黒鷲の旅団
25日目(10)手札を表に

『分かったわ! もう、なんて事かしら。
 あいつら、ポータルを使ったのよ!』

 あの数でポータル由来だとすると。
 敵陣にも神人が複数居るという事かな。

 街道を進んで来る兵団を認識して、数分。
 偵察に出ていたアンヌが通信を寄越した。

 現在地はコドレアの北西?
 ブラデニまで行ったのか。
 兵団に接触せず。
 街の目撃者から聞き込みをした様子。

 街ごとにある転移ポータル。
 これは基本的に神人、異世界人の設備だ。

 起動した神人が使う。
 行った事のある場所に転移出来る。

 この、神人が使う場合。
 転移魔法と違って魔力を必要としない。

 この世界の人間、唯人らも使えるが。
 こちらは多少でも魔力を要求される。
 数人ならともかくとして。
 一般兵卒を大量に送るのは荷が重い。

 だから、神人と兵士でパーティ組んで。
 一緒に送って来るワケだ。
 転移魔法では運び切れない様な大軍勢。
 それも、この方法なら。

 しかし、1人2人が起動した所で。
 転移は基本パーティ毎。
 パーティ。まあ、部下として。
 きちんと個々人を認識する必要がある。

 俺も、子供達こそ忘れなかったが。
 馬を運び切れずに戻ったりしてな……
 改めてウインドウで登録した。
 今でこそ平気だが。
 頭の中で大勢やると漏れる事がある。

 そして、兵士1人1人を登録する?
 赤の他人レベルの相手を。
 これは流石に面倒だろう。
 複数人で少しずつ運んだと見るのが妥当。
 神人は複数人居ると思われる。

 アンヌと通信を続ける。
 神人は認識出来るか?

『ん−……ちょっと待ってて』

 と、通信を切り、少しして。
 アンヌが転移して来た?

「解析したわ。被探知に気付かれた。
 すぐ転移した。
 まだ私の情報は見られてないと思う。
『ろぐ』って奴は記録魔法に取ったわ。
 紙に転写する。紙ちょうだい」

 いつも手際に気遣いにと、ありがとさん。
 製紙魔法と魔獣の皮。
 やや大きめに羊皮紙を生成する。
 アンヌの取って来た情報を写して貰う。

 情報。進軍して来ているのは西側。
 大将は ドルボフラフ伯爵。
 第7公女ユスティーナ配下。

 ユスティーナか。
 西、シビウの街を預かる公女
 中立と思っていたが。
 何か心境の変化でもあったか。
 アーデルハイトに迎合する?
 漁夫の利でも狙っているかな。

 神人のパーティが2つ。

 一方は戦士2、騎士、斥候。
 それと魔術師が2だが。

 もう一方は戦士、斥候。
 僧兵、魔術師と。
 狙撃手が2。得物も銃。
 こちらの遠射に撃ち返して来る。
 厄介だな。

 仕掛けるなら必殺のタイミングで。
 必殺し、復活までに捕縛しなきゃならん。
 のが、2人居るという手間。
 撃って死ぬなら先制攻撃で終わりだが。
 神人、この世界での異世界人。
 どうにも生き返って来るワケで。

 加えて、唯人の兵士、編成だが。
 騎兵200、歩兵が1000程度。
 この歩兵に弓兵300。
 銃兵も100ばかり居る様だ。
 一斉射をやられると怖い。
 防いでも跳弾やら危険が増す。

 一旦やり過ごして後方を狙いたいが。
 連中はどう動く。
 まずは探知や解析か。
 向こうの神人も探知して来るだろう。

「来たわ! 探知!
 解析されてる!」

 アンヌに続いて俺も気付いた。
 脳内に被探知と被解析のアラーム。
 加えてウインドウ表示。
 解析に対する開示の可否の問い。

 抵抗の意思を示した場合。
 後は解析レベルとの力比べになるが。
 ここはあえて開示しよう。
 アンヌとジュスにも開示を促す。

「ふふん? そういう作戦で行くのね?」
「え、え、何? ボクにも説明してよ」

 まあ、まずは反応を見ておこう。

 被解析から少しして……来たな。
 ドルボフラフ軍の足が止まった。

 こちら、総員200にも満たない小兵団。
 遠目に見て子供。
 多少魔物の姿もあるが。
 数だけなら蹂躙出来る様に見えるだろう。

 しかし、奴らは解析で内訳を見た。

 アンヌ、レベル785。
 レベル3桁が1人。

 ジュス姉さん1028。
 レベル千を超えているのが1人居る。

 対し、敵側の神人。
 レベル100にも満たない様子。
 100越えでも珍しい方なんだろうかな。

 よしんば秘策の類があったとして。
 それでも後の戦闘も考えると。
 正面から当たりたくあるまい。

 かといって、スルー?
 このままブラショヴを攻撃するか。
 途端に、この小兵団が後ろを突いて来る。
 大半は子供だが、何だかレベルも高い。
 死に物狂いで突貫して来た場合。
 果たして、どれだけ被害が出るか。

 ……とか何とか。
 想像してくれると良いんだがな。

 こっちはこっちで超ハードモード。
 1人として死なせたくない。

 尻尾を巻いて逃げたい。
 総力戦なんかになる前に。

 しかし、相手の嫌がる手札をチラつかせる。
 それで躊躇させられるならそれも一手。
 出遅れてくれる間に逃げるか。
 あるいは援軍を呼ぶなりする。

 大体……まだ食ってる子が居るし。

「いそげっ、いそげっ」
「もっきゅもっきゅ」
「んぐんぐんぐっぐ」

 落ち着け。まだ大丈夫だから。
 時間を稼ぐ為の方法を考えている。
 まだ大丈夫だ。

 遅れ気味なのは貴族組。
 ルパートとエセル。
 中層区出身のキース、レイモンド。
 バート隊のチビっ子達もか。
 食べるのがゆっくりだ。

 食べている子はそのままで良い。
 方針を聞いてくれ。

 ユッタ、マリナ、レーネ。
 各第1小隊を指揮、陣地構築。
 偽陣地だ。形だけで良い。
 花人隊、陣地の前後に罠設置を頼む。
 奴らがこっち来たら引っ掛かる様に。

 ジルケ、フリーダ、ルジェナ。
 各第2小隊は後方に先行。
 周辺を探知しながらコドレアの村へ。
 大丈夫そうなら後発チームを送る。
 何か出る様なら対策を……おおっと?

 後方、村の方角を見た折、何だ。
 村人の方がこっちに駆けて来ている?
 避難指示を受けたハズだが。
 受けて、俺達を頼って来てしまった?

 ちょ、ちょ、ちょ……
 マジか。え。どうする。
 早い者は来るというか、もう来た。
 こちらの外側と接触しつつある。

 えー……変更。
 各第2小隊、陣地構築だ。
 偽陣地の後ろに本陣を作ろう。
 迎撃準備。
 使わんかも分からんが、備えを。

 他の隊の者は獲物だとか荷物を纏めて。
 転移魔法で魔女協会の敷地にでも送って。

 ん? 会見始まっちゃった?
 聞きながらやろう、聞きながら。



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