黒鷲の旅団
25日目(9)黒鷲団従者隊、報告

「どうです。これ、大きいでしょう。
 食べられると良いんですけれど」

 フンスと鼻息でも聞こえてきそう。
 大きな獲物をバックに、レーネ。
 やや反り返り気味。

 でも、ああ……これ。多分これだ。
 バンダースナッチ。
 賞金首を仕留めたのはレーネ中隊だった。

 コドレア東の草原に集合して報告会。
 倒した獲物なんかに転移魔法。
 集合場所まで引っ張って来て。
 みんな色々出して来た中に、これだ。

 討伐、戦闘は特に問題無かったかな?
 口元が燻ぶっていて。炎も吐いたとか。
 ケルベロスか何かの親戚なんだろうか。
 出自は伝承ではなく創作物と思ったが。
 ファンタジー化した地球コピー世界。
 こんなのが普通に暮らしているのか?

 アンヌ曰く、生態系の産物ではない。
 魔界の怪物。空想と邪霊邪念の混合物。
 誰か召喚した奴が居るだろうという。
 ともすれば、その召喚者。
 真に討伐対象なのは、そいつの方か?

 バンダースナッチ。鑑定。
 邪気とか何とか毒性がある様子。
 食べられません。残念。
 こいつの賞金が入る。
 それで何人も養えそうだけれども。

「ちぇー。俺だって倒せたのに」
「邪魔したのはお前の方だろ」
「もー、やめなさいってば」

 キースとハヴェルが揉めた件。
 原因は獲物の取り合いらしい。

 自分が倒したい。
 しかし出番が回って来ない。
 ロジェの狙撃もそうだったな。
 この辺は俺が謝らなきゃならん。
 人数とターゲットの数の不整合。
 調整が上手くなかった。

「オヤジさん謝らせてんじゃねーよ」
「いでっ」
「うぐ」

 ロジェがキースとハヴェルを軽く小突く。
 うんうんと頷くのはレーネやユッタ。
 まあ、その辺でな。何か対策を考えよう。

 作戦範囲を広げる、としても。
 今度は俺の目が届かなくなる。
 魔物の再配置も追い付かなくなるだろう。
 やり過ぎても冒険者達の仕事を奪う。

 魔物の再配置。
 これもよく分からん仕様だな。
 生態系、竜の卵とか。
 繁殖している魔物もいる一方で。
 闇の気配だのから降って湧く奴ら。
 街道沿いに再配置されるモンスター。
 周囲の犯罪や人死にで強化される。

 まあ、考えた所で。
 すぐにどうこう出来るものでなし。
 一旦そういう物だとしよう。
 折り合いをつけて行くしかあるまい。

 子供達の配置についてだが。
 ローテーションを組んで回してみようか。
 戦闘訓練ばかりが目的ではない。
 職業技術も獲得する必要がある。
 教われる所も探さなきゃならんが。

 さて、もう1つの問題。
 これも対策が要るよなあ……

「す、すみません。私のせいで。
 あの、進むのが遅くなってしまって」

 ルパートの姉、エセル。
 いや、謝らなくて良いんだ。
 誰が悪いとかじゃなくて。
 ただ、そういう問題もあったなと。

 デリケートな話。
 大きな声では言えないが。
 エセルは行軍中に生理が来てしまった。
 今回は魔女協会から応援が2名。
 カティヤさんの方がケアに当たった。

 女子に限定して念話。
 他に生理が、月経があるのは?
 フェドラ、レーネ、ペトリナと。
 エメリナ、テルーザ。
 あとヘルヴィ、ヘレヴィ……ぐらいか。
 月経が何なのか分からない子も多い。

 女の子の性教育。
 おじさんには、ちょっと荷が重い。

 それぞれで教えられ……ないか。

 フェドラなど病気ぐらいに思っていた。
 半魔人の教会孤児だ。
 教会でも遠慮して聞くに聞けなかった。
 栄養不足、定期的に来るでもなく。
 来る度、死ぬのかと不安に思っていたと。

 魔女さん達で教えられませんか。
 報酬は別途考えますので。
 任せてよと魔女カティヤ、ロロット。

「パパさん、こっちこっち」
「あたしのも見てよー」

 倒した獲物を自慢して来る子供達。
 分かった分かった。順番にな、順番に。

 折れた矢を持って来たマルカ。
 遠射での継矢、初成功。

 キノコを持って来るツェンタ。
 デカい。何それ。

 ただ撫でられに来たリリヤ。
 甘えん坊さん。

 はいはい、よしよし。
 みんな頑張った頑張った。

 討伐記録はサイクロプス3。
 グリフィン2、ガルーダ4。

 ゴブリンが188。
 草原上をほぼ掃除し尽くした感。
 的が手近に足りない状況だ。
 誰か狙撃しまくったな?

 あとはウルフが34と。
 ボア、コボルド、インプが少し。

 収支計算。支出……
 そうだ、支出も計算しないと。

 ヴィダル達、ブーツを4足買った。
 弓はロングボウが2。
 ショートボウ11。

 昨日から参加のチビっ子達。
 ボウガンの立て替えもまだだっけ?

 ルーシャが立て替えていた。
 ノイエの指摘で発覚。
 大丈夫って言うけど、貰っときなさい。

 俺の魔法カードを確認。
 振り込まれる討伐報酬は114万7500と。
 バンダースナッチ単体で20万。
 それぞれ振り込まれている。

 しかし、広く展開し過ぎた為か。
 子供達の収入はバラバラ。

 中隊ごとの撃破報酬の半額かな。
 ユッタ達うちの子が30万前後。

 外部から来ている子は更に半分。
 まあ、儲かってはいるのか。
 おじさんばかりズルい様な気もするが。
 子供らが笑顔なので救われている感。

 さて、時間的にはそろそろかな。
 イーディス軍、ロンバルディア公国。
 先日のアーデルハイトに対応。
 こちらも通信の会見をやる。

 魔女さん達が水晶玉みたいな物を用意。
 何かの魔道具、魔法アイテムらしい。
 映像通信魔法を受信・投影する。
 昼食を取りながら拝見させて貰おう。

 そんな折、探知反応。
 北西に黄色反応が多数。
 街道沿いに来る。
 人間。この数は軍隊か。

 しかし、ブラデニ側。
 出兵の気配は無かったと聞いたが。

 見て来る、と駆け出すアンヌ。
 すまん。任せる。

 公主軍はアーデルハイトに恭順しない。
 あれらが会見後、敵反応に変わるか。
 変わるまで想像がつく。
 奴らは電撃作戦がお望みだろうか。

 子供達には移動の用意を。
 と、ゴハン?
 ああ、うん……そうだな。
 ゴハンどうしようか。



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