黒鷲の旅団
25日目(14)先手は霧の向こうへ
「やあやあ、話は聞かせて貰ったぁー!」
ジュス姉さんから天幕に乱入。
変身魔法を解きながら。
人化の術まで解いて魔人形態だ。
「な、何奴!」
「どうやって入り込んだ!」
狼狽えているのは内部。
ドルボフラフ伯爵と取り巻き達。
俺も踏み入って姿を確認する。
ドルボフラフ伯爵。
厳つい軍人といった風貌。
くたびれた中年ないし壮年。
先の会話から察するに。
イーディス公主と因縁がある様だが。
どこかで戦って負けたか何かだろう。
そして……間。
話は聞いた。
で、っていう。
「ん? だから、ほら。
聞いたよ聞いたよ?」
姉さんは姉さんで先を促すが。
どうにも噛み合っていない。
俺が補足する。
こちらヴィンフリード麾下。
黒鷲団からの偵察の者です。
こちら魔人の姉さん。
団員というか協力者というか。
で、伺いました所。
演説を聞かなかった事にして攻撃する。
我々の友好関係にヒビを入れる行為です。
俺達を取り逃がせば言い触らします。
女王の耳にも入るでしょう。
女王陛下も聡明なお方。
友好関係を優先し得る。
伯爵閣下の暴走と位置付けるか。
切り捨てられる。
トカゲの尻尾が如し。
となれば、伯爵閣下。
取るべき手段は2つ。
言い訳を考えつつ強攻を諦めるか。
……あるいは。
「あっ、く、曲者!
曲者だ! 出会えー!
おかしな言い回しをしおって!
ブラショヴ攻めは敢行させて貰う!
弁解など貴様らさえ居なければ!
口を封じれば良いだけぶふぉおっ!?」
言い切らん内に黒煙魔法。
煙幕なんぞ張ってみた。
更に空調・濃縮魔法で阻害支援。
天幕内に濛々と煙が立ち込める。
致死性の魔法じゃないが、直撃。
ムセる。目が痛む。
伯爵達はすぐに追って来られないだろう。
「けほけほ。
やるなら先に言ってよー」
咎めるジュス姉さん。
ちょっと吸い込んでしまった様子。
ごめんごめん。手は引いたんだが。
位置でも悪かったか。
さて、敵が敵だと断定されました。
証人が俺達自身だ。
言い逃れはさせません。
挙句、わざわざ顔を見たし。
こちらも見せてやった。
知らぬとは言わせない。
記録・転写の魔法もある。
聞いてた、嘘だ、のやり取りも無い。
安心して戦端を開きましょう。
天幕を離れながら、探知。
空間把握。解析。
敵施設の内容を確認して、通信。
攻撃に移る。
通信。子供達。
水蒸気魔法の散布は十分だ、
探知情報リンク。
初手から効力射を狙う。
測量魔法の用意は良いか。
魔法付与は燃焼・爆発系。
弓兵隊は敵陣地東、弩兵隊は西。
花人隊は南側を狙ってくれ。
『おっちゃん、この辺? この辺かな?』
測量魔法の弾道ライン。
終端が俺の方で見える。
ぐりぐり動かしているのはツェンタか?
遠見魔法リンク。
俺の視覚情報を子供達と繋ぐ。
弩兵隊、ちょい上げ。ちょい左。
弓兵隊、上げ過ぎ。ちょい下げ。
花人隊、距離よし。
もう少し左右に散らして良い。
調整、よし。
そんなモンだ。撃ってよし。
各隊それぞれに斉射。
タイミング合わせ。
通信越しに各小隊長の合図。
矢弾が飛来。着弾。爆発する。
霧の中、悲鳴、号令。
駆け回る兵達の足音。
良い感じに浮足立って来た様だ。
霧越しの放物線軌道で射撃。
付与魔法からの爆発。
派手に爆裂させる。
三方から攻められたと錯覚する。
忠誠の薄い連中はビビッて離散。
後ろに逃げる方は追わなくて良い。
ヤケクソで打って出る奴らには銃士隊。
昏倒魔法付与、水平一斉射用意。
目標、敵陣正面出口。
敵陣と、こちらの敵側陣地の間で撃て。
非殺傷のゴム弾が飛ぶ。
鎧越しに付与、昏倒魔法が発動。
直接姿は見えないが、探知情報。
×マーク、戦闘不能表示が多数。
少し残ってる、とイェンナの通信。
またいっぱい来るよ、とノイエ。
取りこぼしと増援。対応が要る。
花人隊、骸骨騎士団。
ファランクスを形成して前へ。
弓弩隊も射線を下げて迎撃用意。
戦意を無くした奴は撃たなくて良い。
味方後方、北上している友軍も近い。
混乱した敵方に回り込む猶予は無い。
後は神人チームの狙撃班を抑えたいが。
「魔王の手先め!
俺達が相手だ!」
向こうから出て来てくれた?
不揃いな武装集団。
勇者か何かそれっぽい奴ら。
ドルボ伯爵の指示が届いたかな。
ただ、肝心のスナイパーの姿が無い。
逃げ回っているのだろうか。
例えば狙撃ポイントを探してだ。
面倒臭いが……ちょっと見つからん。
霧に加えて味方の爆破。
俺の探知情報も乱れて来た。
それでも、奴らの狙い。
それが俺達に限定されていれば。
少なくとも子供達の安全度は高まる。
敵陣を東へブチ抜くぞ。
派手に暴れよう。
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