黒鷲の旅団
24日目(22)一時帰還、不安要素を残しつつ
「ふふん。正解よ。分かってるじゃない」
子供達を呼び集めながら、アンヌと話す。
姿を消していたのは、やはり情報収集の為だった。
報告1、北側。フェルディワラ方面。
ウルバン男爵の後発、バルトシーク子爵の状況だ。
北のマイエルシュからフェルディワラに着いて、進軍停止。
ウルバン配下の脱走兵か何かに話を聞いたのだろう。
兵は武装解除して休憩しており、強行軍は無さげ。
ただ、斥候が来る程度は警戒すべきか。
報告2、西側……西側?
フェルディワラから西へ突っ切ったのか。
魔人の脚力で一っ走り、ブラデニ、シェルカイアまで。
欠伸をしている門衛に声を掛け、平和ボケしていると確認。
時計塔からも街を眺めた。軍事的な動きは無し、と。
西方地方領主の裏切りや挟撃は、今の所でも心配無いだろう。
報告3。道中に確認した地形の情報。
これは空間魔法から3Dマップを展開してくれる。
特に起伏だ。どこに隊を展開するか検討したい。
助かる情報だが、随分と突っ走った物だ。
後で何かお礼が出来ると良いんだが。
「ふふ、良いわね。何かリクエストしようかしら」
「あっ、はいはーい。ボクもボクも」
ジュス姉さんが挙手。何か気付いた事が?
戦闘後は俺の護衛をしていたと思ったが。
「さっき、ちょっと聞いたんだよ。
あのツンツン頭。何だっけ。槍のー」
ツンツン頭というと、黒獅子隊のセドリックか。
姉さんは個々人に興味が薄かったのか、名前がアヤフヤ。
俺が補填しつつ概要を纏めて行く。
剣士の女の人、パニーラとハイルヴィヒから話を聞いた。
セドリックと取り巻き、およそ百人程度。
コドレア村落に押し入っての酒盛りを画策している様子。
特にセドリックは婦女暴行の前科あり。要警戒。
酒飲んだ勢いで暴れて、何をやらかすか分からん。
ヴァルター隊長からも言いつけては居る様だ。
雇い主ヴィンフリードらの要望で、略奪は制限されている。
その分だけ給金は吊り上げて貰っている。揉めないで欲しい。
ただ、この所、素直に言いつけを聞かない傾向にあり。
せめて子供達は遠ざけておくのが良いだろうと。
気を付ける様に言い含められたという。
「じゃあ、今日はキャンプ無しね?」
トゥーリカが声を上げて、ペトリナやテルーザが安心顔。
そうだな。不安要素が100人規模では、俺もちょっと怖い。
ゴハンが済んだら、そのまま自宅で一晩明かそう。
コドレア村落のポータルから、自宅の空間に帰還する。
村人達と目が合った。どこか不安げ。
何に不安か。うちの子達、魔物隊。
それ以上に、近隣で駐屯している傭兵達だろうか。
村の守りは俺も気になっている。
ならばと骸骨騎士団から挙手。
いや、でも、怖がられてしまうだろうし。
せめて誰か、国軍から指揮官役を借りて来ないと。
村人には、公子と相談して国軍を寄越すと告げておく。
少し安心されたが、それでも不安は不安だろう。
ともあれ、自宅へ。まずは夕食の支度だ。
全員、馬は繋ぎ終わったかな。
早速イモ取って来てるのは食いしん坊ツェンタ。
駆けて来るリータとラケル。飼い葉は俺がやっておく。
子供達を屋敷へ送りつつ、軽く触れ合おう。
サンドラ、ユッタ、イェンナ、片手タッチ。むふふ顔。
ティルア、両手ハイタッチ。いぇーい。
タッチ……の手に、頭から突っ込むカリマやリリヤ。なでなで。
ジェマはアゴが良い? 猫か。猫だった。ワーキャットの血筋。
はいはいよしよし、みんな今日も無事に帰って来られました。
戦闘態勢を解除。ゴハンモードでお願いします。
料理自慢は厨房へ。ヤンチャ娘達は泥を落としに風呂へ。
部屋に荷物を置きたい子も居る。思い思いに解散して行く。
子供達の後から花人隊、魔物隊。
魔物隊。リザードマンが増えたんだったか。
新人、ポールとランベルト。一応だが意思確認。
リザードマン同士で戦う事も出て来るかと思うが……
気にしない、という。人間だって同じ? まあ、そうだな。
「リザードマンばかりいいなー」
「ご主人、私達も仲間呼んでいいか?」
馬車から荷下ろし中のラミア、ラーナとノルガから。
まあ、受け入れられないという事は無いだろう。
呼んでも良いけど、少し待って貰うかもしれない。
住居の増築と……馬車の追加もか。
ラミアは大きくて馬に乗れない。
馬車が増えるなら、厩舎回りも見直さないと。
最近増えてないけど、花人は?
人手が足りているっぽいから呼んでない、とアンゼさん。
花人のネットワークで人材管理している様だ。
アラクネ、ネーラさんは?
野菜の入ったカゴを運んでいた所、声を掛ける。
「ん? ああ、あたしはパス。
アラクネに仲間とか部族とかって無いのよ。
集まってたらケンカになるでしょ?」
創作だと、魔物も各々独自の文化を築いていたりするんだが。
どうもこの世界のアラクネさん、思考が蜘蛛寄りらしい。
縄張り意識、生存競争、果ては共食いとか。
揉めない適度な距離が遠い。顔を合わせれば一触即発。
戦って負けた方が去るか、でなきゃ死ぬまで、だと。
部族や集落といった発想が無い様だ。
「ネーラ、寂しいとか、ないかー?」
「んんー? ほら、子供ちゃんとか、あんた達も居るし」
「ネーラ、いいやつー」「いいやつー」
「分かった分かった。そんな懐かなくて良いから」
ラミアや花人達に囲まれるネーラさん。
魔物隊女子陣、異種族間の仲は悪くない様子。
競合相手として見ていない、といった所だろうか。
さて、はい、ゴハンの支度にしよう。
魔物隊が屋敷の前、収穫された野菜のカゴを運んでいく。
料理を作る間、俺は通信魔法で打ち合わせ。
コドレアの警備を固めたい。
イーディス公主から返事。メシ食いながらじゃダメかと。
うーん…………ウチ来る?
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