黒鷲の旅団
25日目(7)風評など振り切って

「ほーい。行ってらー」
「探知とバフも済ませておきます」

 カーチャとマリナ。
 すまんがもう少しだけ頼んだよ。
 まずはポータルでブラショヴに転移した。
 予定としては魔物を掃除しつつ。
 北西、コドレアに向かう。
 まずは西門に集合。全員居るかな?

 出発前に、ブラショヴ。
 冒険者ギルドに顔を出す。
 道すがら片付く依頼が無いか見たい。
 賞金首モンスターとか。

 同行はイェンナ、ティルアと。
 胸のポケットにはトゥーリカ。
 バートやフランカも行ってみようか。
 バート隊の小さい子達は、と。
 フェドラが面倒を見てくれる様だ。

「おや、奇遇ですね」

 冒険者ギルドに着くと。
 受付に公子付き騎士マクシーネさん。
 まさか冒険に、ではなく?
 依頼を出しに来たのか。
 戦闘前に当たっての、街道沿い。
 余計なモンスターの排除。
 近隣の集落長への避難勧告通達もある。

「何だ、臭ぇと思ったら亜人かあ?」

「ケッ、亜人のガキが。
 ウロウロしてんじゃねえぞ」

 併設の酒場みたいな所。
 ガラの悪い冒険者が居る。

 睨みつけるイェンナ。
 相手しなくて良いから。
 ティルアは俺の後ろに隠れてしまう。
 ぎゅう、と、しがみついて来て……

 大丈夫だから。ティルア。
 臭くない、臭くない。
 酒飲んでクダ巻いてるオッサンだ。
 あっちの方が臭いに決まっている。
 碌に風呂も入って無さそうだ。

「は、入っとるわ! 3日前!」

 3日分は臭いんじゃんよ。
 イェンナとフランカが揃って吹いた。
 ティルアも下を向いたままだが。
 それでもクスッと笑った。

「騒がしいな。どうした」

 と、カウンターの向こう側。
 大柄で屈強な中年男。
 冒険者。服装はギルド職員だが。
 歴戦の戦士であろう事は見て取れる。

「新顔だな。俺はブレンダン。
 ここの支部長をやってる者だ。
 因縁を付けられたんだろう。
 名誉を回復するか?
 決闘が必要なら立ち会っても良いぜ。
 見た所、兄さん結構デキるだろう」

 血の気の多い連中を纏める作法か。
 名前を聞くより決闘を持ち掛ける。
 風評は置いて実力を見る主義かも知れん。

 しかし、相手が……
 ちょっと役者不足だな。

 解析。冒険者ルッツ、レベル31。
 同じく冒険者ランプレヒト、レベル29。
 典型的な中堅、よく居る銅等級。
 ないし、赤銅等級冒険者。

 仮に戦ったとして。
 俺が本気を出したら死ぬだろうし。
 余程圧倒しなければゴネるだろう。
 マグレだ何とか言って。

 半端に痛めつけては恨みも買う。
 粘着されるのは望む所ではない。
 殺しても良いなら検討の余地もあるが。

「はっ。良いぜ、やってみろよ」

 ランプレヒトから安い挑発。
 やってみろよ捕まるから、だろう。

 当事者間で同意を得たとしても。
 その外部から追及が来る。
 そこまで含めて問題無いならの話だ。
 現状、問題があり過ぎる。

 等級証は、とブレンダン支部長。
 見せても良いが。
 これもマグレだ裏工作だと言うだろう。
 信じない奴らに何を言っても無駄だ。
 暴言の報復は、何か他の方法を考える。

「そうか。
 実力は示した方が良いと思うがな。
 名が売れて、前評判とか、あるだろ」

 支部長は俺が誰だか気付いている様だ。
 そして俺の前評判はよろしくない。

 子供使いの黒鷲。
 侮られているか何か。
 実力でも示しては、と。
 気遣いもあっての話だろう。

 しかし、こちらにしてみれば。
 暴言は既に放たれた後。
 後悔した所で、許す理由も無い。
 多感な年頃の子供、女の子だ。
 そこに向かって臭いだなんて。

 まあ、気に入らんけれども。
 それでブッ殺すワケにも行くまい。
 言葉には言葉だ。言い返せば良い。
 手を出して来るなら容赦はしない。
 それよりも依頼と賞金首が見たいな。

 マクシーネさん由来。
 避難勧告状配達を1件。
 掲示板、採取依頼が少し。
 あと賞金首の欄も見る。

 グリフィン、ヒポグリフ。
 キマイラぐらいも得意分野として。
 山の方に、ズメイ?
 大型の竜か。これはパス。
 あと、バンダースナッチ……何だって?

 初見の魔物。
 参考程度の挿絵でも気になるな。
 これ、剥がして持って行っても?
 ダメか。

「持って行っちまう奴も居るけどな。
 賞金首は基本、早い者勝ちだ。
 倒すなら手配書の有無は問わない。
 あと、失敗した時に再発行が遅れる。
 それだけ被害も広がっちまうからな。
 そこに置いとけ」

 支部長から説明。了解した。
 手配書の内容は記憶に留めよう。

 振り返れば、子供達。
 イェンナ、ティルア、フランカ。
 じーっと手配書を睨んでいた。
 覚えようとしているのか?
 ちょっと可愛い。

 あとは受付脇の売店に寄って。
 土産程度に物資の補給をする。
 弾薬パック、矢束、太矢束、回復薬。
 回復薬。俺達は使わんけど。
 新人達には持たせよう。

 ここでの支度はこんなモンか。
 それじゃあ、支部長。
 また来るか分からんけど。

「つれないなあ。また顔出してくれよ。
 お袋がブカレストに住んでてな。
 この前の魔王軍侵攻の時は腹を括ったよ。
 だが、どうにか生きてる。お陰様だ。
 また来い。馬鹿共には言って聞かせる。
 無事を祈るぜ、黒鷲殿」

 支部長がそう言うなら。
 まあ、気が向いたらな。

 まだ元気の無いティルアを肩車。
 イェンナ、アカンベーしなくて良いから。

 囚われるだけ時間の無駄。
 マイナスを撤回させるのは時間が掛かる。
 それより出発しよう。
 実績で見返してやる方が早い。

 認めざるを得ない実力。
 それはもう幾らも手の中にある。



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