黒鷲の旅団
24日目(18)ブラショヴ防衛戦初日〜黒鷲団と黒獅子団?〜
「ほらー、来ちゃったー」
「あああ、ごめんなさああい」
子供達の本陣に戻ると、アイリスとトゥリン。
こちら側は弩兵チームの分担か。
トゥリン、大丈夫だから。怒ったりしないから。
必要だと思ったら頼ってくれて良いんだよ。
「おっちゃん、あたしらの事が好き過ぎるぜー」
からかい口調のティルア。
でも、そうだよ。みんな大好きだから。
何かあったら心配なんだからなー。
「でへっ、でへへへ♪ 困っちゃうなぁ〜♪」
グネグネと照れるティルア。
お前ちゃんは全然困って無さそうに困るね。
近くで聞いていたツェンタやダーシャも同様。
くすぐったそうに、えへへふふふと笑顔を並べる。
他方、複雑そうなのはアイリスやフリーダ。
気に掛けられて嫌という事はない、と思うが。
そうか、良い所を見せたかったかな。
強く強く頷く2人。腕前は頼りにしているんだよ。
ただ、交渉事が入るとまだ難しいからな。
「でも、良かったんですか?」
先鋒から折り返して来たレーネから。
ヴィンフリード達なら大丈夫だろう。
俺や魔女達が一時撤収して、門の中に飛び込んで。
すれ違った本物の方も、大砲やら何やら用意していた。
大魔女達も援護に残っている。
少なくとも、負ける戦ではない。
こちらの状況は?
正面から人間の兵士の一団。
恐らくは本隊を脱落して来たと思われる。
銃士隊の威嚇発砲を受け、移動を停止した。
停止したが投降していない。呼び掛け中。
呼び掛けに対し、素直に投降して来ない、か。
恐らく狙いは、西、コドレアの村落。
側面、森からは魔物の姿。弓弩隊が対応中。
中核はゴブリンの小部族。やや多め。
加えてトロールら他種族の傭兵が数十体といった規模。
人間とゴブリンが共同作戦、という事は無いと思うが。
大方、戦争の漁夫の利を狙って来た……かな。
群れから逸れた弱者よろしく、本隊から零れた敗残兵。
これを襲って装備を奪うとか、そのまま食っちまうとかだ。
兵隊を森に追い込めば、魔物と潰し合いそうだが。
後の戦闘を考えると、可能なら味方に引き込みたい。
弓弩隊はそのまま魔物を迎撃。
俺は銃士隊に合流、人間の兵隊の方を見てみよう。
正面、ユッタ達の方に回る。
拡声魔法。撃ち方止め。射撃中止の合図。
と、カリマが少し首を傾げた。
大声を出さなくても聞こえる? 分かってるよ。
これは、撃つのを止めるよ、を、相手に知らせる為だ。
「ヴィンフリード閣下の兵とお見受けする!」
敵……でもないか、人間兵士側。
隊長格と思しき鎧姿が数人、前に出て来た。
白旗を振って話し合いの様相。
「我々は傭兵部隊『黒獅子隊』だ。
ウルバン男爵の側で参戦したが、待ってくれ。
ヴィンフリード閣下に正義ありと見込んだ。
鞍替えする。味方だ。信じて欲しい」
男爵軍でないのは了解したが。
ヴィンフリード軍には合流しないのか。
「フェルディワラからの強行軍で消耗している。
ブラショヴで戦闘になるとも聞いていない。
男爵からの給金も頂いていないんだ。
主軍合流に当たり、態勢を整える。
まずは糧秣を村落から徴発したい」
徴発……要するに略奪になるな。
兵を動かすには金も食料も要る。それは分かるが。
徴発される方からしたら、迷惑でしかない。
ヴィンフリード軍全体の評判も下がる。
返答。俺達の権限では、村落からの徴発は容認しかねる。
給金と糧食については、公子からの提供を促す。
心配なら、俺がこの場で……えー、所持金残額。
500万ぐらいなら立て替えても良い。
「糧食はどうする」
金とは別だ。いっそ金より当てがあると言って良い。
連中は少し協議する様子。
不満げな若い男が何か言っている。
ムスッとした顔で聞いているのがリーダー格か。
腕を組んで考え込んでいる様でもあり……
ユッタ。左上空。
「はーい」
可愛い返事の後、ずどんと音がして。
黒獅子隊の向こう、草原にグリフィンの巨体が落ちた。
手始めに肉を用意してみたんだが、どうか。
「ぶはははは! お前の負けだ、セドリック!
承知した! ここは申し出を受けよう!
グリフィンもイチコロじゃあ、無理を押すにも相手が悪い!」
ダメ押しが効いた様で、隊長さん承諾。
まずは戦闘回避で纏まったか。
俺とアンヌで彼らの誘導に掛かろう。
子供達は引き続き、魔物退治を頼むよ。
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