎えに行ったシャンタルたんが、少し休ませようってさ。
なんかね、盗賊の半分ぐらいが仲間になったとかって」
地盤固めと徴兵を一緒にやっているのか。
リュドミラ、戦力差を理解しているのは何よりだ。
そしてヴィンフリード達のティータイム。
リュドミラの帰還が間に合う様に、時間を潰している。
応援に呼んだ魔女協会の配置は?
フレスヴェーナ派、フッケバエナ派、フリアリーゼ派が参戦。
見れば兵達に混ざって、魔女い格好の女性がチラホラと。
魔女い。魔女と断言し難いのは、ローブ姿ばかりでなく。
帽子は魔女帽子だが、手甲、脚甲。鎧を着た者も居た。
彼女らなりに戦闘装備という事なのだろう。
城門の上、フリアさんが気付いて軽めの敬礼。
フッケちゃんから投げキスが飛んで来た。
フレスさん、自分も何かしなきゃとアタフタ。
いいから。何かしてくれなくて良いから。
シャンタルから通信が来て、行軍を再開したと。
こちらもそろそろ動くとしようか。
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