黒鷲の旅団
25日目(8)広げた両腕の中で

「よしっ」

 小さくガッツポーズするアンヌ。
 少し遅れてガルーダの巨体が草原に落ちた。
 新しい得物との相性は良さそうだな。

 通信と転移魔法での通信販売。
 応じてくれたのは闇商人の姪。
 前に助けたクレールヒェン。

 メモと金を先に転移魔法で転送して。
 何か狙撃銃を予算80万程度で、と依頼。
 見繕ってくれて。
 今アンヌの手にバレットM98B狙撃銃。

 撃墜した目標との距離600mちょっと。
 持ってみて早々。
 何でもこなしちゃうね、お前ちゃんは。

「まあね。でも、3発使ったわ。
 ユッタ達ぐらいには、まだまだかしら」

 後に回していた子供達のご意見の1つ。
 個々のレベルも勿論として。
 狙撃手を育てたいという声があった。
 先のキースの失敗の件もあって、かな。
 フォローする側も増やしたいらしい。

「そっちはどう?」
『うーん……あっ、ああー……取られた』

 アンヌの通信先はロジェ。
 輜重隊の馬車から狙撃を試みている。

 ロジェの得物はGIAT FR-F2狙撃銃。
 同じくクレールの通信販売から手配した。
 性能自体は悪くないハズだが。
 戦果が上がらん。苦戦中。
 使い方も教えたつもりだが、どうしたかな。

 原因は……と、草原を見回して。
 すぐ思い当たった。
 他のチームの子供達か。

 特に、真面目なユッタ。
 保護者気質のフェドラ。
 新人達に脅威が近付くより前。
 率先して遠射で仕留めている。

 取り零しはマリナやイェンナでフォロー。
 カーチャやエメリナ達の索敵も早い。
 結果、的が残らない。

 まあ、ユッタ達も腕を磨きたいだろう。
 安全の為にやっている事だし。
 あれを止めろとは言うまい。

 ロジェ、慎重に。
 取り零しを潰す為のスナイパー増員だ。
 零れて来ないのが分かる。
 その辺の判断力も磨いて行こう。
 流れ弾も怖いモンだ。
 無駄弾を撃って誰かに当てるなよ?

『わ、分かっ…………違う。分かった。
 俺、ちょっと焦ってたかも』

 自覚があるなら大したモノだ。
 引き続き、冷静にな。
 レベル上げはまた時間を作ろう。

 ロジェを重点的に育てている。
 これは俺の代理候補。
 ブカレスト駐屯チームを作るとして。
 当たっての主戦力が欲しい。

 勿論、彼1人に押し付けるつもりも無いが。
 しかし、いざという時。
 例えば魔王軍の再来なんかの時。
 魔人は無理でも、大型の魔物。
 キマイラ数体ぐらい足止めさせたい。

 グリフィンやガルーダなど追い散らす。
 サイクロプスの縦隊など良い的として。
 前から順に沈める腕前が欲しい。

 指揮引率役に、バート、ヴラスタと。
 もう1人ぐらい欲しいか。
 目玉となる戦力に、ロジェと……
 後はどうするか。

 魔法の使い手も複数欲しい。
 通信管制はセンスも要るだろう。
 魔女達も助けてくれるが。
 負担ばかり掛けても悪い。
 神聖教会と抗争が起こるかもしれん。
 いつ手が離せなくなるかも分からん。

 詰まる所、子供達。
 自分の手で自衛出来るのが理想だ。
 守りの手を引っ込めるワケではないが。
 ほんの数瞬でも届かない事態が怖い。

 守り手を増やすという方法もある……が。
 信用出来る人材かどうか。
 おかしな目的で近づいて来ないか。
 見極めて雇ったとして。
 今度は金の心配が出て来るしな。

 同時にあれこれ模索するとして。
 財力、手間、折り合い。
 今の俺達が取り得る最適解。
 それはどの辺りだろうか。

『おじさま!
 コドレアに到着してしまいました。
 次はどうしましょう』

 レーネから通信。
 彼女は今、中隊長だ。
 6人小隊を3つ率いている。

 街道沿いの魔物を掃討して。
 旅人狙いの魔物も多い街道だが。
 難しい相手は居なかったか。
 最短ルート、一番に到着してしまった。

 レーネ、まずは一息入れよう。
 新人達の疲労をチェック。
 それから、避難勧告状を転移で送る。

 配達役はペトリナと。
 第2弩兵隊はダーシャが良いだろう。
 2人に村長まで届けさせてくれ。
 戻ったら、村の周りを一周警備。
 然る後、東側の草原で待機。

 同じく中隊長はユッタとマリナ。
 街道西側、草原の上に部隊を展開中。

 急ぎがちなユッタ中隊。
 レーネ達に追い付きそうか。
 先に草原で野営準備。
 昼食の支度を始めよう。

 マリナ中隊は遅れているが。
 これは採取に一生懸命か。
 そろそろ切り上げよう。
 ごはんごはん。

 3中隊の中間辺りに輜重隊。
 マイナさんと花人隊中心。
 それぞれ移動を開始してください。

『『あのっ』』

 子供達からも通信。
 が、被っている。

 えーと、詳しい話。
 食事時、集合してから聞くとして。
 どんな話かだけ先に聞いておこうか。

『あのね。
 ハヴェル君とキース君が揉めて。
 そっちは?』

『あ、あのっ!
 ルパートの姉ちゃんが』

『それ、みんなに広げない方がいくない?』

『あっ、私も!
 あのねあのね、キレイな石があってね』

『鳥さん!』
『お魚いた!』
『ゴブリン〜』

 ああー、分かった分かった。
 色々あったんだな。

 大怪我とか、急ぎの話は無いな?
 魚? どこかに水源でもあったか。
 ああ、うん、後でな。
 あとでみんな聞くから。

 と、ハヴェル、キース。
 言い分は両方聞く。纏めておいて。

 それと……骸骨騎士団は街道西側。
 討伐対象、賞金首の魔物。
 バンダースナッチは結局、見つからず。
 移動したか、誰かが倒したか。
 まあ、居なきゃ居ないで良いんだが。

 俺とアンヌの現在地は街道。
 レーネ達の後方。
 西側の藪や林から骸骨騎士団を戻す。
 東の草原へ。

 うちの子、新人達、魔物隊。
 この人数を纏めるのは少々骨だな……
 まだ手の届く範囲ではあるが。

 まあ、まずはメシだ。
 メシ食ってまた次を考えるさ。



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