黒鷲の旅団
24日目(17)ブラショヴ防衛戦初日〜強襲と反転〜
「くそ、どうなっている! 話が違うぞ!」
「こうまで剣を扱えたとは!」
狼狽えているのはウルバン男爵配下の供回り。
偽ヴィンフリード、俺の突出が予想外だった様だ。
ヴィンフリードは表向き、病弱という事になっていた。
身体的な訓練を避け、書物ばかり読み耽っている、と。
野心薄弱と見せ、政敵の目を欺く狙いがあったと聞いた。
それが、こう、前線に出て大暴れ。
勿論、変身魔法の中身は俺なんだけれども。
生え抜きの近衛兵を次々と戦闘不能に追い込んでいる。
魔女達の魔法付与があるとは言え、だ。
後で辻褄を合わせる必要があるだろうか。
実は意外と戦えました、程度。
まぐれが起きれば無い事も無い、程度には、だ。
何しろ、急に押し付けられたからな。
軽い仕返しがてら、稽古を見てやるのも良い。
「数だ! 数で押せ!」
「殿下、お覚悟ーっ!」
殺到して来る鎧兵士。3人。
長刀に槍斧と、長柄武器を手に突っ込んで来る。
分厚い金属鎧を着込んで、よく動く物だが。
考えてみれば、まあ、そういう物だろうか。
騎士に近衛兵。言わば職業軍人だ。
普段から鎧を着込んで訓練しているだろう。
鎧があって当たり前の様に動ける。
動ける様でなくては一人前とは言えない。
動き難いからと重い鎧を減らすのではない。
鎧が重くない様に鍛え続けて来た彼ら。
相応の日々を積み重ね、戦いに備えて来たのだ。
ポッと出の異世界人より余程尊敬に値する。
だとして、やられてやるワケにも行かないが。
コートを脱いで広げながら、連中の顔面の高さに放る。
視界を塞ぎつつ右脇を走り抜ける。
抜けながら横薙ぎ。騎兵剣。雷魔法付与。
感電した所を転がして次、真ん中の奴に刺突。
左端、はフレスさんが片付けてくれていた。
追従する魔女達が捕縛魔法を上乗せして。
脱落者は左右へ排除。前進。偃月陣形で肉薄する。
敵将ウルバン男爵まで、あと100m足らず。
「行かせるかよ!」
「調子に乗って!」
冒険者の男女2人。さっきの奴らか。
10人ばかり手下を率いて突っ込んで来た。
追従する魔女隊に指示。手振りを左右へ。
後ろから来たヘリヤとシャンタルを前に鶴翼陣形。
陣の内側に引き込んで磨り潰しに掛かる。
解析。男の方がベオハルト、レベル81。
言う前にフッケちゃんが相手に掛かった。
大魔女フッケバエナ、レベル600台後半。
得意げだった男剣士の顔が、見る見る青ざめて行く。
もう1人は……どうぞ、とフレスさん。
どうやら手柄を譲ってくれる様子。
別に倒してくれちゃっても良いんだが。
軽装の女剣士。ゼファーナ、レベル38。
曲刀を手に突っ込んで来る。速い。が、縮地でもない。
繰り出される大振りの袈裟斬りをサイドステップ回避。
見た目は技巧派だが、中身はパワーファイターか?
狙いが素直で読み易い感。
俺の反撃は左、騎兵剣。頭上右から切り払い。
後退される。追撃は細剣。
顔、喉、胸狙いの三段突きで浅く牽制。
攻め切れず下がると見せて左。袈裟掛け一刀。
追って来た右足、右太腿を裂く。
「痛っ! やったなああ!」
ミニスカとブーツの間に地肌。
足を出し過ぎじゃないかな、お嬢さん。
単に貞淑云々の話でなく。
しかし、そこそこ深めに入ってダメージ些少。
基礎防御力か治癒力、パラメータ補正でも高いのか。
女剣士、反撃の斬り上げ。を、逆風の太刀で阻む。
返し刃、袈裟斬り、払いで追撃する。
下がって躱されるが、その態勢は崩したままだ。
やや感情的。剣筋は素直。
難しい相手じゃない。
このまま連撃で押し込んで……
『おじさん!』
『パパさんヘルプ!』
うっ――――!?
急な通信に、俺は斬り合いを中止した。
武器交換は槍斧。横薙ぎ。重力魔法付与。
相手を弾き飛ばして距離を置く。
キーア、トゥリン、どうした。
『だっ、大丈夫だよ! 出来るよ!』
割り込んだのはユッタ。
心配を掛けまいとしているのは分かるが。
何があった。状況は。
『横の森からトロール来てる!』
『兵隊だよ! 人間の兵隊! 前から!』
方や、流血の気配に釣られたモンスター。
敵の味方でなくとも、敵は敵だ。
方や、戦線離脱した敗残兵。
投降者ではない。中立ないし警戒反応。
脱走の、行き掛けの駄賃に、略奪を狙うかも分からん。
弓弩隊、魔物隊、トロール対応。
銃士隊は人間兵士に停止勧告と威嚇発砲を。
マイナさん前に出て呼び掛け……は無理そうか。
男の兵士相手だと委縮してしまう。
ジュス姉さん、頼めるか。可能なら穏便に。
俺もすぐ行く。進軍中止!一時後退する!
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|