黒鷲の旅団 >25日目(21)ジュリオ、ダイ・アナザー・デイ


黒鷲の旅団
25日目(21)ジュリオ、ダイ・アナザー・デイ

「え、捕まえた?」
「なあんだー」

 残念がるツェンタ、エメリナだが。
 通信で聞く限り、どうやらそうらしい。

 逃げて来るであろうと見込んでいた、バルトシーク子爵。
 これを捕らえる為に網を張っていた俺達、黒鷲団であったが。
 当のバルトシーク、逃げ切れず本隊に捕らえられた様だ。

 取り逃がすよりは遥かに良いが、手柄も無し。
 まあ、そんな事もあるさ。無事に済んで良かったとしよう。

 通信、リュドミラ公女から。
 捕らえた子爵、伯爵はアーデルハイト新女王に引き渡す。
 代わりにドルボフラフの領地管理権を獲得した、と。
 まあ、細かい所は後で聞かせて貰おう。

 俺達はブラショヴには南下せず、北上。
 フェルディワラの街へ向かう。
 領主捕縛、降伏勧告が届いていれば、門は開いているだろう。

「止まれ! 何者だ!」
「ヴィンフリード殿下の手の者か!」

 ……開いてなかったよ。

 閉じた門の上、兵士達に呼び掛ける。
 バルトシーク子爵の部隊は敗北した。
 女王アーデルハイトに通信が行っている。
 何か通達が来ていないか。

 確認すると言って兵士達が引っ込んで。
 待つ間、各方面と状況確認。
 みんな無事だな? 元気? 疲れた?
 まあ、そうだな。もう日が傾いて来ている。

 ロジェ達の方はどうだったか。通信。
 魔女達の遠見魔法や何かで見学。
 みんな大人しく見ていてくれた様だ。

 戻ったら、ルパート達。宿泊場所を考えないと。
 ブラショヴを歩いた限りでは混雑していた。
 多くは募兵に応じた傭兵や、近隣の腕自慢などだろう。
 連中で宿の部屋が埋まる。もう埋まっているか。
 トゥルチャの開発地区に飛んで、野営の支度かな。

 丁度、フェルディワラの門が開く。
 門を潜り……ああー、ストップ、ストップ。
 駆けだそうとする子供達を引き留める。
 新しい街も気になるだろうが、観光はまた今度。
 今日の所は、帰って夕食の支度にしよう。

「えー、ちょっとだけ」

 渋るカーチャ。探知情報は。

「う……赤い、のがある」

 そう、赤。住民か残兵かに敵対的な反応がある。
 領主が降伏して間も無い街だ。
 負かせたこちらに少なからず反感があるだろう。
 見て回るなら、リュドミラ達が来て落ち着いてから。

 門を潜った所にポータルを発見。認証登録。
 まずはブラショヴに戻り、ロジェ達と合流する。
 それからブカレストだ。欠席チームはどうしたか。
 特にジュリオ達が気になっている

 ブカレスト、魔女協会受付。
 欠席組はジュリオ、ヨティス、ティモ、ヒューゴの4人。
 見るからに意気消沈した様子で座り込んでいた。

「あっ、オッ……おじ、さん……」

 今、オッサン言い掛けて飲み込まれた様な?
 いや、それよりどうした。
 何か失敗したのは想像に難くないけれども。

「どうしよう、俺達」
「借金が……」

 借金。金を借りた?ではなく。
 冒険者の依頼に失敗して、違約金が発生したのか。
 依頼内容は貴重品輸送の護衛。
 この貴重品が、賊に襲われて奪われた。
 この弁償が結構な額になり、手持ちを越えてしまったという。

 冒険者。一山当てて一攫千金、などと言うものの。
 実際、依頼遂行率100%なんて夢物語。
 美味い話もあれば落とし穴もある。
 上手く行く話もあれば、行かない話もある。

 そして依頼人には依頼人の都合がある。
 冒険者のやる事だから、で済む話ばかりではない。
 怪物退治の失敗なら、失う物はそう無いかも知れんが。
 物品を無くしたとあっては、弁償も求めて来るだろう。

 依頼失敗率と違約金、生活費、諸経費。
 これが依頼遂行率、成功報酬に釣り合うかどうか。
 実力と判断力。丁度良い依頼に出会えるかといった運気。
 冒険者として食って行けるかのボーダーラインだな。

 ジュリオ達も、幾らかは慎重さを身に着けていた様で。
 今回は大人のパーティについて行ったらしい。
 分配は半分で良いから冒険を経験したいと言って。
 武器が使えて偵察ぐらい出来ると売り込んで。

 しかし、大人でも失敗する。負ける事がある。
 ついて行ったパーティは盗賊に押し負けて全滅。
 ジュリオ達は命からがら逃げ出して来た。

 その、ジュリオ達はついて行ったに過ぎない、のだが。
 依頼人にしてみれば、他に追及する相手が居ない。
 弁償しろと言って来て、これが実に400万。
 明日までに用意しないと、憲兵を寄越して逮捕すると。
 督促状を突き付けられて帰って来たという。

 物品は何だったんだ? 書面を見せて貰う。
 貴族の婚姻に関わる贈り物らしい。
 無二の品でもなく、奪還は期待されていない。
 ただ、急ぎ別の物を用意しなきゃならん様だ。

 400万ぐらい集められるよ、とユッタ。
 しかし、とても貰えないとジュリオは言う。
 大見得切って出て行って、失敗して。
 格好悪い、死んでしまいたいなどと。

 そんな事を言うなよ、ジュリオ。
 折角助かったんじゃないか。
 死ぬんでも別の日にしなさい。
 金は立て替えておいてやる。

 書面の依頼人は、フルトホーフェン男爵?
 屋敷は遠くない様だ。今からでも行って来よう。

 呼び掛けて、しかし顔を上げられないジュリオ。
 ホントに早まった真似をするなよ?
 これは貸しにしておくから。
 頑張って生きて返しておくれ。



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