黒鷲の旅団
25日目(3)悪意の火、救援の手

「ヴァルタアアアアア!
 居るんだろうが!
 どこだ、おらあ!
 出て来いやあああ!」

 村落の中。
 大声を上げているセドリック。

 手下が何人も戻らない状況。
 流石に勘付いただろうか。
 しかし方向が明後日だ。
 隠密を見破った訳でもない様子。

「あ、隊長」
「遅いぞー」

 街道沿いを正面として。
 こちらは村の側面方向。
 包囲する友軍に知ってる顔。
 ハイルヴィヒとジョルジュか。
 他のメンバーも徐々に加わりつつある。

「ジョルジュ、配置と状況は」

「向こうにカールとクリストバル。
 そっちにバルドゥルとアドニス。
 パニーラは反対側。
 ウーヴェとオルハンは残った。
 中立組を監視してる。
 あと、ヘルガは来たくないって」

 ジョルジュの報告にヴァルター隊長。
 どこか安心した様な顔にも見えた。

「ヘルガはしょうがねえ。
 奴と同郷だ」

「つっても、隊長もじゃん」

「俺は、責任がある。
 ここまで連れて来た責任が」

「でもヘルガが居ないんだろ。
 矢避けの魔法は」

 ヘルガは黒獅子隊の魔女。
 防御魔法や何かは彼女が担当だったか。

 この場の矢避けは俺がやっておこう。
 他のチームは……通信。
 ラミアや吸血鬼に使い手が居る様だ。
 各チーム協力、万全の体勢で臨みたい。

 矢避け、障壁魔法と、防盾魔法。
 左腕の外側に小盾。
 保持不要の魔法の盾を付随させる。
 忘れてくれて良いが。
 可能なら活用してくれ。

「うん、ありがとう。
 邪魔にはならないみたい」

 腕回りを確認するハイルヴィヒ嬢。
 彼女は両手剣使いの様だ。
 得物は長いリカッソのツヴァイハンダー。
 ぐりぐり回して見せる。

 父娘でクリークス・グルゲルンだったな。
 スイス、グラウビュンデンの山岳愚連隊。
 解析でチラ見した程度だが。
 レベルも60ちょい。
 ヴァルター隊長より少し上だった。
 若いが腕も立つのだろう。

「え、見た? えっちー」
「見る程の胸じゃぐべれべぶお!」

 まるで言い返す間も無かった。
 割り込むジョルジュ。
 ハイルヴィヒが往復パンチ。
 流れる様に漫才とは仲が良いな。
 あと解析魔法は透視とかじゃないから。

「お前ら、ちょっと黙ってろ」
「だってジョルジュが」
「いいから。シッ……見ろ」

 ヴァルター隊長の指す先。
 セドリック達に動きがあった。

 手下が……捕虜かな。
 子供を1人連れて来て。
 手近な家に押し込んだ。
 別の奴が松明を持って来る。
 どうやら家に火をつける様だ。

「どうだ!
 見てんだろうが、ヴァルター!
 さっさと助けに来な!
 ガキが焼け死ぬぜ!」

 性根の腐った煽り方をして来たものだ。
 市民の被害なんか顧みないか。

「あれヤバイよ、隊長!」
「あいつ、何やってんだよ!」

 焦るハイルヴィヒ。
 憤るジョルジュだが。
 ヴァルター隊長は唇を噛む。
 苦渋の表情。

 ここで出て行った場合。
 子供は助けられるかも知れない。
 しかし、情が通じると取られる。
 他の村人達も盾にされるだろう。

 より多く助けたければ。
 ここで下手に動くべきではない。
 しかし、であれば子供は見捨てるのか。

 その葛藤が至極真っ当な物に思われて。
 まあ、手を貸そうという気にもなる。

 気負った隊長の肩を叩く。
 子供は俺が助けよう。

 隠密、防音魔法。
 姿を隠して燃える家の裏手へ走る。

 走りつつ、通信。
 骸骨騎士団、展開しろ。
 まずは姿を見せる。
 掛かって来たら応戦。
 ただの魔物のフリだ。
 まだ捕虜を使われまい。

 他の者は監視、捕虜の場所の特定を。
 捕虜奪還後、奴らの殲滅に掛かろう。

 炎、遮光、障壁、防御、結界。
 生成は防火魔法ファイアレジスト。
 炎耐性を上げる。
 燃える家へと潜入に掛かる。

 裏口に解錠魔法。
 解錠したけど荷物が山積みで入れない?
 浮遊、転移、強化魔法。ええい、どけ。

 入れないとか言ってられん状況だが。
 しかして大きな音も出したくなし。
 地道に荷物をどけて行く……
 と、怯えた子供と目が合った。

 火の手が回って来ているが。
 大丈夫。もう少しだ。
 姿勢を低くして、煙を吸わない様に。
 一旦、この辺の物を貰って良いか。
 後で返すからと譲渡して貰う。
 ストレージにぶち込んで容量ギリギリ。
 道が開けた。子供を引っ張り出す。

「あっ、だ」

 外へ出た所に敵兵。
 敵兵が、首を折られて地面に転がる。

「油断大敵。
 いや、見せ場を作ってくださったか。
 手早い救助、お見事です」

 吸血鬼執事のクラウディオさんだった。
 ホント油断でした。フォロー感謝。

 改めて探知魔法。
 骸骨騎士団は接敵した様だ。

 まずは、この子を誘導して。
 俺達もチョッカイ出しに掛かろう。



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