黒鷲の旅団
24日目(19)黒獅子の中隊
「なるほどな。黒鷲団。聞いた事がある。
隊長のヴァルターだ。よろしく頼む」
傭兵『黒獅子隊』隊長、ヴァルター。
侮られまいと、外向きには気取っていただろうか。
話してみると気さくな男だ。
黒獅子隊、交渉に出て来たメンバーと、彼らの陣営へ。
野営準備の段取りの後、公子との契約に向かう。
顔見せもしたいので、ついて来てくれと言われた。
罠の可能性も考慮して、ジュス姉さんが一緒。
子供達の方にはアンヌが合流してくれている。
戦力的には心配無いだろう。
黒鷲団について聞いて……
あまり良い噂でもなかっただろう。
「まあ、実はそうなんだが、こうして見てみるとな。
腕が良い。装備も整っている。劣る所は小さいってだけか。
悪くない兵隊だ。ちょっと戦いたくねぇな」
ヴァルターの年は30代ぐらいだろうか。
場数を踏んでいて、目利きでもある様子。
傭兵経験は10年以上になるという。
鍛冶屋の三男坊で、10代半ばで家を飛び出して……
「あーあ、野営とか面白くねーの。
村に入っちまった方が絶対簡単だったぜ。なあ?」
ぶちぶち言っているのは若い男。セドリック。
簡単に言うと、ツンツン頭の槍使いといった所か。
「どーせ村の女とかが目当てだろ。この強姦魔」
「はぁ? この前のとか、ちっげーし。同意の上だし」
「隊長が詫び入れて大金払ってどこが同意だボケ。反省しろ」
セドリックに絡んでいるのは魔女。名前はヘルガ。
彼の股間を蹴りつけて逃げる。
「ぐあおおおお! どこ蹴っとんじゃコラァ!」
「ばーか。色ボケ。勘違い野郎。黒鷲さんも気を付けなー?」
「あっ、くそ! ヴァルタぁ〜、あいつー」
「お前の行いが元だ、セド。自重しろ」
「へいへーい、自重しまーす」
口を尖らせて離れていくセドリック。
あんまり反省してないっぽいなあ。
「まったく……次やらかしたら追放だぞ。
ああ、すまん。何の話だったか。
あいつ、前に寄った村の女に手を出してな……」
分かったのは、セドリックの素行が悪い。
ヘルガは少々お口が悪い。
ヴァルター隊長は苦労しているらしい。の、3点。
それはともかくとして、顔見せだ。
同じ陣営で共闘するので、顔合わせしておく。
それと、契約に行くメンバーの選抜だったか。
主立ったメンバーと面通しする。
まずは会計士、メガネの青年アドニス。
会計だが、しかし剣士か。鎧を着て帯剣していた。
頭脳労働役が全部魔術師とも限らんワケだ。
それから十人長各位は、イケメンのカールから。
大柄なバルドゥルと娘のハイルヴィヒ。
穏やかな印象のクリストバル。
小柄なのは斥候役のウーヴェと中隊書記官のジョルジュ。
女剣士パニーラ。南方出身で肌の浅黒いオルハン。
「そいつが黒鷲だって? 強いのか?」
「剣の腕は聞かん。ただ、味方を死なせんのだと」
「ふーん。用兵家って奴か」
がやがやと俺の事を値踏みして……
全体としては、ランツクネヒトの1個中隊といった様相だが。
何やら、ご当地強力クラスを集めたみたいになっている。
解析。職業は傭兵だろうが、戦闘クラス、格付けとして。
クリストバルは穏やかそうでいて、侵略戦士アルモガバレス。
バルドゥルとハイルヴィヒはクリークス・グルゲルン?
パニーラが北欧戦士ヴァリャーギ、オルハンはマムルークだ?
「まあ、長く傭兵やっていて、色々と集まったのさ。
それぞれ付き合いも長い。
セドリックも考え直してくれると良いんだが」
「どうだろ。最近あいつ、隊長のことナメてるっぽいし」
ヴァルターの言葉に肩を竦めるウーヴェ。
バルドゥルとオルハンが頷いて、クリストバルが頭を掻いた。
他のメンバーも彼の素行を問題視している様だ。
何故すぐ追い出さないか。これはアドニスが説明をくれた。
「色々集まった傭兵集団、ですからね。
恩義忠節の人も居れば……私もそのつもりですが。
中には旨味を感じてついて来た人も居るでしょう。
彼だけでない。あまり締め付けると反乱が起きる」
「例えば、略奪禁止つったとしたらさ。
あいつを旗頭に、3割……4割とか裏切って。
それも、嫌ぁ〜なタイミングで挟み撃ちにして来るんだ。
契約も人数多い方が有利だし、置いておく利もある。
だけど言う事を聞かない。頭痛のタネって奴」
補足するのはパニーラ。なるほど、ありそうな話だ。
膿を出すなら早い方が良い、とも思うんだがな。
戦闘前に追い出すなり選ばせるなり。
しかし付き合いも長いと言う。信じたい部分もあるのだろう。
最低限度の約束として、うちに何か被害が出たら容赦しない。
庇わない分には、隊を丸ごと敵視はしないという事で。
彼らも注意喚起と、下手人の引き渡しを約束してくれた。
一部を除き、共闘には前向きと言って良いだろう。
あとは、ヴィンフリード陣営との雇用契約が必要で。
赴くのは隊長ヴァルター、会計アドニス、書記官ジョルジュ。
それとカール、ハイルヴィヒは見栄えが良いから?
貴族相手に居汚くては侮られるか。
ヴァルター隊長は外聞にも気を配れる人物だ。
俺の方にも丁度、通信が来た。
リュドミラから戦闘終了、勝利の知らせ。
捕まえた神人がゴネているらしい。
ヴァルター達の案内がてら行ってみよう。
子供達に連絡と……アンヌの姿はもう無かった。
フレスさんが戻って、入れ替わりに出たらしい。
言わなくても分かっている、か。彼女は動くに任せよう。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|