|
黒鷲の旅団
25日目(22)気がかりがまた1つ
「38、39、40……金貨40枚、確かに。
ご足労頂き、ありがとうございました」
フルトホーフェン男爵の屋敷にて。
金貨40枚。金額表示で400万を支払う。
侍女は金貨を数え、深々と頭を下げた。
まあ、お嬢様の婚姻だ。
俺も上手く行って欲しいしな……
フルトホーフェン家の侍女、デュプレー。
俺の知っているデュプレーさんだった。
盗賊から助けた男爵令嬢の侍女。
マルカ達の村で一緒に戦ってくれた1人。
詰まる所、お嬢様。
男爵令嬢ルアンヌさんだ。
ルアンヌ・フルトホーフェン。
彼女は前回の婚約が破断している。
相手が潔癖だったのだろうか。
賊に傷物にされた彼女を拒絶した。
彼女の落ち度でも無いだろうに。
気の毒な話だ。
今度見繕って来られた相手。
若くして妻に先立たれた子持ちだとか。
既に跡取りが居る。
死んだ妻を愛してもいる。
後妻の枠が埋まれば良かったのだろう。
浮気も構わんとまで言われている。
そんな冷めた結婚相手だが。
お嬢様は振り向かせる気満々で。
めげないな。
それとも実家の為にと息巻いているか。
ジュリオ達が盗まれた品。
これがお嬢様の結納金代わり。
逮捕宣言も間に合わなかった場合に備えて。
相手の溜飲を下げる為のポーズだった様だ。
そもそも子供冒険者だ。
ポンと払える額ではない。
とにかく婚姻さえ成立すれば良し。
恩赦に掛けるつもりであった、とも。
「フルトホーフェン男爵様。
冷静ではなかったのです。
大恩ある黒鷲様。
お子様に迷惑を掛ける気は、決して。
当家は黒鷲様を支持しています。
此度の行き違い。
何卒ご容赦頂けましたらと」
デュプレーさんの説明。
これは男爵の意思か。
彼女個人の心情も含めた話だろうか。
当の男爵氏の姿は無い様だが。
「申し訳ありません。
婚約者様のお屋敷に出向いております。
黒鷲様は話せばお分かりになるお方。
他方、婚約者様とはお付き合いが浅く」
多少でも人柄の知れた方。
話の通じそうな方を後にしたという事か。
お嬢様、デュプレーさんにしても。
俺も幾らか情もある。
容赦をと言われれば容赦しなくもない。
貴族との衝突も望まないしな……
どうせチャラになるハズだった違約金。
これも支払っておこう。
ご祝儀代わりだ。どうか幸せに。
そういえば、お嬢様はお元気で?
聞く所、お嬢様。
薬を貰って体調を崩していて。
悪いのか? 大丈夫だという。
まあ、お大事に。
あまり酷い様なら言ってくれ。
俺も何か助けられるかも知れない。
と、屋敷を後にして。
少し歩いた所で思い当たった。
お嬢様は薬を貰って……
体調が悪くて薬を貰った、のではない?
薬を貰って、貰った。
その結果として、体調を崩した?
例えば、堕胎の為の薬か。
毒と呼ぶレベルの。
中世医学レベルの危険を伴う薬。
魔法か何かで発覚したのだろう。
盗賊に拐され、身籠った。
貴族社会だ。
安全より体裁を取る事もある。
内密に処理。
危険な薬を使ってでも、か。
探知魔法。
お嬢様の反応は……屋敷の3階か。
HP表示が最大値の6割程度。
代謝的な自然回復は止まっている。
解析。微弱ながら毒状態だと。
加えて、まだ妊娠の表示は残っている。
えー、あー……くそ。どうする。
家庭の事情に口を出した物か微妙だが。
このままで大丈夫か。容体が悪化したら。
フルトホーフェン邸に戻る。呼び鈴を。
怪訝な顔のデュプレーさんが顔を出した。
俺は口が堅い方だと告げる。
本当に、何かあったら相談して。
魔女協会に言ってくれても良い。
心配なら、俺の名前でも出してくれ。
貸しがある。
口の軽い魔女も秘密は守るだろう。
「そ、そんなご心配頂かなくとも。
神はきっと見守っておいでです。
お嬢様に落ち度なんてありませんもの。
お嬢様はきっと良くなります。きっと……」
本当に……そうである事を願うよ。
今度こそ屋敷を後にして。
魔女協会に戻る。
ジュリオはまだ座り込んでいた。
ロジェやバートが話し掛けている。
失敗した者同士だからかな、キースも。
ジュリオは何度か頷いていて。大丈夫かな。
移動するぞと告げる。
ようやく腰を上げるジュリオ。
まずは食って寝て、明日また頑張ろう。
トゥルチャまで飛んで野営の支度だ。
護衛に魔物隊や骸骨騎士団を交代で寄越す。
何かあったら引率に従って避難してくれ。
動き出すロジェ達を見送って、一息。
本当に、気がかりが多くて困るな。
戦争、食い扶持、子供達のレベル上げ。
戦いたくない子の仕事はどうするか。
野盗化する敗残兵、治安維持の問題。
ああ、そうだ。治安維持。
もう少し気を回しても良いかも知れない。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|