黒鷲の旅団
25日目(4)鋼の応酬、過去を断ち切って
「あ、あんた達、国軍なのか?」
「違うけど似た様なモンだよ」
セドリック達が骸骨騎士団に当たり。
気を取られている、その傍ら。
潜入した俺達は村人達を発見した。
これは村長宅かな。
デカい家に集めて押し込められていた。
村人には魔物隊を護衛に付ける。
森の方に逃がしてしまおう。
しかし魔物だけ。
これだと村人の方が心配するか。
通信。状況は手筈通りか。
騎士ジャンナさん率いる隊。
近くまで来ている様だ。
迎えが欲しい。
すぐ行きますとフレスさんの返事。
「あの、子供が1人連れて行かれて!
女の……いえ、男の子の格好をした」
慌てた様子の母親らしい女性。
どっちかなと思ったが。
男装の女の子だったらしい。
色気づいた兵隊が乗り込んで来たんだ。
性別を隠しもする。
大丈夫だよ。助けてある。
行った行った。
「くそっ、くそ!
ただのスケルトンじゃねえ!」
「僧兵! 奇跡使え、奇跡!」
「やってる! 浄化が効いてない!
こいつらレベルが高過ぎる!」
外、広場の方から声。
セドリックの仲間達。
骸骨騎士団の陽動だが。
これが陽動どころじゃなかった。
手練れの傭兵団を相手に善戦。
上手く抑えている様子。
魔女はフレスさん派閥。
ジニー、チェチーリアが飛んで来て。
村人達の引率をお願いします。
通信魔法。骸骨騎士団、後退を。
捕虜の救出に成功した。
セドリックの始末はヴァルター達でやる。
これは彼の要望だ。
自分の手で引導を渡したいのだと。
骸骨騎士団は魔物隊と広く展開。
逃げ散った奴らの掃討を。
1人も逃がすなよ?
「ヴァルター!
魔物なんかと手を組みやがって!
振り回されんのはウンザリだ!
俺達は俺達の自由にやる!
俺達の国を手に入れる!
貴族の言いなりは御免だ!
反抗して何が悪い!」
「そうだ! 俺達は国を手に入れる!
お前だって誓ったハズだ!
焼け出されたあの日に誓った!
それがどうだ。
今はお前が焼き出してんじゃねえか!
自分の姿が見えてねえのか!」
互いの姿を見るや、2人。
セドリックとヴァルター。
距離を詰め、剣を抜く。槍を構える。
自然と一騎打ちみたいな流れになっている。
積もる話もあるだろう。まずは任せよう。
残る黒獅子隊はジョルジュ、ハイルヴィヒ。
合流して来るカールとクリストバル。
他の連中は追討戦の最中か。
相手方はセドリックの取り巻きが5人。
1人余るのは俺が足止めする。
言うまでも無いだろうが。
隊長の邪魔をさせるな。
対応はジョルジュが速かった。
刺突短剣の2刀。
瞬く間に首、鎧の隙間を狙う。
1人突き倒してしまう。
手が空くや、位置取り。
すぐに他の敵の視界に入る配置へ。
援護の隙を伺うのも勿論だが。
警戒を誘う。やり難くする。
同時に複数人の気を散らす。
大したフォロー上手。
次いでハイルヴィヒ。
ハーフソードの構えから格闘主体。
タックル、剣を握った手でアッパー。
振り下ろして柄打ち。
右半回転、バックガードから突進。
更に右へ翻して逆袈裟。
防がれるも追撃はモルトシュラーク。
打撃を受けてよろめく鎧甲冑。
更なる殴打、殴打の雨。
クリストバルも二刀流だが。
得物が肉切り包丁なのが怖い。
得意が肉料理とか聞くんじゃなかった。
アルモガバレス。
スペイン、ピレネー山脈の義勇兵。
穏やかそうな顔してパワーファイター。
鎧関係無く相手の腕をぶった切る。
残るカールも危なげ無く。
至極テクニカル。
相手の動きが冷静じゃない。
何か煽ったのだろうか。
大振りを躱して突き。蹴りで追撃。
相手が膝をつく間に小石か何か拾った。
再び向かって来る敵に投石。
足払い。剣を一突き。
「てめぇ、気ぃ抜いてんじゃねえ!」
おっと。
軽くあしらっていたら気付かれた。
見た目は鎧甲冑。
声は威勢の良いお姉さん?
解析。名前はマルルース。レベル48。
袈裟斬りを武器受け。
が、燃えた。炎付与か。
幸い右手側。義手。
防火魔法も残っていて損害は軽微。
しかし歴戦の傭兵達だ。
あれこれ技を隠し持っている様子。
長引かせても被害が増える。
早急に畳んでしまえ。
加速魔法展開。
片手半剣で縮地、巻き打ちの奇襲。
振り返りざま、水・土・腐食・崩壊。
泥濘魔法を派生して足場を崩す。
追撃。音速剣、袈裟・払い・突き。
殴打・払い・突き。
二刀払い・袈裟・払い。
加速・斬・突・斬・払断返突斬断……
「わっ、あ、ちょ、ちょ、ちょ!
ま、待っ、うごあ!」
足場を崩した所へ、手数。
飽和攻撃を見舞った。
受け切れないマルルースは転倒。
頭を打って気絶した様だ。
少し放って置いても大丈夫だろう。
ヴァルター隊長を見ると。
少し苦戦している。
ヴァルターは両手剣。
セドリックは槍。
機動力で不利か。
加えて、長い付き合いだ。
手の内も知られている。
手隙のジョルジュは動かない。
信頼ゆえか、見定めるつもりか。
「テメェの技は全部知ってんだよ!
これで終わりだ、うおらあああ!」
「……ここだ!」
ヴァルターは両手剣を捨てる。
腰の片手剣を掴んだ。
上へ抜き払う剣。
跳ね跳ぶのは槍の穂先。
ヴァルターの返す刃。
セドリックの左肩から袈裟に裂く。
「ぐっ、お……そんな技、知らねえ」
「秘剣『浪返し』ってな。
たったさっき教わった。
モノになるかは四分六だったが」
「ははっ、付け焼き刃かよ。
そんなモンで。
ああ、畜生……でも、そうだ。
楽しかった、ぜ」
「……バカ野郎が」
ヴァルターが剣を抜き払う。
鮮血を散らして崩れ落ちるセドリック。
知っているハズだ、という油断。
これが徒になった様だ。
さて……およそ終わった、かな。
追討戦も収束に向かいつつある。
後始末は彼らに任せて帰ろう。
眠らないと。
夜が明けたらまた子供達の付き添いだ。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|