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黒鷲の旅団
24日目(23)あっちでもこっちでも

『来ちったー! いぇーい!』

 インターホンからイーディス嬢の声。
 来ちったって、こっちに来るのかよ。

『良いじゃん良いじゃん。ケーキあるよケーキ。
 フィロちゃん達も呼んで来るね』

 別に集まってくれなくて良いんだが……聞いてないな。
 そそくさと隣室へ、義妹達を呼びに行った。
 居るのはフィロと、ヴィル辺りか。
 2人とも非番だ。声を掛ければ程なく来るだろう。

 異世界側でイーディス公主を夕食に誘って。
 しかし来訪して来たのは現実側と来たモンだ。

 いや、異世界側でも来訪はしているのか。
 ブラウザの中、彼女のアバターが唐揚げを摘まみ食っている。

 あちらの世界でお招きしたのは、イーディス公主や騎士団長。
 ヴィンフリード公子、リュドミラ公女、お付きの騎士達。
 黒獅子隊からもヴァルター隊長他、数名。
 夕食がてら、情報交換をしていたのだと思う。

 まずはアンヌの集めた北や西側の情勢から、だな。
 ヴィンフリード達も斥候は出していたと思うのだが。
 ちょっと行って見て来る、来られてしまう魔人の機動力。
 敵に回すと厳しいなと、改めて認識された。

 ヴィンフリード達からは、兵数増加状況。
 まずはリュドミラが降伏させた盗賊団を追加。
 ウルバン配下の離反者・投降者も合流した。
 負傷者は魔女達の協力もあって順調に回復。
 動ける者、合計2300人といった規模に膨れ上がった。

 対する北側、バルトシーク子爵軍。
 前情報では3千から4千という話だった。
 ウルバン軍の敗残兵が加わり、更に増えるだろうか。

 兵力差の対策としては、イーディス公主の派兵。
 2千程度派兵して、まずは数を同じ程度にする。
 あとは戦術と将の質で明暗を分ける。
 この辺は、ややこちらが有利だろう。

 こちらにとっては主戦場だが、敵にしてみれば僻地。
 何しろ旗頭は、魔王打倒を掲げるアーデルハイト。
 敵側の強い駒は魔王軍側に優先配備される。

 問題は、いつまでその状況が続くか、だな。
 こちらの方が脅威と見られれば、戦力も割り振って来る。
 その前に、新女王アーデルハイトから求心力を奪いたいが。

 どのタイミングで、王位簒奪の証人を担ぎ出す?
 彼を暗殺でもされたら元も子もない。
 高レベルの神人がポータルで来て石投げるだけで死ぬ。
 警備体制、敵場調査、確認する事は幾つもある。
 まあ、この方面はイーディス公主に任せるが。

 黒獅子隊は、ひとまずの給金を貰って大人しく野営中。
 ただ、素行の悪い連中がどうするか、不安が残る。
 雇用条件、略奪の抑制に不満の声も出ている、と。
 ヴァルター隊長から直接、公子達に報告していた。

 部下の管理能力で見栄を張るより、対策に知恵と力を借りる。
 これは、雇用主との関係を悪化させたくない、と同時。
 先手を打って、セドリック達を諦めさせられれば、と。
 長らくの付き合いで、無下に見捨てたくもないのだろう。

 もう殺っちゃえばいいのにと、ヘルガはブンむくれていたが。
 成り行きでも、部下を斬る様な事になるとな……
 後の指揮統率にも関わるだろう。
 情を別にしても、ヴァルター隊長は慎重にならざるを得ない。

 ブラウザ越しに会話ログを確認しつつ。
 コーヒー、いや、お嬢さん方には紅茶の方が良いか。
 片手間ながらに来客を迎える支度をする。

 そんな折、着信……バルディ?
 カヴァリエーレ・ロンバルディ。
 同社、フィルブラント商会私設部隊の仲間。
 声も体格もデカくてヤカマシイが、気の良い奴ではある。

『よう、当たりだぜ! あの、何つったか。
 グリモアだ! グリモアの嬢ちゃんな!』

 グロリアだよ。グロリア・モーガン。
 本名はそんなファンタジーしとらんわ。

 それで、グロリア嬢が何だって?

『おうよ! 来たぜバケモン!
 つっても、俺の敵じゃなかったけどな!
 こう、ブワーっと来た所を、ガーつって』

 あー、分かった分かった。
 よく分からんけど分かった事にする。
 細かい武勇伝は、後で視覚データでも送ってくれ。

 化け物の容貌は、エイリアンめいた亜人種だったらしく。
 その死骸は……塵になって消えたと。
 その辺は想定内だ。前のゲイザーも同様と聞いた。
 跡形も無く消滅してしまったらしい。
 治安部隊に問い合わせたら、首を傾げていた。

 ただ、バルディには土産が、手元に残った物があるらしく。
 コインと……刃物? そいつも見たいな。
 交代を寄越すから、入れ替わりに帰還してくれ。

 さて……化け物、仮に魔物とするが。
 逃げた運営だか首謀者は、魔物を使役している。
 で、グロリア嬢を消しに掛かっている、と思われる。
 目撃者の口を封じたいか、別の意図があるのか。
 念の為、護衛を付けていたが、これが当たりだった。

 首謀者は……確かに居る。運営の名義で声明があった。
 運営主催のオフ会に対するテロ行為があった、と。
 方々に逃げたので犠牲者の数は分からないとしている。

 運営陣が首謀者なのか、そう装っているかは微妙な所だが。
 声明は、グロリア嬢やバリー、俺の見た状況と食い違う。
 あの状況を隠蔽しようとしている奴が居るのは確かだ。
 取っ捕まえて事情なり言い分なりを聞いてみたい所だが。
 どう釣り出してやったモンだかな……

『よっほーい』

 インターホン再び。イーディス嬢が戻って来た。
 まあ、まずはお茶にしようか。
 糖分接種で幾らか頭が回るかも知れん。
 何か妙案が浮かぶと良いんだが。



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