黒鷲の旅団
25日目(17)ニノンよしよし

「くっそぉ〜……おっぱいか!
 やっぱり、おっぱいなのか〜っ!」

 えー、何だって?
 悔し気に蹲っているアンヌ。
 キース達を首都に帰した後。
 戻って来たのだが、どうした。

 どうも、バート隊のチビ達の件。
 引率し切れずに戻られてしまった。
『軍略の魔人』的に悔しいらしい。
 何か失態だと感じた様だ。

 チビっ子達の人望を集めるには。
 自分にフェドラみたいな胸があれば?
 そう単純な話でもないと思うんだが。

「だってホント焦ったのよ。
 ほっといて何かあってもだし。
 あっちは連れてかなきゃならないし」

 分かった分かった。
 お前ちゃんも苦労を掛けるね。
 手招きする。寄って来る。
 よしよしよしよし。撫でこ撫でこ。
 アンヌは鼻を鳴らしてすり寄って来る。

 と、今度はフェドラ。
 後ろから抱き付いて来て。
 どうした? 甘々したい?
 誰かに甘えたい。

 頭や頬を撫でる。
 撫でこ撫でこ、撫で撫で撫で撫で。
 笑顔だが、少し疲れている様子。
 これは気疲れかな。
 バート隊、戻って来ちゃった小さい子達。
 守らなければと気を張っていたのだろう。

「うん……うんー、ママって大変だよ〜。
 私、ちゃんとしたママできるかなあ〜」

 疲労と、あと、自信が揺らいでしまったか。
 段々に覚えて行ったら良い。

 あらかじめ何が必要か。
 小さい子がどう動くのか。
 どう言っておいたら聞いてくれそうか。
 色々覚えなきゃならんだろうけれど。
 ならんのが分かったのは良かったな。

 慌てなくて良いんだ。段々に、段々にな。
 よしよしよしよし。撫でこ撫でこ。
 撫で撫で撫で撫で……おや。

 見ると、フェドラの腰。
 小さい子が1人抱き付いていて。
 バート隊のニノンか。
 一番小さい子。いつの間に。

「ごめんね。ママ。
 良い子にするから。ね。
 だからね、捨てないで。
 もう捨てないで」

 ニノンは捨てられっ子だったか……
 置き去りにされる事に抵抗がある。
 泣きそうな顔。
 フェドラに頭を擦り寄せている。

「うんうん、良いんだよ。捨てないよ。
 でも、危ない事しちゃだめだよー?」

 くたびれフェドラも無下には出来ず。
 ニノンをよしよし、よしよしよしよし。

「はあ……なんかもう。
 お乳あげたくなるわね」

 アンヌちゃん、4歳児はお乳吸わない。
 愛おしく思ってくれるのは良いが。
 そもそも出ないって言ってただろう。

 アンヌも俺も一緒になって。
 ニノンをよしよし。
 よしよしよしよし。

 よしよし……ん? おや?

「ん? おっ?」
「あれー?」

 アンヌもフェドラも気付いた様子。
 ニノンの頭、髪に隠れて小さい角。
 耳の後ろにも鱗の様な物がある。

「あ、あっ」

 慌てて逃げようとするニノン。

「良いんだよー」

 フェドラ変身。
 半魔の血を開放。側頭部。
 巻き角をしゅるんと生やして見せる。

「あ、あ、ママ……ママー!」

 戻って来てフェドラに抱き付くニノン。
 安心した。同族かはともかく。
 亜人種仲間だ。

 しかし隠そうとしたという事は。
 ニノンが捨てられた理由。
 この角や鱗だったのだろうか。

 解析。ニノンは……雷竜人?の血統?
 アンヌの方が解析は強いか。見て貰う。

「んー……そうね。雷竜。
 ふふん、良いじゃない。
 でも両親は人間ぽいわね。
 先祖返りかしら。
 解析で系譜を5代ぐらい遡ったけど。
 ずっと人間ばっかりだわ」

 そこまで遠縁となると。
 同種を探しても受け入れ難いだろうし。
 人間種と暮らしたとして。
 成長したら何か困るだろうか。

 受け入れ……第2弓兵隊、かなあ。
 そこだけまだ5人だ。
 丁度良いと言えば丁度良いんだが。
 まずはバート達とも相談してみないと。

「よう、旦那。休憩中ですかい」
「どうもー。3日ぶりぐらいです?」

 イェルマインとマグダレーナ。
 後ろから騎兵チームの皆さん。
 エリック達の姿もある。
 公主と共に遠征に参加していた様だ。

 戦況は? これからか。
 北にドルボフラフ軍。
 南東にバルトシーク軍。
 こちらは騎士ジャンナの率いる分隊。
 サナトスの隊や、黒獅子隊も来ている。

 部隊分けがある。
 顔を出して欲しいと言う。
 分かった。ちょっと行ってみよう。

 行きながら、各隊に通信。
 みんな変わりは無いかな。
 手近にいる子は順繰りに触れ合う。
 姿の見えない子は無事を確認する。

 損害状況。脱落者無し。負傷者あり。
 負傷者……軽傷のみ。処置済み。
 流れ矢が少し掠めたか。
 及第点だが防御の見直しは必要だな。



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