黒鷲の旅団
25日目(15)勇者翻弄

「まだだ! 行くぞ、スイッチ!」
「だからさぁー」

 敵中を東へ突破。
 敵方の勇者を誘い出して。
 ジュス姉さんが相手を始めた。
 勇者、まるで相手にならない。

 次々に斬り掛かる前衛。
 戦士2人と斥候、騎士。
 姉さん、まず右から1人目へ。
 袈裟斬りを掻い潜って掌打。
 左からの2人目に足を掛ける。
 続けて腹を蹴って転がす。

 戸惑う3人目。
 回り込みを狙う4人目だが。
 姉さんは4人目と逆に走り込む。
 3人目を殴打、昏倒。
 4人目は後ろを取られた。
 背中を蹴られて地に伏した。
 後衛2人に至ってはオロオロと。
 魔法の狙いも定まらない。

「もうちょっと工夫とか無いワケ?
 もっと色々出来るでしょ。
 やって見してよ。
 勇者って、心技体の心だけかい?」

「くっそ、言わせておけば! 次だっ!」

 煽られて、また向かって来る勇者達。
 根性はまあ、立派な物だな。

「そうそう。いいねー。
 頑張れ頑張れー」

 対するジュス姉さん。
 完全に遊んでいる。
 あれも人類検証計画かな。

 戦況。敵本陣は混乱。
 ヤケクソの乱射には気を付けたいが。
 護衛対象は離脱した。
 味方援軍も迫っている。
 固く守る限り危険も少ないだろう。

 残る脅威は神人の狙撃手だが。
 これが少々厄介だ。

 ブラショヴの北。フェルディワラ。
 バルトシーク子爵。
 その手勢が南下を始める可能性がある。
 ブラショヴ防衛戦が始まるかも知れない。

 これを支援する為。
 南東へ向かう……その前にだ。
 先にスナイパーを抑えておきたい。
 でないと俺達が後ろから撃たれる。

 対応として。
 目の前のこいつらを痛めつけて。
 焦れた狙撃手が発砲してくれればな。
 すぐ位置が分かるんだが。

 神人勇者のパーティは2つ。
 改めて解析した。

 1つ目は、よくある冒険者チーム6人。
 チーム名は『六竜旅団』だと。

 戦士は男女2人。
 ヴァルケインとハッシュベル。

 重装備の騎士ルクレルク。
 斥候ポントゥーン。

 魔術師の男女。
 マグナスとコンチータ。

 六竜、と。
 見てくれはまあまあだが。
 レベルはほぼ30台。
 挙動もいまいちパッとしない。

 交互に攻撃する。
 ヘイト値でも散らしているつもりか。
 怪物退治は出来るだろうが。
 人型の相手は不慣れな感。

 と、もう1つのパーティ。
 もう少し手強い印象か。

 レベルも60〜70台。
 俺より上なのが厄介だが。
 狙撃手2人が潜伏中。
 残る人数は4人。
 6人の方を相手するよりマシかな。

 俺は氷花魔法を展開。
 氷柱の林の中で撹乱する。

「そこだあ!」
「らあああっ!」

 見つかった。
 敵は戦士と僧兵の同時攻撃。
 左上方からは両手剣。
 右下方からは戦槌が迫る。
 正しい飽和攻撃だ。

 俺は僧兵の両肩に手を置いて跳躍。
 戦士の両手剣も飛び越える。
 置き土産に黒煙魔法。
 混乱している間に距離を取る。

「野郎、逃げんな!」

 側面方向から斥候役。
 銃撃を6発見舞って来た。
 障壁魔法を設置しつつ逃げる。

 と、前から魔術師。
 魔術師だが、杖が仕込み杖。
 刃を抜き払って来る。

 武器受け。いや。
 刃が一瞬青白く光った。
 魔法付与あり。
 咄嗟で回避が間に合わん。
 俺も刀に反射魔法付与。

 付与魔法に反射が反応。
 互いに激しく弾かれる。
 俺は刀を手放すが。
 相手は掴んだまま仰け反った。

「うわっ、とっ!」

 仰け反りつつも魔術師。
 雷撃魔法を放って来る。
 が、少し遅い。突き出す腕を潜る。
 潜りながら掌打で打ち付ける。
 転倒させた。
 俺はそのまま前に抜ける。

 少し一息、という所。
 直感スキルが反応した。

 空を裂く音。
 俺は横転して緊急回避。
 頭上を掠めたのはチャクラムか何か。
 投げたのは斥候か?
 隠し玉があるな。

「ガチ勢だねえ?
 お兄さん、ガチ勢でしょ」

 右を並走して来るのは女僧兵。
 名前はアリスマリス。
 彼女は戦槌の柄を回す。
 殴打部分が外れて落ちた。
 いや、鎖で繋がっている?
 可変型のチェインフレイルの様だ。

「アリス、バフだ!
 出足を抑える!
 白状する。私の本業はサムライだよ!」

 逆側から魔術師、じゃない。
 サムライ剣士フィリジア。
 しかし、魔術は魔術で心得がある様だ。
 本業サムライ宣言もブラフか怪しい。

 アリスマリスの加速。
 フィリジアが前に回り込んで来る。
 反射を警戒して付与無しは好機。
 こちらは重力付与の曲刀タルワール。

 斬り結ぶ事、数撃。
 次いで反転。後方にも気配。
 斥候ジルフットの投げる爆弾。
 を、拳銃で撃墜。
 こっちも兼業斥候だな。
 あれこれ仕込んでいて油断ならん。

 残る戦士キシュフォードもタフな物で。
 爆炎を平気な顔で突っ切って来る。
 怖い怖い。俺は逃げる。
 距離を保ち続ける。

『お兄さん!』

 ユッタ、撃つなよー?
 こっちは撃たなくて良い。
 霧が晴れて来たら周りを見て。
 狙撃手を探して撃つんだ。
 先に撃つと撃たれるかも知れん。
 気を付けて。

 と、子供達の援護射撃を制止して。
 しかし、俺1人では少々手に余る。

 ジュス姉さん……は、このままだな。
 相手10人で乱戦になる方が面倒臭そう。

 だとすると、どうした物やら。
 援軍が来たとして。
 唯人をぶつけて殺されたくもなし。
 アンヌが戻るか。
 誰か神人の援護でも欲しいが。

 思案していると、通信。
 相棒? サナトス。
 サナトスだが。
 その駆動音は何だ?



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ