黒鷲の旅団
25日目(11)イーディス公主、推して参る?

『はあーい♪ 国内国外のみんなー。
 元気してるう?
 こちらロンバルディア公王代理。
 イーディス公主よん♪
 なんつってー。ふっふーん♪』

 思い切ったと言いたい所だが。
 まだ照れがあるかな。

 イーディス公主の通信。
 国内外へ通信演説を始めた。

 当初から砕け口調。
 媚びたポーズ。
 締めにウインク。
 権威などかなぐり捨てた。
 親しみと可愛げを猛アピール。
 挙句ミニスカ・ロリータファッション。

 流石に生足は出さない。
 ニーハイソックスで。
 しかし、ガラじゃないだろう。
 無理している。
 よく見ると頬が引きつってるぞ。

 これは対比だ。
 女王アーデルハイトとの対比。
 あちらは厳かな演説を通した
 同じ手法ではインパクトに欠ける。

 せめて印象に残す。
 即決で味方にならなくともだ。

 異世界人の多くは勝手気まま。
 忠義より好き嫌いで動く。そして強い。
 連中を幾らかでも引き込みたい。
 人気取りも大変だが、頑張って貰おう。

 しかし、大した刺激物だな。
 子供達には眩し過ぎるか。

 グンター、リュシアン呆然。
 ヴィダルも手が止まってるよ。
 エスター、ニノン、スープ零してる。
 拭いて拭いて。
 火傷してないなら何よりだが。

 映像の中、演出過多のキラキラ公主様。
 男子はともかく女子まで反応している。
 内心オシャレしたかったりするだろうか。
 おじさんにその辺の気回しは難しいな。
 せめて着たい物を着られるだけ。
 金ぐらいは稼がせてやりたい物だ。

『さってと、早速本題行ってみましょうか。
 アーデルハイト新女王様。
 シュテルンフェルト公国新体制。
 まずは就任おめでとう。
 ってー言いたい所なんだけど。
 ちょーっと思う所がありましてね?』

 公主が続けるには、要点は2件。

 まず1つ。
 シュテルン公王の座。
 男子直系ではなかったか。

 アーデルハイトが手柄を立てても。
 ヴィンフリードが弱いフリをしても。
 父王は跡取りは長男だと変えず。
 生前、覆る事は無かったという。

 にも拘わらず。
 公王崩御をこれ幸いと長女が継承宣言。
 支持を得られているのか。
 簒奪とか言われませんか。
 法整備をするべきじゃないかー等々。

 第1公女が公王をどうこうと。
 この辺は一旦伏せたか。
 まずはリスクの少ない範囲。
 揺さ振りを掛けている。

『発言をよろしいでしょうか。
 イーディス公王代理殿下』

 通信が割り込んで来た。早い。
 映像が2つ横並びになる。
 左にアーデルハイト。
 喜んで、とイーディス公主。

 このアーデルハイト曰く。
 支持は得られている。
 反対する者も居るには居るとして。
 説得を続けている所だと。

 返すイーディス。
 武力行使の動きがある。
 先日は男爵・伯爵クラスが襲来。
 軍隊を動かして来ているいる。
 外から見て、危惧。
 内乱に発展するのではないか、と。

 アーデルハイトの反論。
 武装蜂起に鎮圧の手を回している。
 国軍は精強。
 他国の手を借りるまでも無い。
 内乱には発展させない。
 軍事介入など必要無いと。

『うん、その。
 対策してるって所は評価するとして。
 精強な方が勝つってんだから。
 昨日は勝った方。
 ヴィンフリードさん達が正規軍。
 そういう事でOK?』

『そ……うで……うぇっ?
 いえ、少しお待ちを』

 歯切れの悪いアーデルハイト。
 少し悩んだな。

 対外的に、内乱なんて無いよ。
 これを主張する為に。
 ヴィンフリード軍を公認するのか。
 将来、競合するかも知れん。

『ええ、はい、問題ありません。
 傘下に加わって頂けるのであれば。
 彼が先の継承候補であれど。
 拒む理由はありません』

『それなんだけどね、姉上』

 割り込んで来たのはヴィンフリード。
 イーディスの側で控えていた様だ。

『内乱は望まない。
 武装蜂起の鎮圧には協力しよう。
 暫定的にでも姉上の政権を容認する。
 ただ、姉上の指揮下に入る。
 これは少し待って欲しい』

『私の即位に何か不審な点でも?』

『その発言は性急だな。
 姉上。まだ何も言っていない。
 誰かが何かを見た件について。
 今ここで言及はしない。
 彼に何か起きたら信憑性が増すけど。
 自分で見ていない物だ。
 根拠に命運を賭すのは難事だよ』

『……では、従って頂けるのですね。
 暫定的にと言えども。
 手勢は正規軍に編入。
 然る後、必要とあらば派遣を。
 武装蜂起の鎮圧は正規軍の指揮で行います』

『それが間に合わないのが懸念だよ。
 先日も、田舎貴族が押し掛けて来た。
 姉上の手下を名乗ってね。
 従わねば力づくでも、と来た物さ』

『確かなのですか。
 私が異母弟を害す、手に掛けるとでも』

『大方、口実さ。
 ドサクサの領地拡大が狙いだろう。
 それでも、知っての通りだ。
 僕は覇気に欠いた臆病者。
 武装蜂起への対抗手段は欲しい。
 手元に残したい』

 反逆者の烙印を躱しつつ。
 目撃者エドヴァルトへの刺客を牽制し。
 それでいて私兵を。軍権を手放さず。
 ヴィンフリードの綱渡り。

『ん。んん。お2人とも。
 その辺の調整は、お2人で。
 またの機会で如何?
 他に言っときたい事がございましてよ?』

 イーディス公主。
 割り込んだ様で助け舟。

 女王側は駐留部隊を寄越すかもしれん。
 だとして、到着までに対策を考えられる。
 この件は結論を長引かせた方が良い。

 そして公主もう1つの要点。

 次期公王が世襲序列から脱する。
 それならば、それはそれとして。
 誰が女王、王権を握るのか。
 議論が不十分でないか。

 アーデルハイトが暫定女王。
 ひとまずは、それでも良いが。
 他にも相応しい者が居るのでは。
 議論は継続すべきだと。

『勿論、頑張ってる女の子だもの。
 応援したくなる。
 分かるわー。だからね。
 アーデルさんも悪くないけど。
 あえて私はこの子を推すわ』

『え、え、えっ、ちょ!?』

 と、イーディスが引っ張り出したのは。
 ……リュドミラ公女だと?



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