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黒鷲の旅団
24日目(21)山と手紙と夢の跡

「貴様と関係あるかと思うが、どうか」

 なるほど……可能性は高いな。

 公主の知らせから、ポータルでブラショヴへ。
 出迎えたのは静謐の魔人ベレンジェリエだった。
 まずは1通の手紙をくれて。
 他に見せたい物があると言うので、同行する。

 彼女と一時パーティを組み、帰還スクロール。
 携行ポータル、彼女の配下の待機地点に飛んだ。
 首都南方、コテル手前。バルカン山脈の山中だ。
 山道に馬車が3台、横倒しになっていた。

 この辺は魔王領? ではなく、緩衝地帯の内か。
 バルカン山脈を挟んで睨み合……おうにも見えないが。
 視覚的に見えない事で、お互い攻め難くなっている。
 再び開戦した場合、山脈の領有権がまず焦点になるだろう。

 それで、横倒しの馬車。乗っていた奴らは全滅か。
 食い散らかされて、血痕と手足数本しか残っていない。
 ベレンの配下は巡回偵察中にこれを発見。
 巡回チームから分隊長、主に報告が上がり、今に至る。

 襲ったのは、ベレンの配下ではないんだな?
 彼女の配下は亜人や悪魔、不死者が中心となっていた。
 馬車を襲ったのは野良の魔獣だろうという。
 魔人の感覚では、わざわざ治安の為に駆逐しない様だ。
 邪魔な冒険者を狩る魔獣達は、魔王軍的には益獣らしい。

 馬車の積み荷は……何か、引っ越しの荷物の様で。
 どこかで見た様な箪笥がある。
 残された手足に解析魔法。知らん名だ。
 詳しく解析して、冒険者らしいのは分かった。

 どういった集団か分からんが、俺とは関係があるだろう。
 そう断じる根拠は、先にくれた手紙の一文だ。

『いつもマリナがお世話になっています』

 恐らくだが、手紙を書いたのはベラさんだろう。
 しかし、宛先の記載はどこにも無い。
 無いまま、これを俺と結び付けたベレンジェリエ。
 うちのマリナの名を把握していた、というのは意外だが。

「一度、指揮を見たい、と告げたと思う。
 父上からアンヌ経由で、指揮官役について情報を得ていた。
 弓兵隊長マリナ。母が元貴族。貴族なら字も書けよう」

 なるほど。この世界の文化レベルは識字率も低い。
 マリナという子を指導して貰っている、字を書ける女。
 そして平民の家具を使っている。恐らく元貴族。
 そこまで限定すると、該当者は少ないか。
 うちのマリナの母であろう、という予想も立つ。

 ベラさんはこれを出しそびれたのか、出すのを止めたか。
 事情は分からんが、その手紙が積み荷の家具から出た。
 彼女の家から持ち出された物と考えられる。
 あとは、こいつらが当事者なのか。
 それとも連中と取引して譲り受けたか……

 血痕の幾つかに解析魔法。
 その1つに反応。ヒューバートの血だと。
 どうやら当事者の方だな。

 馬車の持ち主はヒューバート。それと、その仲間達。
 ベラさんの家に泥棒に入った一味で間違いない。

「盗品か。それでは死体を回収する必要性は薄いか」

 ベレンはこちらの身内ではと思い、探してくれていた様だ。
 礼は言わないなりに、借りを返してくれようという事か。

 被害者と加害者の関係。恨み言もある。
 しかし、軍隊を動かして貰う程には拘っていない。
 見つかれば、可能なら、ぐらい。

「では、捜索は一時打ち切ろう。
 要衝に人相書きを配り、見つかれば捕縛する。
 ところで、それは恋文という物ではないのか?
 好きとか抱かれたいとか書いてあった様だが」

 ちょ、こら、ベレンさん。
 他人の手紙の中身を、声を出して読むんじゃない。

 そんな事は……無い、とも言い切れない内容で。
 しかし、出さず終いの手紙だ。
 書きかけて途中で止めた様な痕跡。
 一部は筆跡も乱れていて、酔った勢いでもあっただろう。
 ベラさんがどこまで本気で書いていたかは分からない。

 果たしてヒューバートは、この手紙を見たのだろうか。
 それで嫉妬にかられたか……そうだとしたら。
 奴の犯行、その切っ掛けの一部は俺かも知れない。

 いや、それも分からんな。俺が逆の立場なら。
 ベラさんに対して本気だったなら。
 こんな手紙を後生大事に取っておくだろうか。

 まあ……盗んだ本人が居ないんじゃ、分からん。
 肝心の金も無い辺り、持って逃げおおせたのだろうか。
 それとも金を抱えたまま、どこかで野垂れ死んでいるか。

 家具は思い入れのありそうなテーブルとドレッサーを回収。
 後で露店で売られていたとでも言って、返しておこう。
 残りは馬車共々、分解魔法で廃材に。
 ベレンが配下に言って、片付けておいてくれる。

 ベレンに礼を言って、案の定、借りを返しただけだと。
 それでも、ありがとうよ。後始末は任せて、子供達の所へ戻る。
 帰還スクロール……ぼちぼち補充したいな。

「帰って来た!」
「あら、奇遇って奴ね」

 ポータルはコドレアの村落。
 集合する子供達と、丁度アンヌも戻って来た所か。
 魔物隊……リザードマンが増えている?
 それぞれ話を聞きたいが、日も傾いて来ている。
 まずは屋敷に戻って夕食の支度だな。



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