黒鷲の旅団
25日目(12)政局の下、戦局は進む
『はい発表ー。私、イーディス公主。
シュテルン次期女王候補について。
このリュドミラちゃんを推します。
はーい、みんな拍手ー。
わーわーひゅーひゅー。
おおーい、拍手足りないぞー』
ぱらぱらと拍手の音。
感動よりも呆気に取られている感。
リュドミラも戸惑って見える。
『え、それ、内乱の誘発ですよね?』
『違うんだなー、これが』
アーデルハイトの疑問。
答えるイーディスだが。
うん、まあ……どうだろう。
新女王の座はさておいて。
次期女王にリュドミラを。
国を1つに纏めるという所。
そこに、もう1つ旗頭を掲げる。
お家騒動に余計な波紋を生じる。
対し、イーディスのお題目。
地方の反乱を抑えて回る為。
ヴィンフリードもそうだが。
リュドミラにも戦力を預けて欲しい。
リュドミラを応援したい。
次期女王まで行かなくとも。
例えば将軍なり官僚なり。
要職に就く為の経験を積ませたい。
至らない所はサポートする。
必要なら援軍も出す。
領土を割譲しろだの言わない。
遊撃的に中央をサポートする。
……などと説明するが。
その思惑として。
中央集権に対する妨害なんだろうな。
とは言え、アーデルハイト。
この申し出を無下には出来ない。
外向きに内乱は無いと主張して。
しかし実際問題、内乱状態は続く。
まず古参貴族。
世襲を無視した女性君主を認めない。
例えば第1公子ヴィンフリード支持。
融和を望まない強硬派。
恐らく新女王打倒を目指して来る。
公子を担ぎ出そうとして来るだろう。
公子と言えばもう1人。
第2公子ディーティリッヒ派もか。
ディート派は、当のディートリッヒ。
魔王の娘と婚姻している。
魔王を倒す宣言をしたアーデルハイト。
彼女とは馬が合わない。
地方の豪族、地方領主。
日和見を決めている奴らにしても。
シュテルンフェルト公国。
長らく男系国家で通して来た。
そこへ女が王座に就く。
疑問や反感を持つ者も出るだろう。
野心を発揮して来る者も。
独立する者が出ても不思議は無い。
女王にとって、公王崩御は好機にせよ。
予定通りではなかったハズだ。
今しがた説得していると言う以上。
未だ根回しは十分でない。
そんな中で、表向きにでも友軍宣言。
内乱潰しを手伝う。
代わりに軍権を一部寄越せ、だ。
四面楚歌の状況下。
一方面でも放置出来る様になる。
勿論、リスクはある。
あちら側にとってのリスク。
リュドミラがあまり活躍した場合。
本当に求心力を奪われる。
負けじと実績を上げる必要が出る。
その手間と利益が釣り合うか。
新女王の手腕次第だな。
『まあ、その……
利があるのは理解しますが。
言い包めようとしていません?』
『してます、してますー。
だってアーデルさん嫌いじゃないし。
表立ってケンカしたくないですもん』
『そ、それでしたら……ね。
こちらを応援して下さっても?』
『んふ。ごめんね。
こっち先に友達になっちゃったから。
今の困りスマイルは可愛いかったわ。
ゴタゴタせず収めたいとは思ってる。
お父様の件は、そうね。
一度どこかで内密に話したいわね』
『内密……はい……
その件は、いずれまた』
一瞬。最後に2人が目を合わせた一瞬。
2人から何か仄暗い物を感じた気がした。
イーディスはイーディスで腹黒い所が。
アーデルハイトも腹に一物抱えている。
と、アーデルハイトが引っ込んで。
イーディスのターン。
リュドミラの魅力やらを垂れ流す。
言われる方は赤面大爆発といった所。
まあ、お可愛らしいんだが。
今は優先する話でもあるまい。
子供達のゴハンは……大体終わった?
利益だ何だの話は退屈だったかな。
まだ食ってるのが何人か。
グンター、バート、ルパート。
バートとルパートは政治に興味。
グンターは公主様に魅了され過ぎ。
手と口も動かしておくれ。
さて、再度探知……動きが出た。
探知魔法反応、光点の集まり。
ドルボフラフ伯爵の軍。
公主の演説前において。
全体がキレイに黄色、中立反応だった。
それが今、敵対の赤。
しかし友軍の緑も入り混じる状態に。
内情が混乱している。
遠見や何かで顔色を窺うまでも無い。
奴らから見て俺達。
ヴィンフリード軍と見ているとして。
それは敵なのか味方なのか。
新女王に迎合しない。
敵だ。叩くべきだ、という一派。
表向きでも友軍と言っている。
対立は避けたいという一派。
個々人の解釈が一致していない。
部隊の統制に差し障るだろう。
そして、それでも尚。
黄色反応も未だに多い。
まだ中立。
よく分かっていないか興味が無い。
寄せ集めの農兵。
前金を貰っている傭兵など。
これが奴らの6割、7割程度を占める。
言われるままに右へ左へ。
では、何と言われるか。
奴らの司令部の話し合い。
さて、どちらに転ぶのか。
奴らはそうだとして。
では、こちらの対応。
相手の決断より先に仕掛けるべきか。
意見が、覚悟が纏まる前に。
分かっていない内に戦意を奪う。
離散、無力化し得る。
余程の忠臣が居たら別だが。
撃滅より逃げを選ぶとしても。
追っ手の足は止めておきたい。
銃士隊、弓弩隊。
花人隊。骸骨騎士団もだ。
後方陣地に潜伏。
斉射の合図を待て。
前には出るなよ?
罠だらけなんだから。
まずは矢弾や帰還スクロール。
装備の確認をしてください。
アンヌはその後方。
グンターやキース達の引率。
ただ帰すと言っても残りたがる。
だから、任務だ。
アンヌ中隊を結成。
村人達の護衛を行う。
助けを求めに来てしまった村人達。
彼らを護衛しつつ、南西へ。
村には直接戻らせない。
村の南の街道上へ向かってくれ。
交戦状態になる。
村のポータルも使えなくなってしまう。
北上して来る援軍に預けた方が良い。
ついでに、キース達も帰還して……
蚊帳の外も嫌だろう。
魔女達に合流して貰う。
フリアさんが遠見魔法。
戦場を見せてくれるそうだ。
いきなり実戦より、お手本を見てくれ。
まあ、でも、戦働きは強制じゃない。
怖いモンだと分かれば良い。
離れてくれても良い。
リッツァ達みたいな前例もある。
別の道を選んだって良いんだ。
さて、配置に就いただろうか。
魔法付与、斉射用意。
魔法は水蒸気魔法。
まずは奴らから見てだが。
行方を眩ませに掛かるぞ。
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