黒鷲の旅団
24日目(16)ブラショヴ防衛戦初日〜釣り餌は偽公子〜
「殿下! お覚悟ーっ!」
案の定、偽装投降者が複数。
残念だが俺は殿下じゃなかった。
雷撃付与の片手剣・細剣の二刀流で迎撃に掛かる。
刺突。細剣は右手。パンツァーシュテッヒャー。
細剣でプレートメイルなんて貫通する物でもないが。
金属鎧は雷撃の徹りが良い。麻痺させて転がして、はい次だ。
戦闘開始前の呼び掛けにより、敵の前列でも投降者が出ていた。
これを受け入れる為、少しの間でも門を開ける。
同時に、投降が偽装でないかどうかも確かめたい。
そこで、門を開いた所にヴィンフリードの姿を置く。
中へと呼び掛けて投降者を呼び込む。
本当に投降なら、そのまま中へ行ってくれるだろう。
投降が偽装なら、ヴィンフリードを襲って来る。
で、まさか本物を使うワケにもいかないので。
影武者大作戦。俺が変身魔法で彼に扮する事になった。
変身魔法は施す範囲が広いほど、魔力消費が必要になるが。
幸い、俺とヴィンフリードは背丈が近い。
彼のマントを羽織って、顔だけ誤魔化せば済むという寸法だ。
「殿下を残して下がるワケには!」
「お前達が行かないと殿下が下がれないだろ!」
残って戦おうとする投降者も居る様で。
急かしているのはフッケちゃん。大魔女フッケバエナ。
俺の供回りは、左右に彼女とフレスさんだ。
ヴィンフリードは魔法を習得していない。
俺1人で魔法を使うと、ヴィンフリードでないのがバレる。
一方で、魔法無しに重装備を相手にするのは効率が悪い。
その点、2人が居れば、付与までなら誤魔化しが効く。
大魔女の戦闘能力、並の兵士相手にフォローも要らない。
ちなみに、サンドラちゃんとアンヌは城門上に配置。
魔法付与を手伝いつつ、乱戦対応よりも戦略眼を養って貰う。
「くそっ、裏切り者め……ぐああっ!」
投降者を狙っていた敵兵が剣を取り落とした。
子供達、銃士チームの狙撃が援護してくれている。
『カーチャが当てたわ。次、私ね』
『負けてらんないよ。テクラ、次は左翼狙おう』
ノイエとローダ。第1第2銃士隊は順調か。
狙撃チームは2人1組。フリー射撃。
『撃って良い? まだっ?』
『ま、まだすか、あのっ!』
『もうちょっと待つんだよ〜?』
気が急くリリヤ、フリーダを、フェドラが宥めている。
俺も声を掛けよう。弓弩隊は待っといて。
狙撃班も慎重に。探知、目標選定。確実な1発を。
敵兵と離脱・投降者が入り乱れている。
複数射を撃ち込んだら味方に当たる恐れがある。
もう少しだ。もう少し、離脱者が掃けてから。
「貰ったあ! 一番手柄!」
突っ込んで来た、若い……兵士じゃないな。
規格統一されていない装備。冒険者。
神人か。門の下に居たのとは別の3人目。
解析はレベル47。名前はクラウンリューグ。
大上段から大振りの一撃を放って来る。
おい、殺してはならんのじゃなかったのか。
潜り抜けながら腹に一撃。
剣を振り切れないので、握った拳で殴る。
強酸魔法付与……ん? 鎧でなく地肌に触れた?
「うぎゃあおおおお!?」
腹に火傷を負って転げ回るクラウンリューグ。
どうにも、よく分からん鎧だな。
胸や肩、腰回りはよく守っている様に見えて。
腹は無防備。丸出し。ノーガード。
鎧、それ自体の発想としては嘘だろう。
ファッション性はともかくとして。
内臓の集中する胴回りを手薄にしてどうする。
フル甲冑一般兵卒の皆さんを見ろ。
それでも足りんから盾を持つんだろうが。
敵の挙動を誘発する……のもどうかな。
確かに腹が狙い易い所ではあるだろうけれども。
狙われる腹をガードするのが読まれる、のは良いのか。
一歩と言わなくても、半歩出遅れる様な気がする。
武術の達人なら分からんが……
異世界人ゲーマー程度が真似する事ではない。
クラウンリューグ、撃沈。
フッケちゃんが殴ってフレスさんが捕縛に掛かった。
生き返る奴らは縛って置いとくのが良い。
「閣下! 側面より騎兵が!」
「ええい、対応しろ! 逃げる者は捨て置け!」
リュドミラの隊が敵左翼後方に食らいついた様だ。
男爵は部隊を分けて対処。離反者への追撃を諦める。
離脱者と敵本隊に距離が開く。頃合いだろう。
通信。斉射用意。3、2、合わせ、今。
丘の上からバララっと矢が飛んだ。
低く飛んだ太矢は水魔法付与。
その上から弓矢が雷撃付与で落ちる。
敵にも魔道士は居た様だが、物理障壁を魔法が貫通。
広い範囲で感電、戦闘不能者を出している。
投降者200程度。離脱は300弱か。
戦闘不能も出して、残り1200ちょい。挟撃で士気も低下。
単純な力比べでも負けはしないだろう。
だろうが、俺は……少し欲を掻こうか。
リュドミラかヴィンフリードが男爵を討つ。
それで投降を促し、事を有利に運びたいワケだが。
今、俺が、そのヴィンフリードに扮している。
前に出よう。早く済ませた方が被害が小さい。
長引いても子供達に敵の目が向くかもしれん。
俺の手で男爵か、神人の1人でも抑えてしまおう。
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