黒鷲の旅団
25日目(16)どるん、ばごん、ぐだぐだぐだ

「よーう、真打登場だぜ」

 どるん、どるん。
 ぶろろろろろろ。

 駆動音と共に颯爽と現れたサナトス。
 しかし彼が跨っていた物。
 馬ではなくバイク……バイク?
 20世紀代のデザインと思しきバイク。
 クラシックバイクだった。

「うおっ、ヤベェ! スゲェ!」
「見して見して見して!」

 駆け寄って行く斥候ジルフット。
 目を輝かせる僧兵アリスマリス。
 まるで戦いを忘れている。無邪気か。

 しかし、どうしたんだ、こんなモン。
 魔法で動くアレか。
 何かゴーレムみたいな原理で。

「ああー、違う違う。ゴーレム違う。
 最初は魔法で動かそうとしたんだけどな。
 電気とは伝導率が違うのか。
 タイヤ回しても消費の割に走らねえ。
 だから内燃機関から全部再現してやった。
 部品1つ1つ、錬成魔法でチマチマ。
 お陰で熟練度がクッソ上がったぜ」

 部品1つ1つ。パズルじゃあるまいし。
 大した趣味人だ。
 呆れるやら尊敬するやら。

「うわー……うおー……」
「いいなー……いいなあー……」

 ジルフット、アリスマリス、見過ぎ。
 一応は戦闘中だったハズなんだが。
 そんな見たいんなら休戦しないか。

 ……と、提示しつつ、探ってみる。
 あと2人狙撃手が居なかっただろうか。
 証言してくれるのは戦士キシュフォード。

「あいつらとは元々パーティじゃない。
 たまたま居合わせただけさ。
 あっちの姉さんレベル4桁みたいだし。
 せめて手柄の1つでも、とも思ったが。
 俺もバイクの方が気になって来た」

「レベル下げてまで付き合う事も無い。
 私も休戦で良い……が。
 あいつらは応じるかな。
 1人は手柄がどうのと上昇志向。
 1人は依頼達成率を自慢していた。
 裏切り者とか言い出さなきゃ良いが」

 と、サムライ魔術師フィリジアが補足。
 4人は手を止めてくれる様だが。
 残る狙撃手の脅威が去らない。
 まずは見つけないと。
 交渉するにせよ、倒すにせよ。

「あ、私、分かるかも」

 アリスマリス、挙手。僧兵の技?
 探知捜索系の奇跡だろうか。
 出来るという事なら、お願い出来ますか。

「任せてー。不埒なる者に鉄槌の光を。
 神よ、その威をお示しくださいなーっと」

 フレイルを掲げるアリスマリス。
 少しして、ズガバゴオオォォォォォン……
 西側、遠く森の方。
 雷の様な物が落ちた。

 ……ん? 探すだけではなく?

「ふっふん。縛鎖雷光の奇跡って奴よ。
 対象にダメージ。
 許容範囲・任意時間の麻痺を掛けるの。
 今のは成り上がるとか言ってた……
 えーと? フィリ。
 一緒に飲んでた時のアレ。
 誰つったっけ」

「あー。えー……アレか。
 トリトンだかトリリオンとかいう?」

「そうそれ!
 昨日、酔った勢いで触って来た奴。
 殴ったけど足んないからロックオンしてた。
 どっかで足引っ張ってやろうと思ってー」

「えー……昨日だって。
 あいつ顔の形が変わってたじゃんよ」

「だってあいつ、乳首触ったんだよ、乳首!
 信じらんない!
 だって、乳首だよ、もー!」

 女の子がそんなトコ大声で連呼すんな。
 元気だが少々デリカシーに欠けた娘だ。

 ふと見ると、ジュス姉さん。
 相手の勇者達も振り返っている。
 何か咎める様な視線。
 待て。誤解だ。
 俺が触ったとかじゃないってば。

 えー、あー……で、何だ。もう1人は。
 依頼達成率の奴が居るんだったか。

「ほいほーい。
 神様、神様、しゃらららーん」
 
 雑な祝詞から、ズガゴオオオォォン!
 また雷が落ちるが、さっきより近い。
 敵陣の中か?

 こっちも話し合わなくて良かったのか。
 見た限り、アリスさんは凄く満足げだ。
 まあ、俺が探せたでなし。
 わざわざ口は挟むまいか。

 えー……では、はい。
 休戦。休戦します。
 バイク登場のせいで。
 というか、お陰で。ぐだぐだに。

 狙撃手2人は同意も無いが、強制的に休戦。
 麻痺して暫く動けないだろう。
 しかし放置も出来ない。

 分担する。
 サナトスは森の奴を回収・捕縛。
 座席の後ろにアリスマリスが試乗。
 捕縛対象は浮遊魔法でも掛けて。
 あとは引き摺って来れば良い。

 試乗アリスさん、ご満悦。
 ジルフットが羨ましげ。

 後のメンバーは、そうだな。
 戻ったらバイクを見せて貰うとして。

 ジュス姉さんに分担。
 パッと行って敵中の奴を攫って来る。
 道中の敵兵も相手になるまい。
 適当に蹴散らしちゃって。

 その間、置き去りにされる勇者パーティ。
 キシュフォード達で稽古を付ける様だ。
 力不足を思い知らせるのかな。
 説得して、一旦帰らせたい雰囲気。

 それから、と。子供達に通信。
 援軍の方を前に出したい。
 罠の掃除は出来るか?
 ぼごんと音がした。
 振り返ると後方にキノコ雲。
 今のは何だ。燃料気化爆発魔法?
 使い手はフェドラらしい。
 いつ習得したんだか。

 仕掛けた罠を排除。
 後から来る国軍を前へ。
 子供達は少し東に逸れて集合して貰う。

 まずは国軍の規模が見たい。
 連中にドルボフラフ軍と当たって貰う。
 俺達はどうする。
 その援護が必要だろうか。

 ……通信あり。魔女協会。
 大魔女はジズ派のオクタヴィア。
 欠席孤児チームの件?
 ジュリオ達に何かあった?らしい。
 対応済みだが、後で顔を見せて欲しいと。

 こちらのペースで回る物ばかりじゃないな。
 目先の用事が済んだら駆け付けるとしよう。



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