黒鷲の旅団 >25日目(18)ヒュリヤにキノコ?


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25日目(18)ヒュリヤにキノコ?

「よっしゃ、行けおらああ!」
「進め進め―っ!」

 みんな元気だね……

 後方より援軍、到着した騎士ジャンナの部隊。
 敵ドルボフラフ軍の混乱を知るや、早々に進軍を開始。
 とっとと片付けて、首都防衛に折り返す算段らしい。

「よっす」「どうもー」
「黒鷲さんも気を付けてねー」

 俺達の横を駆け抜けて行くのは黒獅子隊。
 ジョルジュ、クリストバル、ハイルヴィヒと。
 彼ら十人長の後に続く兵卒達。
 隊列に乱れは無く、意気も高い様子。
 離反者の始末で動揺もあったと思うが。
 部隊の立て直しは済んだ様だ。

 主立った手柄は彼らに任せよう。
 主軍の北上を見送って、俺達は南下。
 一足先に首都方面の援護に向かう。
 なるべくなら奇襲だ。徒歩で進軍を開始。

 通信、より、顔を見ながらの方が良いだろうか。
 声を掛けて回る。みんな変わりは無いか。
 不調者は居ないだろうか。

「あ、あっ、あの」
「おじさーん、ヒュリヤちゃんが何かー!」

 まごついているヒュリヤにアルメルが助け舟。
 挙手と声掛けで知らせてくれた。

 ヒュリヤ。第2弓兵隊、斥候担当。
 元奴隷兵で恐らくは複数亜人種の混血。
 同期のトゥリンに比べて目立たない子だが。
 ここへ来て何か……おや。

 ヒュリヤの腕に何かが生えている。
 何だコレ。キノコ?

「ど、どうしよう、これ……」

 俺が戸惑っていたらヒュリヤが不安げに。
 ああ、待て、落ち着いて。まずは調べてみよう。

 解析。ダメージとかは無さげ。
 鑑定。キノコ、が、ヒュリヤ。
 これもヒュリヤの一部だと。

 引っ張っても取れない? 痛くない?
 キノコにそっと触れてみたら……取れた。
 取れたけど、足が生えて動き出した?

「わ、わあああ!?」
「ぎゃっ!? 何か踏んだ!」

 驚くヒュリヤ。取り落とされるキノコ。
 これを後ろから来たマルカが踏んでしまった。
 動かない……死んだ?

「え、え、ごめん。これ」

「あ、だ、だいじょぶだよ。
 でも今、キノコが見てた物が見えたっぽい。
 マルカちゃんの靴が、ぐわあーって来て」

「あ、わああ、ごめんな。ごめん」

「だだだだいじょぶ。痛いとかは無かったから。
 ちょっと、ビックリしただけで……」

 ヒュリヤもマルカも動揺している。
 ええーと? ヒュリヤ、どこも悪くないんだな?

 キノコは死んだみたいになっているが、本人は無事。
 そしてキノコが見た光景が、ヒュリヤにも見えていた。
 いや、キノコの目ってどこだか分からんけれども。
 使い捨て可能な分体が出せる、という事か?

 くたっとしたキノコをマルカが拾う。
 ヒュリヤに渡すと、掌に溶けて消えてしまった。
 今度は何だ。吸収されて戻った的な?

「マイコニドの血縁、なのかしら。
 人間と子供作れるなんて聞いた事無いけど」

 同じ魔王軍のアンヌでも首を傾げる。
 何かレアケースなんだろうか。
 覚醒したのは水蒸気、水分由来だろうか。

 うん……まあ、まずは便利な能力だと割り切ろう。
 ただ、自分の一部を切り離す。
 何かしら消費している可能性は否めない。
 使っていて不調が出る様なら、対策を考えよう。

 ケアを厚めに。衛生担当はリューリだったか。
 他の子達も、なるべく気にしてやって欲しい。
 ヒュリヤ自身も、何か気がついたら言っておくれ。

 ヒュリヤはとりあえず大丈夫そうだとして。
 あとはバート達か。ニノンの件。
 本隊受け入れの事を話すと、反対は無く。
 ただ、他の子も出来れば。女子だけでもと。

「えー、兄ちゃんと一緒が良い」
「私はママが好きー」

 女子。エスターとベアトリクス。
 結論は急がなくて良いんだよ。
 まだまだ支援・指導は続けるんだから。

 さて、進軍。目立った魔物の姿も無く。
 探知範囲に目標を捕捉した。
 草原・街道付近に展開された、バルトシーク子爵の軍。
 陣形を取っている様だが、戦端は開かれていない。

 みんな、まだ撃つなよ?
 まずは公主達に通信。状況を確認しよう。



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