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黒鷲の旅団
24日目(20)なってやるとか言われても

「あっ、お前! お前でも良い!
 勝負しようぜ、勝負!
 俺が勝ったら俺を自由にするんだ。名案だろ?」

 …………何を言い出すんだか、こいつは。

 ブラショヴ、ヴィンフリード陣営にて。
 ウルバン男爵の兵は概ね降伏した。それは良いとして。
 捕縛した神人3名が、おかしな事を言い出した。
 決闘しろ、自分達が勝ったら自由にしろ、などと。

 勝負して、お前達を逃がすだけか?
 こちらが勝った場合のメリットは提示出来ないのか。

「え、あ、言わなきゃ分かんないか?
 そっちが勝ったら仲間になってやるんだよ。
 バカだなー。そういうモンだろ?」

 バカだなー、は、この場合どちらだろうか。

 勝負をして、向こうが負けたとしたら。
 負けたら降参する、しかも生き返る奴という事になる。
 マンガや何かの場合、一生従うみたいな事を言ったりするが。
 一度、力に屈した奴だ。更なる力に屈しないとは限らない。
 次に負けて、生き返らないならまた別なんだろうが。

 そして勝負をして、向こうが勝ったなら。
 自由にする? 強い敵をみすみす逃がす事になる。
 折角捕らえたのに、勿体無い。

 向こうが勝って、こちらの仲間になるのなら、まだ分かる。
 腕を売り込んでいる訳だ。信用はともかく役に立つと。

 だが、なあ……自由にしろって。
 子供のワガママみたいに聞こえるんだが。
 実際、子供なんだろうか。アバターは大人に見えるが。

「だああ、うるせーな!
 さっき負けたのはマグレだっつーの!
 勝負しろ! でなきゃリセットだ、リセット!」

 この世界をゲームと信じて疑わないプレイヤーか。
 現地人が自分達に都合良く動いてくれると思っている。
 まあ、そういう軽い認識の者も一定数居るだろうけれども。

 しかしゲームだとして、このゲームにリセットは無い。
 そうマニュアルに記載があったと思うのだが。

 公子、ヴィンフリード軍として、これ要る?

「うーん……どうだろうね。
 少しでも戦力は欲しい、とも思うけれど」

「罪状として、シュテルンフェルト公王家に対する反逆。
 唯人なら死罪相当。神人でも無罪放免はあり得ません。
 ましてや、処遇を要求するなどと」

 不満げに付け加えるリュドミラ。
 肩を竦めるヴィンフリード。

「あー……話が決まらんのなら、先にいいか?」

 割り込んで来たのは黒獅子隊のヴァルター。
 そうだった。黒獅子隊、ヴィンフリード軍との雇用契約。

 対応は、公子に代わり実務を取り仕切って来たリュドミラ。
 ヴァルター隊長と書類を纏めに掛かる。
 テーブルはシャンタルがお茶会用のを転がして来た。

「少々、相場より高いのでは?」
「うちは歴戦の猛者揃いです。戦果にご期待頂きたく」
「あと、作戦外での略奪は控えて頂かなくては」
「んんー、そうなると、基本給に色を付けて頂かないと」

 雇う方も雇われる方も手慣れた物か。
 テキパキと雇用条件を取り纏めて行く様子。

 普段から傭兵なんて雇っているのか?
 盗賊退治で手を借りる事があるんだ、とヴィンフリード。
 本陣戦力温存、あとは普段からのコネ作りかな。

「そいつらだって裏切ってんじゃん」

 口を尖らせる神人。ベオハルト。
 公子に剣向けて突っ込んで来たお前らとは違うだろ。
 戦う前に抜けてるから、遺恨になってないんだよ。
 相手が公子だとは知らなかった、とも聞いている。

「俺だって公子だとか知りませんでしたぁー」

 顎を突きあげるクラウンリューグ。
 男爵の話の後で尚、殺そうとして来ただろうに。

 ケンカ売って来た挙句、負けたのはお前らだ。
 納得だの要求だのが出来る立場だと思うな。
 命乞いでも交渉でも、もっとマシなセリフを吐け。
 現状、仲間に要らん。逃がして戻って来て欲しくもない。
 態度を改めないなら、いっそ魔王軍にでも売り飛ばすぞ。

「やれるもんなら、やってみれぇ〜」
「ホントにやっても良いけど?」

 ふと、イーディス公主の姿。
 騎士団長も一緒か。派兵は明日だと思ったが。

「打ち合わせよ。公子さん通信魔法使えないでしょ。
 で、途中から聞いてたけど、これ捕虜? 貰って良い?」

 良いけど……どうするんだ。

「新兵のレベル上げに使おうと思って。
 縛っといて交代でブッ刺すのよ。レベル1になるまで。
 別に良いでしょ。生き返るんだし、魔王軍よりマシよ。
 あいつら男も女に変えて魔物産ませるらしいし」

 程度はともかく、酷いっちゃ酷いなあ……
 どっちもどっちの様な気がする。

「ま、待てよ! ワンチャン!
 勝ったら仲間になるからさ!」

「あー、無理無理無理。論外だわ。
 そんな口の利き方じゃダメね。
 頭を地面につけて許しを請いなさい。
 自分の立場を弁えて。分かる?
 一晩待つから、交渉の言葉を考え直しなさい」

 ベオハルトの申し出を公主がピシャリと切り捨てて。
 騎士団長が3人を引きずって行った。
 一晩待って、態度でも変われば良いんだが。

「ホントね。好きで可哀そうな事したいんじゃなし。
 ああ、本気で言ってたんじゃないのよ。
 ただ、あんま粋がってたから、少しビビらせないと」

 俺はホントに売り飛ばしても良いかと思ったなあ。
 うちの公主様はお優しい。

「またまた♪ ああ、そうそう、あんたに客よ。
 魔人の……何つったっけ。
 城に待たせてあるから、会いに行ってやって」

 魔人の、客……え、誰だ。何の用だと。



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