黒鷲の旅団
26日目（１）急患と銀甲冑

「あ、え……親父さん。
　何すか。何か」

　俺に気付いて振り返るロジェ。
　問題無いよ。続けていて。
　見回り半分、散歩半分だ。

　異世界側に意識を戻した。
　夜半過ぎ。トゥルチャ近傍。
　子供達の野営地。

　見張りの合間だろうか。
　剣を振るっていたのはロジェ。
　骸骨騎士団に稽古を付けて貰っていた。

「もう少し肉を付けた方が良いな」
「今の反応は良い。見込みがある」
「よし。そこだ。押して行け」

　盛り上がっているクラウスさん達。
　若者を指導するのは楽しいかな。

　ピエトロさんなどは妻帯者。
　息子を故郷に遺して来たらしい。
　生前もっと構ってやりたかったと。
　そうだな。アンデッド。
　もうみんな死後だもの。

　俺の見回り半分だが。
　ロジェ達の野営地は問題無さそう。
　天幕が幾つかと、篝火。
　交代での歩哨もしている。
　加えてトゥルチャの農村付近。
　魔物除けの影響下でもある。
　中小の魔物は通過して来られない。

　村を背に守って……
　そうだ、村は大丈夫かな。
　少し足を運んでみる。

「おおー、黒鷲殿も一杯どうだー？」

　村ではレイニさんがまだ起きていた。
　ケンタウロス、ヴィクトリエさんと晩酌。
　２人して深酒だな。
　意識がちょっと不明瞭。
　大丈夫か。随分と気分は良さそうだが。

　村の守りと人馬族のエース。
　両方の主力が酒を飲んでいる。
　大きな問題は起きていないか。

　聞きたい話もあったんだがな。
　配達屋の件とか
　それはまたの機会にしよう。
　２人共ろれつが回っていない。

　さて、俺も少し修練しよう。
　新魔法も少し考えておきたい。
　空きスペースを借りる。

　これまでの新魔法。
　毒と抵抗から抗血清魔法を作った。
　逆はどうだろうか。
　強化系から阻害系は作れるのか。

　節制活力、減退、節制の毒。
　あとは呪詛だとか……
　発動したのは疲労魔法ファティーグ。
　生命を傷つけずスタミナを奪う。
　地味な阻害魔法。
　殺したくない達人なんかに良いのかな。
　弱らせて捕らえるだとかに。

　遮光、結界、束縛。
　闇牢魔法ダークプリズン。
　光の差さない結界を形成する。
　対象を中に閉じ込める。

　着想はグレッグの水牢魔法から、
　しかし、何だ。
　思いつきで作ったが用途が分からん。
　日に当てたくない何かを保全？。
　そんな物、すぐには思いつかないが。

　まだイメージが幾つか。
　音が出るタイプ……明日にしよう。
　深夜だし、騒音は控えよう。
　寝ている子供達、村人達を起しても悪い。

　あとは鍛錬か。どうするかな。
　木々から簡単な的を用意。短剣類を投擲。
　投げたら転移魔法で回収する。
　投擲と対象武器スキル。
　それぞれ熟練度上げを狙ってみる。

　曲短剣チラニュム。
　一応刺さるけど狙い難い。

　波状短剣クリスは折れそう。
　投げるのを躊躇。

　投げやすいのは普通の短剣と。
　刺突短剣、小刀、片手斧。
　頑張れば、槍とか細剣ぐらい。

　どこぞのビデオゲームの真似。
　横向きに剣も投げた。
　回転させたが、思う様に刺さらんな。

『まだ起きているか？
　起きていたら』

　不意に通信。
　聞き慣れない女の声。誰だった。

　落ち合いたいと言う。
　どこが良いかな。
　ポータルでブカレスト。
　街の東門ではどうか？
　東は未登録、南門なら、という。
　分かった。すぐ向かう。

　出向いてみると、白銀の鎧甲冑姿。
　神殿騎士、じゃないな。
　アルビオンの一党。
　名前は確かアリアンリーズといったか。

　こちらに気がつくと、革袋？
　担いでいた袋を降ろす。
　中身は、女の子が１人。
　血の匂い。状態が悪いな。
　アザと骨折が複数。右足も無い。
　一応止血してあるが、かなり衰弱している。

「私の取り分だ。支払いは後で良い。
　夜明けまで持たなそうなので連れて来た」

　支払い。
　捕虜を奴隷商人より高く引き取る件。
　約束は果たすが、まず待ってくれると。
　取り急ぎ少女の処置に当たろう。

　鎮静、鎮痛、止血、浄化魔法。
　治癒、造血、活力魔法。
　整復、培養、いや、形成外科魔法。
　形成外科……が、対応時間切れだ。
　太腿辺りから斬られた足、を再生して。
　しかし、膝下少しの所で止まってしまった。

「ん、時間制限。
　もう少し急げば良かっただろうか」

　気にするアリアンリーズ。
　だとして間に合ったか分からんが。
　どうあれ、今夜来てくれて良かった。

　大分勝手が違うだろう。
　俺も義手だから分かるよ。

　支払いだが、相場の倍値と言った。
　しかし、相場がそもそも分からない。
　奴隷商と相談してからで良いだろうか。

　曰く、明日奴隷商人も連れて来るとの事。
　聞いた話で、大まかに５万前後だろうと。
　これが20人足らず。
　手間賃や何か付けたとして……
　まあ、払える額で収まるだろう。

「本当はもう少し居たのだがな。
　キルドラムのバカめ。
　何人か遊んで殺してしまった。
　仔細は……聞かん方が良いだろう」

　キルドラムが酷い奴なのは分かったとして。
　分からんのはこのアリアンリーズだ。
　兜で表情は見えないが、口ぶりは嫌そう。
　そう気が合わないだろうに。
　よく組んでいるな。

「奴はシャパリューの……いや。
　深くを語るほどの仲でもあるまい。
　買い取り、金だけは頼むぞ。ではな」

　踵を返すアリアンリーズ。
　首を突っ込むなという事だろうか。

　まあ、俺は俺で、この子のケアが先だ。
　余計な勘繰りは後回しだな……