黒鷲の旅団
25日目(6)行く手に影は落ちても

「いや、そっちは心配してない」

 ないのかー……
 薄情というより見込んでいるのかな。

 頼りにされている。
 ジュリオ達の実力か。
 それとも、俺達。
 見捨てないという信頼だろうか。

 連れ歩きながら急ぎの案件を聞いた。

 先に口を開いたロジェ。
 心配事が1つ。
 不在チームの安否ではないらしい。

 それより気がかりなのは外部干渉。
 盗賊ギルドからの干渉だった。
 ストリートチルドレンの一部だが。
 犯罪組織と繋がっている。

 俺の指導に参加。
 魔物の撃破、金銭と経験を得て。
 上納金の支払いは凌いでいる。
 だが、その稼ぎが良過ぎるか。
 上役連中から目を付けられていると。

 利に聡い連中の評価が変わる。
 もっと稼げるだろうというのは勿論。
 単純にレベルが上がる。強くなる。
 力関係を気にする奴にしてみれば。
 その地位を脅かされるワケだ。

 追い出されるならまだ穏当。
 闇討ちなどが怖い。
 変に幹部候補などに選ばれても困る。

 一旦の上納金を収めた。
 次まで猶予があるだろう。
 どこかで話を付けるか。
 国軍から討伐隊でも出して貰うか。
 いずれかの対応が済むまで避難。
 路地裏に戻さない方が良いだろう。

 折角の稼ぎがある。
 何人かは冒険者を目指すのだろう。
 宿の取り方を覚えたり。
 野営の練習をさせるのも良い。
 魔物隊などから護衛も出そうか。

 次いでマリナの懸念。
 線引きをどうするかという事。

 外部からの子の声。
 正式に黒鷲団に入りたい。
 正規メンバーになったつもりの子も居る。
 しかし一方で、こちらの準備不足。
 住居など用意し切れていない部分もある。
 全員抱え切れるのか。
 気を持たせてガッカリさせないか。

 現状、マリナ達は。
 聞いてみると言って待たせている状態。
 何と言って説明しておけば良いか、だな。

「うん。あと……ちょっと寂しいって。
 あっ、あ、私はね。
 助けるのは良いと思うんだよ?」

 前にカリマも言っていたな。
 足りないのは愛情、問題。
 言い淀むマリナだが、大体察した。

 なるべくなら助けたいという一方で。
 増え過ぎても面倒を見られないのでは。
 見てくれなくなるのでは、という懸念。
 みんなを、というか、自分の事を。

 手の掛かる外部からの子に時間を割く。
 どうしても古参と距離が開く。
 古参、先輩といっても、まだ子供だ。
 手が掛からなくなって来たと言っても。
 平気そうな顔も強がりだろう。

 教える事、教えなきゃならん事。
 まだまだ沢山ある。

 そうだな。今後の構想として。
 外部からの子達。外縁チーム。
 街ごとの駐屯チームとして育てる。

 活動拠点も用意したい。
 家を借りるか建てるか。
 最終的には自分達だけで動ける様に。
 新しい子を、現地の子で助けられる様に。

 一方で、マリナやユッタ達。
 熟練メンバーを黒鷲団本隊とする。
 優劣をつけるでもないが。
 指揮系統の上位、中核として。

 駐屯チームの避難や討伐協力の際。
 この本隊から引率役を出す。
 俺と一緒に引率する側になって貰う。
 だから、引き続き頼むよ。

 強めに頷くマリナ。
 反対派の説得材料としては十分かな。

 立ち位置はこれで良いとして。
 あとは時間配分だろう。

 報告会や何か、共有する時間。
 もっと増やしていけると良いんだが。
 せめて食事は一緒に摂ろう。
 今朝は寝坊してしまった。

 ロジェとマリナの話を聞いて。
 後はルパートだが少し待っておくれ。
 受付に着いてしまった。
 先にフレスさんを呼んで貰う。
 彼女を待ちながら聞く。

「あ、だ、大丈夫です。
 住む所は貰えるんですよね?
 えっと、帰らなくても良いっていうか」

 住む所? 帰らなく。
 宿とか活動拠点の話か。
 今日、終わって、その後。
 そのまま解散じゃ困るって事だな?

 貴族の庶子ルパート。
 今日は姉さんを連れて来た。
 家に置いておけないと判断した。
 そこまでは想像がつくが。
 話せる範囲で事情を聴いておきたい。

 ルパートは両親、特に父を亡くした。
 守る者が居なくなった。
 正妻の子、つまり異母兄が危険。
 姉弟に辛く当たる。
 奴隷とでも言わんばかりの暴言。
 挙句、姉の貞操まで危ぶまれて?

 ルパートは、もう我慢ならない。
 離縁状を叩き付けた。
 姉の手を引いて家を出て来たという。

 離縁状は受け取って貰えたのか?
 受け取ったのは異母兄ではなく。
 その母、父親の本妻か。
 元から妾を快く思っていなかった。
 よし出て行けと都合よく思っただろう。

 しかし、兄の方だ。
 まだ姉さんを諦めていなかった場合。
 後で手を回して来るかも知れない。

 まずは距離を取りつつ、対策を練るか。
 ブカレストを出た方が良いな。
 ポータルでブラショヴへ。
 トゥルチャに飛んでも良いか。

「お待たせしました〜」

 にこにこ上機嫌なフレスさんが来て。
 これは良い事があったか。
 それとも期待されているか。
 呼ぶ際、新魔法が出来たとは伝えている。

 先に特許申請結果。
 粉塵爆発魔法は攻撃Aクラスに認定。
 こちらから新たな申請。
 招嵐、招雲、降雨、恵雨魔法。

 防火・泥濘・起床魔法、
 これらは既に現存するらしい。

 教わりに行かずに使える様になり。
 まあ、便利ではあるが。
 知らずに作って空振りも出始めている。
 一度目録、魔法一覧みたいなのも見たい。

 売り上げ、伝承料は。
 Sクラスが7件。
 Aクラス54件。
 Bクラス133件……んん?
 Cクラスは47件。
 売り上げ総額2855万。

 Bクラスは何だ。
 気泡魔法が爆発的に売れた?
 誰か水中散歩でも計画しているだろうか。

 さて、フレスさんに救援対応の話をして。
 待機メンバーを選出してくれるという。
 心配なのは不在の、主にジュリオ達。
 何か通信があったらお願いします。
 何事も無くても謝礼は用意しますので。

 俺達はポータルに向かおう。
 待っている子達がもう移動を始めている。
 やる気は十分か。

 不安要素もあるけれども。
 鍛錬。資金集め。
 1つ1つ片付けて行こう。



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